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13、リースリング村 〜神官と貴族

「さっきの風魔法は何かしら?」


 村の人達だけでなく、アリアさんまでもが近寄ってきた。彼女の視線は、僕ではなくマルクに向いている。


「アリアさん、これは別に何も……」


「貴方の魔力が、村の中を駆け巡ったわ。魔物はまだ出ていないでしょう? それともルファス家の坊やには、予知能力でも備わっているのかしら」


 アリアさんは、誰が魔法を使ったのかがわかるんだ。よかった、マルクに派手なことを任せて正解だったな。


 ルファス家? あっ、そっか。マルクは、魔術系の貴族ルファス家の人だっけ。僕には家の名はないけど、神官だけじゃなくて、貴族にも家の名がある。貴族は、魔術系と武術系があるらしいけど、僕には全くわからない世界だ。


 マルクは、僕を小突いている。アリアさんが苦手なのか。なんだか、アリアさんは、マルクを敵視しているような……というか、ルファス家が嫌いなのかな。



「アリアさん、その風の後に、巨大なぶどうの実が落ちてきたんですよ。こちらの坊ちゃんとヴァンが、何かしたみたいなんですけど」


 さっき僕に声をかけてきた人が、ぶどうのエリクサーをアリアさんに見せた。あちゃ……嫌な予感しかしない。


「ヴァン、どうしてぶどうの実が落ちていたのかしら。まさかとは思うけど、収穫したぶどうを盗んだの?」


 アリアさんは、妖しげな笑みを浮かべている。盗んだのかと問われたら、僕が必死に弁解をすると思っているんだ。それなら、子供らしく反論する方がいいかな。


「違いますよ。僕はそんなことはしていません! 妖精さん達が、臭いからなんとかしろってうるさくて、彼女達が集まるゴミ捨て場に行ったんです」


「妖精さん?」


「あぁ、それなら、オラも聞いたぞ。姿なき導きの主が、眠れない、臭いと言っていた」


「ヴァンは、妖精が見えるの? あー、そういえば、貴方のジョブは『ソムリエ』だったわね。ぶどうの妖精のことかしら」


 アリアさんは、僕を薬師だと思っていたのかな。というか、ソムリエとしての僕には興味がないのか。


「そうです。夜になったから妖精さんは、ほとんど居なくなりましたけど、さっきはゴミ捨て場に集まっていたんです。それでマルクに、ゴミを乾燥し粉々にしてもらって、空気中の異物を吸着させるために、村の中に撒いてもらったんです。僕も消臭しようと少し魔力を使ったんですけど、そしたら、なんだかぶどうが突然変異しちゃって、ポトポトと降ってきたんです」


 ゴミ捨て場が臭いように聞こえるかな? 本当は逆だけど、まぁいいか。アリアさんには彼女達の声は聞こえないし。


「ということは、この変な巨大ぶどうは、妖精の仕業なのかしら」


「さぁ? 僕にはよくわかりません。後片付けをするようにと、妖精さんに言われたんで、いま、マルクと、ぶどうの実を拾い集めていたんです」


 アリアさんは、何か少し考えていたが、すぐに考えることに興味を失ったみたいだ。


 だけど、村の人が持っていたぶどうを彼女に渡した。すると、受け取った彼女は、目を見開いている。あーあ、バレちゃった。



「これは……なぜこんなにマナを蓄えているのかしら」


 アリアさんは、何かの魔法を使った。害がないか確かめているようだ。まだエリクサーだとは気づいていない。気づかれると、奪われてしまいそうだな。


 ここは先手必勝だ。


「アリアさん、そのぶどうは、農家の人達の畑から出たゴミが、突然変異してできたんです。目立つ場所の物は、僕達が回収しましたけど、畑の中に落ちている物は、その畑の所有者の物ですよね」


「ヴァン、何が言いたいの? まぁ確かに、畑の中にある物は、その畑の所有者の物だけど?」


 よかった、その言葉を聞き出したかったんだ。


「アリアさん、これはエリクサーです。きっと、畑仕事で腰痛に悩んでいる農家の人達への、妖精さんからの贈り物ですね」


 僕がそう言うと、彼女は、なぜかマルクをキッと睨んだ。


「それなら、村の物ね。部外者は……」


「アリアさん、マルクの魔法がなかったら、エリクサーは生まれていませんよ」


「…………そうね。ルファス家の異常な魔力に、ヴァンの増幅の印の効果が絡んだことで、生み出されたのかもしれないわね。妖精だけの力では、こんな短時間でエリクサーなんて、作れないもの」


 彼女は、一瞬、悔しそうな表情を浮かべた。認めたくなかったのだろうか。


「じゃあ、畑の中に落ちている物は、もらっても良いのじゃな?」


「姿なき声の導きの主が、オバケぶどうが邪魔だとおっしゃっている。すぐに集める方がよいのではないか?」


 ふと上を見ると、何人かの妖精さんが飛び回っていた。そっか、みんな、自分の畑の妖精の声しか聞こえないんだ。


 彼女達は、それぞれ文句を言いに来ているだけなんだけど、それは、畑にエリクサーが落ちているという知らせになっている。


 集まっていた人達は、自分の畑へと散っていった。




「ヴァン、ルファス家の坊ちゃんと知り合いなのね」


「はい、魔導学校で同じクラスなんです」


 すると、アリアさんは、また妖しげに微笑んでいる。マルクが僕と知り合いだと何? 


「じゃあ、ルファス家の坊ちゃん、ヴァンに同行してやってくれないかしら? 手配したハンターが集まり次第、近くに草摘みに行ってもらうの。貴方も一緒にいかが?」


「アリアさん、俺は、この村の魔物騒ぎの件で、村長さんに見回りを依頼されたんです」


「あら、私のお願いよりも、村長を優先するの?」


「えっ……」


「ふふっ、冗談よ。私は、もうしばらくは、この村にいるわ。だから、貴方がヴァンの同行をしてくれている間は、魔物が入り込んでも追い払ってあげるわよ」


「じゃあ、ヴァンに同行しようかな」


「ええ、もし何か不思議なことが起こったら、私に知らせてね。私、ちょっと探し物をしているのよ」


 アリアさんが何を言いたいのかわからない。でも、マルクは、ハッとした顔をした。


「ふふっ、楽しみね。ぶどうのエリクサーは、村長の畑にも落ちているかしら? 村長にも教えてあげなくっちゃね」


 アリアさんは、手をひらひらさせて、戻っていった。




「ヴァン、あの女が何者か知っているのか?」


 アリアさんの姿が見えなくなると、マルクは小声でささやいた。なんだかいつもと雰囲気が違う。


「うん、村の人には知られないようにしているみたいだけど、昼間に、家の名を聞いたよ」


「それで変な仕事を押し付けられたのか。ハンターを護衛につけて草摘みってことは、超薬草か?」


「毒薬草だよ。超薬草を見つけたら、少量でも銀貨1枚で買い取ると言われているけど」


「気をつけろよ。あの女は異常だ。いや、まぁ、ヴァンには何もしてこないか。魔術系の貴族には、容赦ないんだよな」


「ん? 何かあったの?」


「いや、なんでもない。それより、あの女が増幅の印って言ってたけど、ヴァンの印は、目立つ場所に現れたのか?」


 マルクは僕の顔を見ている。顔のどこかだと思っているみたいだ。


「手の甲だよ。気持ち悪い絵だから困ってる」


 僕は、右手の甲をマルクに見せた。すると、マルクはまたポカンとしている。気持ち悪いのかな。


「ヴァン……おまえ……あの女に狙われるぞ。いや、もう、狙われているんだな。だから、俺まで抱き込もうとしてるのか」


「マルク、どういうこと?」


「それ、孤独の王じゃないか」


 リーフさんも同じことを言っていた。理由は教えてくれなかったけど。


「意味がわからないんだけど」


「知らないなら、今はその方がいい。たぶん、縁のある神官が、時期がくれば告げてくれるはずだよ」


「それって、儀式をしてくれた神官様かな」


「さぁ? そうとも限らないだろうけど。意味を知ると動き出すからね」


「な、何が!?」


「うーん、運命、かな? ヴァン、その印は見られちゃいけない。隠しておかないと」


「あー、そういえば、神官様にも手袋を勧められた」


「その草摘みのときは、絶対に手袋をしろよ。他のハンターに知られるな。冒険者は噂好きなんだ」


「うん、気をつける。畑作業用の軍手をしておくよ。でもマルクも、巻き込まれたね」


「神官に逆らっても無駄だ。アイツらは絶対に意見を曲げないからな」


 なんだか神官の話になると、マルクはいつもとは様子が変わる。こんなに彼が怒っているのは初めて見た。貴族と神官の間には、何か確執のようなものでもあるのだろうか。



「これからマルクは見回りだよね。村に泊まるの?」


「村長さんの家に…………やっぱ、俺、帰る」


「ええーっ、ちょ、マルクが村を守ってくれるんでしょ」


「無理!」



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