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203、商業の街スピカ 〜なりきりジョブを知らないらしい

「ヴァンさん、私の素性をどうやって知ったの?」


 やはりそうか。彼女は、レーモンド家の名を名乗れるジョブ『暗殺者』。デュラハンが言っていたように、当主の娘か、もしくは実力者ってことだよな。


「そうかなって思っただけです。お嬢様っぽいというか、貴族っぽいから」


「ふぅん、そうなの。だけど、お仕置きが必要かも。先生には、家の名を教えていなかったのよね」


 なるほど、だからレミーさんは固まっているのか。でも、クリスティさんは、僕に名前を言わせようと仕掛けたよな?


 ここで下手したてに出てはいけない。僕は、そう感じた。


「そうでしたか。同じパーティなら、隠し事は良くないですよ」


「あら、貴方は、青ノレアの人達に、すべてを明らかにしているのかしら」


「青ノレアは、大きなパーティだから、顔さえ知らない人が多いんですよ。でも、行動を共にする人には、隠し事をしているつもりはないです」


「ふふっ、私がお仕置きって言っても、怖がらないのね」


 彼女は、何かをする気なのか? マルクが警戒したのが伝わってきた。レミーさんは無言だ。彼女が一番怯えているのか。


 どうしようかな。たぶん、彼女は僕を試している。


「お仕置きされるようなことはしてませんよ? ただの『暗殺者』より、レーモンド家だとわかる方が、きっとレミーさんも安心されます。レーモンド家なら、王宮の命令でしか動かないですよね」


「先生は、固まっちゃったわよ。どうしてくれるのよ」


 ふぅん、どうすればいいか、わからないのか。


「黙っていてごめんなさいって言えばいいんじゃないですか? それとも、貴女は貴族だから、ジョブ『薬師』に謝ることは難しいですか」


「難しくないわよ」


 僕からぷいっと顔をそらすと、クリスティさんはレミーさんに近寄って行った。レミーさんは、少し動揺している。


「先生、ごめんなさい。そのうち話そうと思ってたけど、先生がレーモンド家を怖がってたから言えなかったの」


 わっ、素直に謝ってる。


「そ、そう。驚いたわ」


 レミーさんは、返事はしたけど、まだ動揺が収まらないらしい。少し時間が必要か。


 でもクリスティさんは、そんな彼女の様子に、苛立ち始めている。しばらく、二人を離す方がいいよな。



「マルク、僕、ちょっと裏ギルドに行ってみるよ。クリスティさん、案内してくれませんか?」


「ちょ、ヴァン、何を言ってんだよ」


「マルクは、レミーさんとここで待ってて。すぐに戻るから」


 僕の考えが伝わったのか、マルクは、うーむと唸り、そして、誰かを呼んだみたいだ。念話の魔道具か。マルクが背を向けて、無言になった。通信中なのだろう。



「テトって、何者なの?」


 彼女は、念話の傍受か。テトさんは、マルクにずっとついている黒服だ。マルクの専属じゃないって言ってたけど、ルファス家にいる彼を呼んだのか。



「坊ちゃん、私は忙しいのですが」


 テトさんが現れた。ここのワープの魔道具を持っているのかな。僕達がいることに気づき、彼は軽く会釈をした。だけど、黒服ではない。カラサギ亭に出入りするような、少しガラの悪い雰囲気だ。


「ヴァンが裏ギルドに偵察に行きたいんだって。ジョブ『暗殺者』の彼女と二人で行かせるのは不安だから、テトは護衛でついて行って」


 テトさんは、クリスティさんをチラッと見て、少し警戒したみたいだ。


「かしこまりました。彼女はいいとして、彼の素性は隠さないと危険だと思いますよ。私では、あんな場所で守りきれません」


 やはり、僕の捕獲依頼が出ているのか。


「裏ギルドに出入りする人達って、本人識別に使うのは、ジョブかな?」


「ジョブサーチと戦闘力サーチは、ほとんどの奴らができるでしょうね。あと、ごく一部ですが、スキルサーチ。まぁ、スキルサーチは、何か魔道具を使っていれば妨害できますけどね」


 テトさんの説明に、少しバカにしたような、冷ややかな目を向けているクリスティさん。


「スキルは、警戒スキルしか見ないわよ。自分が上か下かを見極めるだけよ。ヴァンさんの場合は、何もないわ。だけど、私では殺せないのよね。なぜかしら」


 クリスティさんが怖いことを言っている。天然っぽいお嬢様の口から、そんな言葉が出てくると、背筋が凍る。


 もしかして、彼女が僕に興味を持っている理由はこれか。きっと彼女の方が僕よりも圧倒的に強いんだろう。それなのに殺せない? 暗殺の難易度か何かの技能か。その原因が知りたくて、レミーさんについて来たと考えると納得できる。


「それは、ヴァンが精霊師だからだよ」


「精霊師? ふふっ、精霊封じを使えば、何の妨げにもならないわよ」


 彼女は、マルクにも冷ややかな視線を向けている。なんだか、一触即発なピリピリとした雰囲気だ。


 はぁ、貴族同士って、大変だな。


 これでは、ますますレミーさんが彼女に怯えてしまう。対等でいられなくなると、彼女はレミーさんを消してしまうんじゃないだろうか。そんな危うさを感じる。



「じゃあ、ジョブを変えればいいんですね」


 僕は、明るい声でそう言った。クリスティさんは、怪訝な表情だ。ふぅん、知らないのか。まぁ、暗殺者と道化師って、真逆な雰囲気だもんな。


「何を言ってるの? 死んで蘇生する気? 誰も蘇生魔法なんか使えないでしょ」


 反論するクリスティさんに、僕は軽く微笑んだ。



 そして僕は、スキル『道化師』のなりきりジョブの技能を使った。


『ジョブボードを表示して、なりきりたいものを選択してください』


 あっ、そっか、ジョブボードを使うんだっけ。うーん、何にしよう? ジョブボードを表示し、『魔獣使い』に触れた。


『最長有効期限は、今から12時間です。エンジョイしちゃってください』


 身体の中をピリピリとした何かが駆け巡った。ジョブボードでは、有効時間の表示のカウントダウンが始まった。



「うっそ……ジョブが変わったわ」


「テトさん、これで大丈夫でしょうか。僕は、ジョブ『ソムリエ』だと知られているので……」


「はい、大丈夫です。それは一体、何のスキルですか? あっ、変化へんげの一種ですか」


 マルクから、僕がドラゴンに化けることを聞いているんだな。だけど、クリスティさんには、知られない方がいい。僕は、あいまいな笑みを浮かべておいた。


「ヴァン、見た目も変える方がよくないか?」


 マルクは、デュラハンの加護を強めろと言っているんだな。だけど、あの姿は、裏ギルドだと逆に目立つような気がする。


「この顔の方が、知られていないと思う」


 そう返答すると、マルクはハッとした顔をしている。僕がまとう、まがまがしいオーラを思い出したかな。





 テトさんに案内される形で、クリスティさんと共に地下通路へと入った。ここでは、話してはいけないんだよな? 前に、ゼクトさんがしゃべるなと言っていた。


 それなのに……。


「へぇ、スピカの地下通路って、かなり大きいわね。他の街って、地下水路と兼ねてたり、狭くて臭かったりするのよね」


「王都ほどではないと思いますが」


 テトさんは、小声で返事をしている。クリスティさんの声は、通路に反響して大きな声に聞こえる。絶対、いろんな所に聞こえるよな。


「通行人も結構いるのね。あれ? 招かれざる人も平気な顔して歩いてるじゃない」


 ちょ、ケンカを売ってる?


 すると、何人かが地下通路に下りてきた。テトさんは、身構えた。だけど、クリスティさんは平気な顔だ。


「今の話をしていたのは、お嬢さんか。招かれざる人というのは?」


「うん? あの人達よ。スピカに、なぜレピュールがいるのかしら。しかも、地下通路を通らせるなんて、どうなってるの?」


 彼女が指差した人達は、慌てて走り出した。上から下りてきた人達は、その彼らを追っていった。剣の音が聞こえる。


「地下通路では、話はしない方が……」


「ふふっ、そうね。貴方は黙っている方がいいわ」


 なんだろう……彼女は、地下通路だとテンションが高く、強気だ。はぁ、天然なのか、わざと挑発しているのかはわからない。


「騒ぎになると、通行できなくなりますよ」


「そうね。上から監視者がバンバン下りてくるわね。スピカの方が、王都よりも、対応は素早いみたい」


 試していたのか。


 テトさんは、ため息をつき、立ち止まった。


「到着しました。上へは、自力で上がってください」


 そう言うと、テトさんは壁のボタンを押し、ふわりと浮遊魔法を使って、入っていった。


「ふん、生意気ね」


 クリスティさんは、何かの飛び道具を投げ、入り口に引っ掛けて、スッと上がっていった。


 ちょ、僕は……どうすんだよ!



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