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222、ボックス山脈 〜堕ちた神獣ゲナード

 なぜか、スキル『道化師』の変化へんげが勝手に解除されてしまったから、僕は再び、スキルを使おうとした。だけど、変化しない。


 木いちごのエリクサーを食べたばかりだから、魔力はストック分まで満タンなはずだ。僕のメンタルの問題だろうか。ジョブボードに触れて発動しようとしたけど、ジョブボードの表示ができない。


 どういうこと?


 マルクは、さっき、逃げようと叫んだ。見たことないほど、焦った表情をしている。


 テトさんが剣を抜いて、僕達の前に飛び出してきた。


「テト、やめろ。無駄だ」


 マルクにそう言われても、テトさんは、剣を向けてタイミングをはかっているようだ。


 僕には、さっきの声の主の姿が見えない。嫌な汗が流れてきた。



「半魔の子か、おまえはこちら側だな」


 姿なき声がそう言うと、テトさんは金縛りにあったかのように、動けなくなったようだ。


 すると、チビドラゴンが、僕の近くに移動してきた。


「チビ、変なバケモノだぞ」


「チビドラゴンさん、見えるの?」


「あまり見えないんだぞ。黒いんだぞ」


「黒い人?」


「ヴァン、見えてないんだよな。子竜にも見えにくいなんて……」


 マルクは、何かを放り投げた。強すぎる光に目が眩む。これって、閃光弾?


 何か黒い大きなモノ見える。魔物? いや、なんだか影のようにゆらゆらしていて、木々よりもはるかに大きい。湖の上に立っているのか。



「ほう、異界を照らす閃光弾か。だが、私には忌避効果などないぞ」


 えっ……異界? そういえば、二年前にこの近くの湖に来たことがある。あの場所は、キャンプ場だった。あのとき、異界の番人に遭遇したんだ。


 奴らが住むのは、影の世界だと言われていて、詳しいことはわからない。あのときは、ゴリラのような個体と、人のような個体がいた。ゼクトさんが、閃光弾を使って追い払ってくれたんだ。


 だけど、異界の番人は、話さなかった。足音は聞こえたけど……。ボックス山脈に棲む魔物を喰うんだよな? 基本的に人間は襲わないはずだ。


 そういえば、神の使いも居ると言っていたっけ。ゴリラと人型のどちらが神の使いかは、わからなかったけど。


 この『63』地区は、奴らのエサ場になっているのか。




 湖の上にいたバケモノは、閃光弾の光を手で遮っていたようだが、スーッと小さくなってきた。そして、完全に人の姿に変わった。異界の住人が、なぜ、世界の姿を持っているんだよ。


「まさか、ゲナード……」


 アラン様がポツリと呟いた。何、それ?


「ほう、私のことを知るのは、王宮関係者か、出入りする下僕くらいかと思っていたが……」


 奴は、湖の上をこちらに向かって、ヒタヒタと歩いてくる。


 すると、チビドラゴンは、奴に向かって炎を吐いた。だけど、湖の上で、炎はシュッと消え、奴には届かない。


「スキルも魔法も封じているのに、子竜に攻撃させるとは、驚いたな」


 えっ? 封じている?


「チビ、あの人間はコワイんだぞ」


 チビドラゴンが、頭を抱えている。この仕草は、僕が銀竜に化けたときと同じだ。きっと、心底、怖がっている。


 どうしよう。


 スキルも魔法も封じるなんてことが、できるのか? それって、まるで神様のような……。



 奴が手を動かすと、湖の中から、人工的な精霊イーターが、ぶわっと大量に出てきた。


「アイツが、精霊イーターを作っているのか……」


「ヴァン、奴は、堕ちた神獣ゲナードだ。50年前の神官家の戦争を引き起こした元凶だと言われている」


「えっ……」


「子竜が傷つけられたら、竜神様が出てくる。だから……」


 もしかして、マルクは、チビドラゴンを犠牲にしろって言ってるの? いや、言葉を止めたってことは、言えないってことだよな。だけど、そんなの……。


 すると、チビドラゴンは、僕達の前に立った。怖がっていたのに、どうして?


「チビ、ぼくは賢いから、わかるんだぞ」


 そう言いつつ、彼は震えている。


 ちょっ、そんなの、ダメだよ!



 ぶわっと向かってきた精霊イーターに、チビドラゴンは、炎を吐いた。だけど、数があまりにも多い。


 僕は、思わず、チビドラゴンの前に飛び出していた。


 竜神様! 力を貸してください! 変化へんげ阻害をなんとかして……。



 青白い奴らが目の前に迫って……。


 クッ、みんな、呑まれる。


 そう感じた瞬間、目の前は、黒く染まった。



 ギャーッ!



 おぞましい叫び声が聞こえる。


「な、何、これ」


 マルクの声も聞こえた。僕は、姿は変わっていない。チビドラゴンは、僕の背後にいる。


「ほへ?」


 僕の視界は、真っ暗だ。背後は普通に見える。だけど、湖の方を見ると、何も見えない。ただ、精霊イーターの叫び声が聞こえるだけだ。何? 閃光弾の光で目がおかしくなったのかな。



 ふわっと急に身体が軽くなった。


「テト、バリア!」


 テトさんが、みんなにバリアを張った。魔法が使えるようになったんだ。



「くそっ! こざかしい、悪霊が!」


 黒い何かに亀裂が入ったように見えた。


 ボムッ!!


 何かが弾け飛ぶような音がすると、湖は、見えるようになった。湖の上にいた奴は、ハァハァと肩で息をしている。


 何? 何が起こった? あんなに大量にいた精霊イーターは、完全に消えている。



「おまえ達、許さんぞ!」


 湖の上の奴は、目をつり上げ、こちらへと近寄ってくる。


「ヴァン、もう、スキルも魔法も使える」


 マルクの声に、僕は、スキル『道化師』の変化へんげを使った。奴を倒せるモノ。だけど……。


「マルク、変化へんげできない……。奴を倒せるモノがないのかもしれない」


「クッ、逃げる時間稼ぎなら……」


 マルクは悔しそうな顔をしている。僕も、倒せなくても、足止めができる何かに化けなきゃ……。



『はぁ、もう、いい加減にしてよね』



 聞き慣れない声が聞こえた。何? 念話?


「えっ? ぷぅちゃん?」


 フロリスちゃんの声に、振り向くと、天兎が光っている。


『フロリスちゃん、ちょっと待ってて』


 えっ? この声は、天兎の声?



 光る天兎は、少女の腕の中からふわりと浮かび上がり、そして、姿を変えた。人型だ。僕より少し上に見える性別不明な……超美形じゃないか。


 スタスタと、僕の横を通り過ぎ、天兎は、冷たい視線を奴に向けた。


「なんだ? おまえは……」


「うるせぇ、クズ神獣! オレの主人を怖がらせるとは、いい度胸だな。おまけにオレをこんな姿にさせるなんて、万死に値する。死ねや」


 天兎の手には大きな弓が現れた。すると、奴は慌てて、湖の中心へと戻り始める。


 シュッ!


 放たれた弓を、奴は片腕で防ぎ……いや、片腕が千切れて吹き飛んだ。すると、僕の目には、奴の姿が見えなくなった。だけど、再び、天兎は、弓を放った。


 すると、湖の上に、血しぶきが浮かんだ。



「くそっ、逃げやがった」


 超美形の天兎は、悔しそうに顔を歪めている。ちょっ……ぷぅちゃん、何者?


「ぷぅちゃん……?」


 フロリスちゃんが、そう呼ぶと、天兎は、光り……元の兎の姿に戻っている。


 そして、フロリスちゃんの腕の中に飛び込み、すりすりしているよ。な、何が起こったんだ?



「フロリス、これは一体、どうなっているんだ?」


 アラン様が驚きの表情を浮かべながら尋ねたが、少女も首を傾げている。マルクも、首を横に振っているし、テトさんは、放心状態だ。マーサさんは、地面にへたり込んでいる。


「ぷぅちゃん? いま、男の人になった?」


 だけど、天兎は、首を傾げ、知らんぷりをしている。いやいや、その知らんぷりは通用しないだろ。


「さっきの黒いのは……」


 フロリスちゃんが、そう言うと、天兎は、ハッとした様子でキョロキョロしている。そして……さっき、破裂したような黒い残骸をスゥゥ〜っと、吸い込んだ。


「えっ? ぷぅちゃん、変な物、食べちゃダメだよ」


 少女に叱られたからか、天兎は、ぺっと黒い毛玉を吐き出した。こぶしサイズの真っ黒な毛玉だ。


 うん? 毛玉じゃないな。天兎?


 黒い天兎のような何かは、なぜか僕に近寄ってきた。何か、言いたそうに、必死に僕の目の前で、地面をポスポス叩いている。


「何? ぷぅちゃんの子供?」


 天兎は、フロリスちゃんの腕の中で、ジト目だ。違うのか。わけがわからない。



 僕は、スキル『魔獣使い』の通訳を使った。



「あぶない、あぶない、危険」


「えっ? 何が危険なの?」


 問いかけても、黒い兎は、同じ言葉を繰り返すだけだ。こちらの話を理解させるには、従属を使うしかないか。


 僕は、スキル『魔獣使い』の従属を使った。僕の身体から放たれた淡い光が、黒い兎に吸い込まれた。


「ちょ、ヴァン、変なモノに従属を使うのは危険だ。術返しされたら、逆に下僕にされかねない」


 えっ……。



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