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204、商業の街スピカ 〜裏ギルドで、モテ期到来

 僕は、上を見上げた。高さは3メートルくらいか。絶対に飛んでも届かないし、浮遊魔法は使えないし、あんな飛び道具も持っていない。


 仕方ないな。


 僕は、スキル『道化師』の変化へんげを使った。この高さを飛べるモノ……ビードロしか思い浮かばない。あの穴から入れる大きさじゃないといけないから、質量は最小でいこう。


 ボンっと音がして、視点が低くなった。小さすぎたか。だけど問題はない。僕は、軽く跳躍した。


 スタッ。


 ふふっ、余裕で上がれ……うげっ。


「なぜ、こんな所に、ヒョウの化け物がいるんだ!」


「殺せ!」


 僕は、素早く攻撃をかわした。へぇ、ビードロって、こんな感じなのか。逃げることに特化すれば、攻撃魔法が使えない室内では、余裕だな。


 ボックス山脈では弱いと言われる魔物だけど、街の近くにビードロがいたら、きっと討伐隊を組まれるだろうな。だから、裏ギルドの人達でさえ、こんなに焦ってるんだ。



「やめてくれ! 俺の連れだ」


 テトさんが叫んだ。彼には、僕だとわかるのか。クリスティさんは、キョトンとしている。彼女にはわからないらしい。いや、混乱しているようだ。


「なぜ、ちっちゃなビードロに、ジョブがあるの?」


「魔物なのに、魔獣使い?」


「魔物だから、魔獣使いなんじゃねぇか。いや、待て。魔物にジョブはないだろ」


「人間なのか?」


 はぁ……逆に目立ってしまった。まぁ、いいか。この姿なら、僕の顔は見られない。


「僕は、人間ですよ。地下通路から上がる方法が、これしか思いつかなかったんですよね〜、あはは」


「うわぁ、ヒョウの化け物がしゃべってる」


「なんだ、半魔か。びっくりさせやがって」


 道化師の技能だとは、誰も気づかないのか?


「ビードロと人間の半魔? まだ子供ね。うふっ、かぁわいい。頭の毛がふわふわじゃない」


「何なに? 小さなビードロ? 可愛すぎるんだけど〜」


「いや〜ん、ふわふわでモフモフだわ〜。赤ん坊なのぉ?」


 なんだか、囲まれた。


 今日はギルド内には、女性が多い。あちこち触ろうとするから、僕はピョーンと跳躍して逃げた。だけど、裏ギルドに出入りをする人達の動きも速い。


「ダメよ、怖がってるじゃない。オバサンは下がりなさい」


「アンタの方がババァだろうが」


 また、囲まれた。どうしようかな。



「ちょっと、いつまでビードロの姿をしてるのよ? 人の姿に戻りなさいよ」


 クリスティさんが、なぜかキレた?


「ダメよ、せっかく、こんなに可愛いのに。はぁぁ、癒されるわぁ〜。坊や、こっち向いて〜」


「こんなに小さいのに、お尻の曲線がいいわね〜」


「ちょっと! この子を変な目で見るんじゃないよ、エロババァが!」


「はぁ? アンタ、死にたいみたいだね」


 うわぁ……どうしよう。裏ギルドって、とんでもなくガラが悪いよな。元の姿に戻ると、僕が殺されそうだ。


 だけど、うん? 僕が視線を向けると、女性達は、ふにゃりとした笑みを浮かべる。ここ、裏ギルドだよね? えーっと、なんだか……。


 あっ、そうか。ビードロは、魅了持ちなんだ。別の人でも試してみるか。


 ただ、視線を向けても何も起こらない。だけど、ジッと見つめると、男性でも頬を緩める。


 へぇ、面白いな。じゃあ、この騒ぎを止めるのは簡単だ。



「あの……お姉さん達、ケンカしないでほしいです」


 僕は、彼女達をジッと見つめてそう言ってみた。うん、効いている。


「あらら、坊やが悲しそうな顔をしているわ」


 ビードロの表情がわかるのか? 


「ごめんなさいね。怖かったわね」


 ケンカしていた女性二人は、ふにゃりとした表情で僕の顔を覗き込んだ。ビードロがやるように、頭を縦に少し振ってみた。


「いや〜ん、かわいいわ。どうしましょう。連れて帰りたぁい」


「は? アンタねー、半魔は、ペットじゃないわよ」


「ビードロの半魔って、こんなにかわいいのね。私もビードロの子を産みたい」


「それなら、この坊やとの子供の方がかわいいんじゃない?」


「は? アンタ、何を言ってるのよ? 半魔の子は、人間の姿になるわ。せいぜい尻尾か何かがあるくらいよ。こんな風に、魔物化できるわけないでしょ」


 へぇ、そうなのか。


「坊やのパパは、ボックス山脈にいるのかしら? ママかしら?」


 僕は、首を傾げておいた。


「きゃーっ、かぁわいい〜」


 なぜだろう……人生最大のモテ期が到来している。




 クリスティさんは、冷たい視線を向けていたが、彼女達を相手にする気はなさそうだな。今は、壁に貼ってある依頼票を眺めている。


 ビードロに化けていると、こんなに離れた場所からでも、壁に貼ってある依頼票がよく見える。ビードロって、こんなに視力がいいのか。


 僕に関する依頼は……うん、ありそうだな。


 ジョブ『ソムリエ』の14歳の男を捕まえてくれ。

 薬師スキルの高い、ジョブ『ソムリエ』の少年を捜せ。

 精霊師のスキルを持つジョブ『ソムリエ』を捕まえろ。


 どれも、僕のことだろう。同じ依頼なのに、報酬が違う。依頼主が異なるためか。高いものだと、金貨1枚なんだな。


 クリスティさんは、その横のボードにも視線を移している。難易度が高いミッションか。ほとんどが暗殺依頼だな。


 えっ……僕の暗殺依頼もあるじゃないか。


 神獣を討とうとする背神者を暗殺せよ。ジョブ『ソムリエ』、闇の精霊使い。


 これって、僕のことだよな? 背神者って何だよ。報酬は、言い値? どういうこと?


 すると、その貼り紙を、クリスティさんがはがした。そして、受付カウンターに持って行ってしまった。


 ちょ、僕を暗殺する依頼を受注する気かよ?



「これって、言い値ってほんと?」


「あの、失礼ですが、この依頼は、非常に難易度が高くなってるんですよ。ほぼ毎日、誰かが受注すると言ってくるんですけどね〜」


「この依頼者は、いくら出すの?」


「お嬢さんには、ちょっと……えっ!? す、少しお待ちください」


 クリスティさんが、光る物を見せた。一瞬だったけど、ビードロの視力は、それを正確に捉えていた。厚みのある四角い板状の物だ。手で隠されていたけど、おそらく彼女の身分証か、もしくは裏ギルドのランク証か。


 受付の職員さんは、何かの書類を見せている。



「ちょっと、あの女、坊やの連れだという男と一緒にいるけど、何者なのよ」


「特殊依頼を受ける気かい。金の亡者だな」


「あの女、ジョブ『暗殺者』だから、調子に乗ってんじゃないか?」


「親が暗殺稼業をしていると、高い確率で子供のジョブは『暗殺者』になる。だからって、調子に乗ってたら、すぐに死ぬぜ」


 彼女が暗殺貴族だとは気づいてないんだな。


「ソムリエの少年の件なら、無理だぜ。あの狂人を護衛に雇っているらしいからな」


「薬師だからって、狂人を雇い続ける資金力はないだろ」


「報酬は、ポーションやエリクサーで払ってるんじゃないか? 上級薬師らしいぜ」


 薬師スキルは、上級じゃないんだけどな。


「それなら、納得だな」


 僕は、ゼクトさんに護衛されていることになっているのか。確か、前に来たときには、一週間だけ護衛するってゼクトさんが言っていた。それが、長期契約だと思われているのか。


 ゼクトさんは、それを狙って、あんなことを言ったのかもしれないな。だから、誰も受注しないんだ。



「は? なぜ、これで金貨1000枚が報酬上限なわけ? みみっちいわね。依頼主は、誰よ?」


 ええっ? 金貨1000枚!?


 クリスティさんは、大声で叫んだ。僕みたいなガキの暗殺報酬としては、破格すぎるんじゃないのか? 暗殺の相場は知らないけど。


「依頼主は、お教えできません」


「ふぅん、FZ4651。王都ね。だいたいの察しはついたわ」


 何の暗号?


「それは、ただの書類番号です」


 職員さんがそう言ったけど、クリスティさんは鼻で笑ってる。書類番号に、何かの暗号が仕込まれているのだろうか。


「このターゲットの暗殺なら、この10倍は出すことね。話にならないわ」


 よかった。クリスティさんは、情報を入手するだけのつもりみたいだ。


「ふふん、あんなお嬢ちゃんには、特殊依頼は無理よ、無理」


「冷やかしたいお年頃なんだろ? ガハハ」


 裏ギルドにいた人達が、彼女のことを馬鹿にしている。なんだか、嫌な予感がする。


 彼女は、クルリとこちらを向いた。そして、さっき、職員さんに見せていた光る物を、印籠かのようにみんなに見せている。


「うぐっ……やべぇ」


「レジェンドだ……」


 何、それ? やはり、裏ギルドのランクか。


 シーンと、静まり返った。裏ギルドの全員が警戒しているのがわかる。


「はぁ、もう、顔バレしたくなかったのにな。帰るよっ」




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