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20、山間の荒野 〜大量の敵に狙われる妖精

「うわっ、ちょ、何これ」


 マルクの浮遊魔法で川を越え、降り立った場所には、大量の犬のような精霊イーターが集まっていた。


「ヴァン、無視すればいいよ。コイツらから俺達を襲ってくることはないから」


「うん、だけど、とんでもない数だからさ」


「上空から見えていただろ? コイツらは、その時が来るのを待っているんだよ」


「怖くてそれどころじゃなかった」


 僕がそう言うと、マルクは驚いた顔をした。いやいや、普通に怖いって。木に登るなら、どんな高い木でも平気だけどさ……足がつかないって、すんごく怖いんだけど。



「この畑は、かなり広いな。真ん中に、バリケードのような草木の密集している場所があった。あの中に妖精が隠れているんじゃないかな」


「えっ? ぶどう畑の中に、草木の密集地?」


「俺にはそう見えたけど、よくわからない。ここからは、ヴァンのテリトリーだろ。さ、行こうぜ」


 マルクは、スタスタと歩き始めた。その密集地に向かっているのかな。



 しかし……これはひどい。見える範囲すべてだな。



「なんか、この辺、変な臭いがするよな」


「うん、ぶどうの木が腐っているんだ」


「腐っている? 普通の木に見えるけど?」


 マルクがそう言うから、僕は、近くのぶどうの木を軽く叩いた。すると、ポキリと簡単に折れた。スカスカだな。


「たぶん、この付近のぶどうの妖精さんが、精霊イーターに喰われたんだ。もう、この付近の木が実をつけることはないよ。根もほとんどが腐っているから、雨季に入ったら雨に流されてしまう」


「妖精が喰われると、こうなるのか」


「こうなったから、妖精さんは喰われたんだよ。村を襲撃した魔物が撒き散らした何かのせいだね」


 畑のあちこちを、犬のような精霊イーターがうろついている。あんな奴らに踏みにじられて、ぶどうの木も辛いだろうな。


 おまけに、雑草もすごい。畑の中がこんな雑草だらけだなんて……。あぁ、一応、集めておこうかな。


「マルク、ちょっと、アリアさんの依頼の毒薬草を集めるよ」


「ん? 畑の真ん中を見に行ってからでもいいんじゃないか?」


「あるときに集めておかないと。神官のリーフさんから、既に報酬代わりに魔法袋をもらっているからね」


 僕は、装備していた魔法袋を外して、マルクに見せた。


「えっ? 装備すると消えるのか」


「うん、そうなんだよ。外していると、普通の布袋にしか見えないんだけどね」


「ちょっと待てよ。毒薬草摘みくらいで、こんな物をくれるか? 透明化以外に機能は? 容量は?」


「ん? 別に透明化だけじゃないかな? 1000キロの魔法袋なんだ」


「えっ!? それ、ちょっとおかしくないか? 買うと金貨2〜3枚だぜ。毒薬草摘みの報酬は銀貨1〜2枚だ。百倍以上の報酬ってことだ。まさか、それをくれた神官って、あの女の関係者か?」


「アリアさんの妹さんの旦那さんらしいよ」


 僕が、再び魔法袋を装備しようとすると、マルクがそれを制した。


「ん? 何?」


「忠告がある。まだ装備するな」


「へ? どうしたの?」


「ヴァン、何も知らないだろうから言っておく。神官は、自分の損になるような施しはしない。特にトロッケン家はね。だから、何か裏がある。気を付けろよ」


「どういうこと?」


「魔法袋は、装備すると、いろいろな機能が使えるようになるだろ?」


「いろいろって……物を収納したり出したり?」


「俺があげた魔法袋は、装備すると結界バリアが作動する。普通は外すと効果は消えるんだけど、ロックされるという特殊仕様だ」


「あ、うん。ありがとう。すごく助かる」


「いや、話はそこじゃない。そういう機能を備えると容量はせいぜい10キロなんだ。でも、それが1000キロの容量があるなら、ヴァンの魔力だけでは維持できないと思う」


「えっ? そんなに魔力を消費するの?」


「ただの魔法袋なら、たいして消費しない。でも、それは、透明化の機能が付与されているだろ? 特殊な効果が付与されると、ガツンと魔力を消費するんだ。だから、容量は10キロ程度にしないと、魔法袋のせいで魔力を消耗することになる」


 難しくて意味がわからない。僕が首を傾げると、マルクは苦笑いをしている。


「たぶん装備すると、それを作った人に繋がるんだ。誰かが善意で、魔力を補填するために繋げてくれると思うか?」


「えっ……」


 リーフさんは、完全にアリアさんの言いなりみたいだったな。魔法袋をくれた経緯にも、不自然さがあった。


「よくあるのは、中身を盗まれることだ。その魔法袋には、本当に大切なものは入れない方がいい。次に多いのが、魔法袋自体が盗聴機能を持つこと。他にもいろいろあるからさ」


「だからマルクは、装備する前に、って言ったんだ」


「あぁ、気をつけろよ。俺達、変なこと話してないよな?」


「えっと……ハンターを利用しようってことくらい?」


「あー、まぁ、いいか。そんな話には神官は興味を持たないだろうしな。あまり長い時間外していると疑われる。そろそろ装備していいぜ。透明化するってことは、誰にも見えないからサーチもされない。ほぼ 100パーセント盗聴されているぞ」


「わ、わかった」


 僕は、リーフさんの魔法袋を装備した。そうだよね、きっと狙いがあるんだ。それが何かわかるまでは、気づかないフリをする方がいい。




「よし、じゃあ、毒薬草を集めるか。と言っても、俺にはどれが毒薬草か全くわからないけど」


「マルク、それは僕がやるから大丈夫だよ。たぶん、農家の技能かな?」


 僕は、見える範囲のぶどう畑の雑草の中から、毒を持つ草を選別した。よし、これでいい。そして、根こそぎ収穫の技能を使った。雑草を抜く魔法なんだ。


 毒草は、スッと引き抜かれ、僕の足元に集まってきた。


「うぉっ、ヴァン、何その魔法? おもしれー」


「畑の雑草を処分するための魔法なんだ。毒を持つ草だけを選別して引き抜いただけだよ」


 僕は、足元に集まった毒草を、リーフさんの魔法袋へ収納した。毒薬草ではないけど、毒を抽出して毒薬を作るなら、これで問題はないはずだ。


 毒薬草は、毒草よりも毒が強い。でも、毒草からでも毒薬は作れる。少し効率が悪いが、それでいい。アリアさんに大量の毒薬草を渡すということは……やはり悪い想像しかできないもんね。


「なんだか地面が、少しスッキリしたな」


 マルクは、毒草を引き抜いた跡をポンポンと踏み固めている。何をしているんだろう? なんだか楽しそうだけど。


「うん、確かに。この調子で、どんどん引き抜いていくよ。畑のためにもなるし」


「じゃあ、俺は、土踏み係をするぜ。踏むとなんだか快感なんだよな」


「別に踏まなくてもいいんだけど?」


「どうしてだよ、元に戻す方がいいじゃないか」


 マルクは、遊びをとがめられた子供のような顔をしている。うん、これがいつものマルクの顔だ。


 僕達は毒草を引き抜きながら、畑を進んでいった。




「うわっ、何これ」


「言ったじゃないか。バリケードのような草木の密集地……じゃないな。何これ?」


 ぶどう畑、二面分くらいの場所を囲むように、緑色の何かが生えていた。しかも、ウネウネと動いている。気味が悪い植物だ。


 その植物は、近寄ろうとする犬のような精霊イーターを威嚇しているようだ。精霊イーターが近寄ると、真っ赤な気味の悪い花がブワッと開くんだ。花粉を撒いているのかな。精霊イーターは、何かを浴びるとヨロヨロと離れていく。


「ヴァン、これ、たぶん、妖精の魔法だぜ。弱い精霊のチカラを感じる」


「えっ、そんなことをしていたら、余計に消耗するじゃないか」


 どうしよう。この付近にいる精霊イーターの数は、百体どころじゃない。追い払うなんて不可能だ。


 あ、マルクは、ぶどうのエリクサーを食べた。マルクは、やる気なんだ。でも、ちょっと待った。


「マルク、まだ仕掛けないで。百体以上いるよ」


「ここの精霊イーターは、ガードが甘いんだ。たぶん妖精が何かしているから、魔法は多少効きそうだ」


「でも、ちょっと待って。妖精さんと話すのが先だよ。バリケードの中に入れないかな?」


「中の様子が見えないから厳しい。外から話せないのか?」


「声が全く聞こえないんだ」


「完全に封鎖しているのかもしれないな。だとしたら入れない。こじ開けると、妖精のバリアを消し去ることになりかねないよ」


 だよね。そんなことをしたら、一斉に精霊イーターが飛び込んでしまう。だったら、仕方ないか。今は所有する人がいない畑だから……許可を得ることもできない。


「じゃあ、マルク、僕が乗っ取るよ」



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