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207、商業の街スピカ 〜転移魔法陣つき

 僕はいま、マルクに案内されて、彼の使用人が迷路と呼ぶ屋敷内を歩いている。左側には窓があり、右側が壁だけの通路だ。


 さっき歩いて来た通路のさらに先だ。マルクの屋敷は、三階部分の広場沿いを、通路でぐるりと一周できる造りになっているみたいなんだ。



「ここまでが、ゲストルーム。で、その隣が、ヴァンに貸す部屋だよ。三階が住居、二階は倉庫、一階と地下は店舗になってるよ」


「この壁って、どうやって通り抜け……へ? マルク、いま、何をしたんだよ?」


 通路沿いには、窓と壁しかなかったのに、突然、壁に扉が現れた。魔法? でも、発動する気配はなかったよな。


 マルクは、得意げな笑みを浮かべている。自慢したかったらしい。ふふっ、こういう所って、子供っぽいよな。


「鍵をヴァンに渡したからだよ」


「はい? もらってないよ?」


「部屋の中に入ったら、靴を脱いで、足の裏を見てみてよ」


「へ? 足の裏?」


 マルクは、ニヤニヤしながら、扉に触れた。カチャリと鍵が外れるような音がした。


「さぁ、どうぞ」


 マルクは、扉を開けた。


 扉の先はダイニングだろうか。マルクの屋敷の食事の間ほどではないけど、大きめのテーブルと椅子が置かれている。調理ができそうな小さなキッチンもある。さらに部屋が3つもある。もちろん浴室もある。


 ざっと見た感じだけど、リースリング村の僕の家よりも広いかもしれない。しかも、完璧に家具が揃っている。高そうな物ばかりだ。


 マルクは、少年のような笑みを浮かべて、僕を手招きしている。まだ確認していない、一番奥の部屋だ。


 中を覗くと……うん? 床に魔法陣のような模様が描かれている。


「あはは、ヴァン、何て顔をしてるんだよ。ぷはははっ」


「マルク、この部屋って……何? あ、ワープの部屋?」


「違うよ。ワープは、風呂に入っていてもできる。これは、転移魔法陣だよ。ヴァンは、転移魔法が使えないからさ」


 いや、入浴中にワープできても困るけど。


 僕がボーっとしていると、マルクは、ケラケラと笑った。悪戯が成功した子供のようだな。


「使い方は、移動先をイメージして、魔法陣に足を踏み入れたら、数秒後に転移するよ。魔力も必要ないから。事故防止のために、一方通行にしてある。ここには、外から転移して来られないから、安心していいよ」


「えっ? 魔力はいらないの?」


「転移魔法陣には、魔石を仕込んであるからな」


「すごい! もしかして、すべての部屋に設置してあるの?」


「いやいや、まさか。転移魔法陣は、屋敷の中ではここだけだよ。魔法陣を描くのって、結構大変なんだぞ」


 わざわざ、マルクが設置してくれたのか。


「そっか、ありがとう。えーっと、家賃って……高いよな?」


 恐る恐る尋ねてみると、マルクはケラケラと笑っている。


「今までのヴァン貯金があるから、百年くらいは無料で大丈夫」


「ひゃくねん? そんなに生きてられないだろ」


「ぷはははっ、そう言うと思った〜。あ、鍵が足の裏についてるか、確認してみて」


 マルクに促され、ソファに座って靴を脱いだ。このソファも高そうだな。


 うーん、足の裏には、鍵なんてついてないんだけど。でも、マルクは頷いている。


「ヴァンは右足かぁ。上手く渡せてよかった。この鍵は、屋敷内のすべてに使える万能鍵なんだ。ヴァン以外には、俺とテトが持ってる。ヴァンは、薬師だから、急病の対応をお願いすることもあると思う。よろしくねー」


「あー、うん、ここにいるときなら対応するよ。でも……」


「もちろん、この屋敷内にいるときだけでいいよ。一応、万能鍵を渡す理由が必要だからさ。テトは、この屋敷全体の管理を任せてるんだ」


 テトさんを信頼しているんだな。


「わかった。でも、鍵なんて見えないよ? ワープって、歩いてたら勝手に作動したりしない?」


「鍵は、魔力を流せば見えるよ。ワープは、自室と、食事の間と、広場の噴水前でしか発動しないよ」


 右足に魔力を流す? うーむ、僕には難しい。まぁ、いっか。それより、ワープのやり方がわからない。


「そっか。ワープって、魔道具があるんだよな?」


「万能鍵で、ワープもできるよ。右足をトントンとすれば発動するけど、選択肢が頭の中に浮かぶから、行き先を選ばないとワープできないよ。自室と、食事の間と、広場の噴水前しか選べないけど」


「難しく聞こえるけど……後で練習してみる」


 マルクは、満足げにニヤニヤしている。僕の反応が、予想通りだったのかな。




「じゃあ、下へ降りようか」


 マルクは、入ってきた扉とは反対側に向かっている。あっ、あっちにも、扉があるんだ。


 扉の外は、マルクの屋敷から繋がる廊下になっていた。ゲストルームまでがマルクの住居なんだな。ゲストルームと僕の部屋の間には、広い階段がある。マルクはその階段を下りて行った。


「この階段は、一階へも地下へも行けるんだ。使用人がよく使っているよ」


「へぇ、そっか。三階から二階へは外の階段しかないんだね」


「うん、二階と三階を繋ぐ階段は、秘密階段を含めても五つくらいしかなかったと思う」


 マルクは嬉しそうだけど、使用人さんからすれば、確かにこれは迷路だ。




 マルクは、一階から外の広場へ出た。右側が僕が借りた店だよな。店内は、ガランとしていて……一人の男性が居る。


「ルファスさん、お呼びですか」


「あっ、木工職人さん。あれ? テトが呼んだのかな」


「はい、この店の準備を頼まれました。薬屋ですかい?」


 薬屋には広すぎる。レストランができそうな広さだ。


「ヴァン、どうする? この広さで薬屋は厳しいかもな。あっ、ワインを扱う酒屋も作る?」


「かなり大きな酒屋になるよな。レストランができそうだけど……でも、それだと、大変か」


「この広場のまわりには、レストランは既にあるんだよな。それにレストランにするには狭いと思うよ。薬草屋でもいいかもな。いや、薬師を集めて、調薬をしてくれる店とか、どう?」


 マルクは、もともとそのつもりだったのかな。話の展開が少し強引だ。


「でも、薬師ってそんなに集まらないでしょ」


 すると、マルクはニヤッと笑った。やはり、企んでいたんだ。ふぅ、まぁ、気づかないフリをしておこうか。


「レミーさんが、ジョブ『薬師』だからさ。薬師の知り合いは多いと思うよ。薬師学校の卒業生の仕事場にしてもいいんじゃない?」


 なるほど。レミーさんから、頼まれたのか。


「マルク、それって、いつ思いついた?」


 少しの間があり……マルクは笑い出した。ごまかし笑いかよ。まぁ、いいけど。


「俺、この広場を、商業の街スピカで一番有名な場所にしたいんだよな」


 ドルチェ家のフリージアさんのためか。マルクは、フリージアさんが結婚してくれたことで、ルファス家を名乗ることができるようになった。マルクは、彼女の役に立ちたいのかもしれない。


 じゃあ、僕も力を貸さないとな。



「それなら、店の一部に薬草畑を作ろうか。扱いやすい薬草を植えておけば、面白くない? 店の前にも、プランターを置けば目立つよ」


「おぉぉ、すげぇ。そんな薬屋って、どこにもないよな」


 マルクは、目をキラキラと輝かせている。予想以上の反応だな。


「兄さん、店の中に畑というのは、難しいですぜ。床が腐っちまう」


「大丈夫です。僕の生まれ育った村は農業で生計を立ててるんですよ。毒の沼地の上にも畑が作れます」


「へぇ、そりゃ面白い! そんな店作りは初めてだ」


 木工職人さんも、目を輝かせた。なんだかマルクと、感覚が似ているのかもしれない。



 彼と話し合いながら、店のレイアウトを決めていった。半分以上が、薬草畑になる。僕は、農家の技能を使って、決めた床に、養分の膜を張った。そして、その上に土を生成した。


「うほっ、不思議な魔法だな。初めて見たぜ」


「農家の技能ですよ。水を撒いても、床には染み込みませんから、安心してください」


「ヴァンが張った結界は、水を通さないってことか」


 結界じゃないんだけどな。よくわからない。


「養分の膜なんだ。過剰な養分を吸い込み、土壌が痩せてきたら養分を放出する役割がある。結界ではないと思うけど」


「へぇ、めちゃくちゃ便利じゃないか」


 マルクは、土をパンパンと叩いている。何の確認だろう?



「兄さん、二階はどうしますかい?」


 奥の階段を上がってみると、やはり、ガランとした広い部屋だった。そうだなー、薬師学校の卒業生がここで働くなら、休憩室が必要か。


「二階は、店で働く人達の休憩所がいいかな」


「ほう、じゃあ、女子が喜びそうな部屋にしてやるよ」


 はい?



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