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217、ボックス山脈 〜まさかの護衛

「フロリス様、おはようございます。朝食後に、動きやすい服装に着替えていただけますか」


 フロリスちゃんに話しかけると、担当の黒服レンが、露骨に嫌そうな顔をした。気づかないフリをしておこう。


「あれ、ヴァン、どうしたの?」


「ぷぅちゃんも一緒にお出かけしましょう」


「どこに行くの?」


「それは秘密です。とても綺麗な場所ですよ。ぷぅちゃんのごはんがたくさんあります」


 僕がそう言うと、少女は目を輝かせ、目の前のスープを急いで食べ始めた。


 他の席から、様々な視線が突き刺さる。コソコソと食事の間から出ていく黒服もいた。やはり、マルクの言うとおりだな。



 僕は、昨夜、あれからマルクの屋敷に行ったんだ。そして、天兎の歌姫から聞いた話をして、ボックス山脈への同行を依頼した。


 ちょうど、マルクが、奥さんのフリージアさんから、木いちごのポーションを量産すべきだと言われているところに僕が訪問したものだから、彼女は二つ返事で許可してくれた。


 フロリスちゃんが一緒だから、木いちごのポーションを作る時間があるとは思えないけど……。



 そして昨夜は、借りたばかりの部屋に泊まり、今朝早くにファシルド家へとやってきたんだ。


 今朝は、旦那様が不在だったけど、バトラーさんに事情を説明すると、屋敷の兵を護衛をつけることを条件に許可してくれた。だけど、それは断ったんだ。代わりに、フロリスちゃんがよく知る誰かを同行させてもらうようにと依頼した。


 外出時は、フロリスちゃんも狙われる。だから、絶対に味方だという人じゃないとマズイと、マルクから教えられたんだ。





「ヴァン、久しぶりだな」


「えっ? アラン様!?」


 ファシルドの中庭、フロリスちゃんの部屋前で待ち合わせをしていると、懐かしい顔が現れた。彼は、いまや、ファシルド家の後継争いの中心人物だ。


「おい、様呼びはしない約束だろう?」


「そうでしたっけ。あはは。あの、フロリス様の護衛をしてくださるのですか?」


 さすがにファシルド家の中庭で、アランと呼び捨てにはできない。


「あぁ、さっき、バトラーから呼び出された。まぁ、今日は、ファシルド家に来る予定にしていたんだけどな。フロリスと天兎を連れて、どこに行く気なんだ?」


「用事があったのですね。すみません……。行き先は、ここではちょっと……」


 僕がチラッと中庭を見ると、聞き耳を立てていた黒服達は、スッと離れて行った。


「持ち物の準備も必要だから、教えてほしいのだが」


「それなら、僕の友達が全部揃えて来てくれるので、大丈夫ですよ」


「他にも護衛がいるのか」


「護衛というより、あの場所に行くための条件なんですよ。人間をあまり信用していないみたいだから」


 僕がそう言うと、アラン様は、ハッとした顔をしていた。何か、気づいたのだろうか?




「ヴァン、こんな服でいい? あっ、アラン兄様!」


 フロリスちゃんは、パァッと明るい笑顔を見せた。アラン様はかわいい妹の笑顔に、頬を緩ませている。


「フロリス、また大きくなったな」


「うん、ぷぅちゃんを守ってあげないといけないから、私、大きくなって強くならなきゃいけないの」


 天兎の力は、偉大だよな。あんなに虚ろな目をしていたやせ細っていた少女が、こんなにもしっかりとして。まだ、年齢よりは小さくて華奢だけど……母親の死を乗り越えて、頑張っている。


「そういえば、ぷぅちゃんも、大きくなったんじゃないか」


「そうなの。最近は、すんごくたっくさんのごはんを食べるの。ごはんが無くなったから、今から、ぷぅちゃんのごはんがたくさんある場所に行くの」


「そうか。俺は、そんな妹の護衛を仰せつかったぞ」


「ええっ!?」


 フロリスちゃんは、目をパチクリさせて驚いている。そして、顔が赤くなった。アラン様が、騎士流のお辞儀をしたためだろう。



 右手の手袋で、マルクの位置を確認した。うん、門の前に居るみたいだな。対になっている増幅のグローブだから、もう一つをはめているマルクの位置がだいたいわかる。こういうときには、便利だよな。


「友達が、門の前に着いたみたいです」


「じゃあ、行こうか。俺は、たいした装備はないが……」


「大丈夫です。鎧で固めるのも良くないと思いますし」


 フロリスちゃんは、可愛らしいリュックのようなカバンを背負っている。非常時に備えて、彼女にも持たせているようだ。


 そして、見慣れない女性が、少女の後ろに立っている。誰だろう? 結構、やり手の冒険者に見える。


「ヴァンさん、そんなに見ないでくださいよ」


「うん? その声……マーサさん?」


 すると女性は、ケラケラと笑った。いつもは、黒いメイド服だから、随分と雰囲気が違う。


「マーサも、付き添いをするんだって」


 フロリスちゃんが説明してくれた。まぁ、そうだよな。七歳の女の子を放っておける専属メイドはいないだろう。


 それに、フロリスちゃんの母親サラ様が襲撃されたときに、彼女はサラ様と一緒にいたと言っていたっけ。


 きっと、奥様を守り切れなかった後悔が強く残っているんだ。だから、フロリスちゃんのことは、何が何でも守りたいのだろう。




「マルク、お待たせ。紹介するね」


 門に移動すると、マルクは、テトさんと一緒にいた。フリージアさんが同行を命じたのかな。


「あっ、マルク先生!」


 なぜ、アラン様がマルクのことを?


「アランくん、やはりファシルド家の人だったんだね。あれ? マーサさん?」


 はい? マーサさんまで知り合い? マーサさんは、にこやかに会釈している。


「ヴァン、友達って、マルク先生のことか。テトさんも居るなら、護衛はいらないな。フロリス、一緒に守ってもらおうぜ」


 どういうこと? アラン様は、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。


「あはは、ヴァンが変顔してるよ。とりあえず、移動しよう。テト、検問所」


「かしこまりました」


 テトさんは、何かの詠唱をしている。すると、僕達を淡い光が覆った。





「わぁあ、お山がいっぱい〜」


 僕達は、いつも出入りする検問所に転移してきた。テトさんの転移魔法って、マルクが使う魔法とは少し違う。そういえば、ジョブは『緑魔導士』だったよね。補助魔法系に優れた魔導士か。フロリスちゃんがいるから心強い。


 ジョブ無しだったとか言ってた人がいたけど……理由は聞かない方がいいよな。でもジョブ無しって、魔物ってことなのかな。また、少し気になってきた。


「フロリス、検問所では、騒ぐ子供は帰りなさいって言われるぞ?」


「いけないわ。ぷぅちゃんのごはんを採りに来たのに」


 少女は、両手で自分の口を押さえた。ふふっ、かわいい。アラン様も、そんな妹がかわいくてたまらないみたいだ。



 検問所では、マルクが手続きをしてくれている。やはり、ドルチェ家という肩書きは、強いな。ドルチェ家の許可証を見せると、検問所の兵の態度がコロッと変わった。


「ですが、いまは、ボックス山脈はご存知のとおり、不安定なのです。さすがに小さな子供連れというのは……」


 うーん、通してくれないのか。確かに、今は、どこに偽神獣がいるかわからないし、趣味の悪い魔道具も仕掛けられている。


「だから、護衛つきなんだよ。ちょっと、ヴァン、こっちに来て」


 あ、呼ばれた。マルクは、僕の名前をわざと大きな声で言った?


「えっ、まさか、水の神獣を討った少年か」


 うん? あ、そっか。いま、検問所の兵は、王都から派遣されているんだっけ。じゃあ、ある程度、上から目線で話す方が良さそうだな。


「はい、たまたま、弱ってた偽神獣が目の前に現れただけですよ。えっと、通行を認めてもらえないんですか?」


「ヴァン、通してくれないから、従属に迎えに来させてよ。この付近がトカゲで溢れても、王都の兵は平気だよ」


 うん? マルクが変なことを言ってる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。ボックス山脈のドラゴンを従えているのか」


「はい。そのドラゴンのすみかに、遊びに行く約束をしてるんですよね〜」


 僕がそう言うと、兵は慌て始めた。僕が、この場所にドラゴンを呼ぶと思ったらしい。


「ど、どうぞ、お通りください。ただ、ボックス山脈では何が起こっても、自己責任ですよ」


 僕が、やわらかな笑みを浮かべると、兵はなんだかその顔を引きつらせている。いや、これは、ただの愛想笑いだけど。




「じゃあ、皆さん、こちらへ」


 検問所をくぐって、少し進んだ場所で、マルクは立ち止まった。アラン様は緊張しているみたいだ。初めて来たのかもしれない。


「ヴァン、従属達を呼んでよ」


 へ? 転移するんじゃないの?




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