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14、リースリング村 〜同級生のマルク・ルファス

「マルクさんは、ヴァンちゃんの同級生なんだってね。いつもお世話になってありがとうね」


「いえいえ、こちらこそですよ〜。わっ、このパン、美味しいですね。ぶどうパン?」


「ウチの畑のぶどうなんだよ。よかったら、お夜食に持っていくかい?」


「是非!」


 なぜかマルクが、ウチで晩ごはんを食べている。婆ちゃんの焼くぶどうパンは、確かに美味しいんだけど。


 マルクは、村の見回りを依頼された冒険者だと、自己紹介をしていた。家のことは言いたくないんだな。貴族だと言うと、たぶん気を遣われるからだよね。


 さっき、アリアさんはマルクのことを、ルファス家の坊ちゃんと呼んでいたけど、村長様はそのことを知らないらしい。


 アリアさんが何を考えているのか全くわからないけど、マルクが言うには、敵視しているか、取り込もうと狙う相手には、トロッケン家の神官だと名乗るらしい。


 彼女が敵視しているのは、魔術系の有力な貴族だそうだ。だから、僕の場合は後者、つまり、下僕にしようと狙われているんだって。


 はぁ、なんだか人間関係が複雑すぎてドロドロしてそうで……はぁぁ、気が重いな。




「ヴァン、見回りについてくるだろ?」


 マルクは晩ごはんを食べたら、見回りをする気になったのかな。さっきまでは帰ると言っていたのに。


「僕が? どうして?」


「だって、俺、今日初めてこの村に来たからさ〜、畑が広すぎて、村の中で迷い子になるかもしれないじゃないか。お願いだよ、ついてきてよ」


 出た! マルクのお願い攻撃!


 魔導学校でも、いつもすぐ誰かに、手伝わせたり任せようとするんだよね。別にマルクは魔法が下手なわけではない。逆に、クラスの中でもトップクラスなんだ。なのに、いつも自信なさそうなんだよな。


「マルクはすごく優秀な魔導士なのに、どうしていつもそんなことばかり言ってるんだよ。もっと自信を持ってよ」


「無理!」


「どうして? この村に入り込む魔物なんて、家畜を狩る弱い魔物だし、マルクなら絶対に余裕で大丈夫だよ」


「無理!」


 うーん、こうなるとマルクは、頑固なんだよね。


「理由があるなら教えてよ」


 僕がそう言うと、マルクは一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、首を横にふるふると振っている。



「ヴァンちゃん、一緒に見回りに行っておいで。確かに夜の畑は、方向がわからなくなるから、案内がいる方がいいよ」


 ぶどうパンを紙袋に入れて持ってきた婆ちゃんが、そんなことを言っている。うーん、まぁ、確かに。でも、マルクは迷い子になんてならないよ。転移魔法を使えるんだから。


 だけど、ここまでのガッツリ無理モードに突入したマルクは、眠らないと気分が変わらないことを僕は知っている。仕方ないなぁ。


「婆ちゃん、わかった」


「ヴァンちゃんの分のパンも用意しようかね」


「うん。僕は、魔法袋を取ってくるよ」


「ヴァン、その魔法袋なら、まだパンを入れる空きぐらいあるだろ?」


「あっ、そっか。魔法袋って重さを感じないから忘れてたよ」


 マルクの苦笑いは見ないフリをして、僕は、中身を確認した。残容量は、3.75って書いてある。空っぽの時は、確か10だったよね。単位はキログラムなんだ。中身はシンプル表示だ。


 ●ぶどうのエリクサー……125


 巨大ぶどうが125粒ということかな。ということは、1粒で50グラム? 見た目は倍くらいかと思ったけど、随分ずっしりと重いんだな。



「婆ちゃん、これ、偶然できたんだけど、爺ちゃんの腰痛に効くかもしれない。とりあえず、5粒だけ置いておくね。普通の魔法袋に入れると劣化してしまうみたいだから、涼しい場所に保管して、毎日1粒食べさせて。無くなったら言ってね」


 僕は、5粒だけを取り出した。



 ●ぶどうのエリクサー……120


 うん、やはり、この数字は、ぶどうの粒だね。



「村の人が大騒ぎしていたのは、この大きなリースリングのことかい?」


「うん、そうだよ。これは、果実タイプのエリクサーみたい。でも、保存はできないかもしれないけど」


「エリクサー!? そんな高価な薬なのかい。こんな果実で、体力も魔力も全回復するなんて驚きだね」


「マルクの魔力と絡んだから、偶然出来たんだよ」


 婆ちゃんは不思議そうに、だけど大事そうに巨大なぶどうを皿に移していた。


「婆ちゃんも、食べてみてよ。リースリングの味がするよ」


「そうかい。貴重な物だけど、後で爺さんと一粒ずついただいてみるよ」



 僕は、婆ちゃんから、夜食のパンの袋を受け取り、魔法袋に入れた。ぶどうのエリクサーに悪影響かと思ったけど、マルクが大丈夫だと言うので、安心して入れてみた。


 でも、10キロだと、すぐにいっぱいになってしまうな。


 マルクは、腰にいくつも魔法袋をぶら下げている。だけど、どれも小さいから、身体にピタリとくっついているように見える。使い分けをするなら、小さい方が便利なのかな。





「ヴァン、とりあえず、山に近い方を見に行きたい」


 マルクは、真面目に見回りをするつもりのようだ。でも、どっちが山かなんて、見たらわかるじゃないか。


 あっ、だけど、畑には立ち入らない方がいいから、思うように進めないかもしれない。


「わかったよ。じゃ、あぜ道を通るから、畑に落ちないでよ」


「まさか、灯りがない?」


「当たり前じゃない、街じゃないんだから」


 すると、マルクは微妙な顔をしている。まさか、暗いのが怖いのかな? いや、まさかね。魔導学校の授業で行った洞窟でも、マルクは平気な顔をしていたもんね。



「だから、帰りなさいってば〜」


「そうよ、そうよ〜」


「うっせーな。平和ボケしたお嬢ちゃんには、何もわからねぇんだよ」



 あれ? なんだかケンカする声が聞こえる。だけど、マルクは、気づいていないみたいだ。さっきから、何かスキルを使っているから、わかるはずなのにな。


「マルク、今の声、聞こえた?」


「えっ? 声?」


「うん、女性二人と男性一人かな? なんだかケンカしているみたいなんだよね。ヒソヒソ声なんだけど」


 僕がそう言うと、マルクは突然、立ち止まった。


「俺、やっぱ帰る」


「えっ? ちょ、ちょっと待った。山の方を見に行きたいんでしょ」


「もう、いい」


 あれ? マルクは、もしかして……。


「マルク、まさか、幽霊の声だとか思ってない?」


「ひっ……そ、そんなこと……」


 思い出した。マルクには、苦手な種族があるんだ。ただの幽霊とか怪奇現象もだけど、それ以上にダークな種族が苦手だっけ。


 だから、ネクロマンサーが出没するかもしれないと聞いて、逃亡したことがあった。でもあれは、十歳くらいの頃のことだけど。


「もしかして、まだ苦手なの? ゾンビとかスケルトンとかリッチとかネクロマンサーとか?」


「言うな〜。寄ってきたらどうするんだよー」


「そんなの村の中に居ないよ」


「変な魔物に喰われたら、ゾンビになるし」


「いやいや……マルク、なんだかガキっぽい」


 僕がそう言うと、マルクは黙った。あっ、マズイ……傷つけたかな。謝ろうとしたときに、マルクが口を開いた。


「俺、家名を名乗ることを禁じられたんだ」


「えっ!? どうして?」


「相応しくないからだって。一応、貴族だし……貴族の中でも、黒魔導士の家系は強いからさ。俺みたいなビビリは、家名を名乗ると恥になるって」


「そんなの、ひどい」


「今回、兄貴の代わりに来たって言っただろ? これ、最終試験みたいなもんなんだよな。ジョブの印が現れて、『黒魔導士』だとわかったときから、ずっと試練という名のイジメを受けててさ。きっと俺が怖がるとわかっていて、兄貴はこの依頼を選んだんだ」


 そう話すマルクは、もうすっかり諦めたような顔をしていた。そっか、きっと、マルクが怖がるようなことばかりをさせられていたんだ。だから、学校に全然来なかったんだな。


 マルクのためなのか、単に意地悪なのかはわからないけど、でも、貴族って大変そうだからなぁ。


 よく貴族の失踪事件も起こる。何かに巻き込まれたり、人間関係が大変で逃げ出したり……という噂は何度も聞いた。


 だけど、僕のジョブは『ソムリエ』だ。


 貴族の人達と、関わらずに生きていくことなんてできない。それなら……まず、身近な問題から解決しなきゃ。



「マルク、家の名を名乗れなくなると、家から追い出される?」


「まさか。一族の誰かを追放するなんて、それこそ恥になるからありえないよ。ひっそりと隠されるよ」


「じゃあさ、そうやっていじめる人達に後悔させてやろうよ」


「はい? ヴァン、何を言ってんの?」


「ハンターにならないか?」


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