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12、リースリング村 〜果実タイプのエリクサー

「マルク、ひどいよ。僕は大丈夫だから」


「だって、妖精さんとか言っちゃって。そんな精霊なんて、精霊使いにしか声は聞こえないはずだろ」


「農家も超級になると、声は聞こえるみたいだよ」


「でも、ヴァンは、農家超級じゃないだろ。あっ、ジョブの印は現れたのか?」


「うん、だから、妖精さんの姿も見える」


「はい? まさかの精霊使いかよ」


「いや、違うよ。僕のジョブは『ソムリエ』だった」


 マルクは、またポカンとした顔をしている。僕の家が農家だと言ったときよりも、さらにマヌケな顔だ。


「ちょっと、マルク大丈夫?」


 そう尋ねると、彼は首を横にふるふると振った。うーん、まぁ、大丈夫だね。



「泣き虫ヴァン、臭いの〜」


「早く、早く〜」


「鼻がもげちゃうの」


 妖精さん達は、ちょっとイライラしているようだ。もう暗くなってきた。なんとかしなきゃ。



 とりあえず、ジョブボードかな。僕は、印に触れ、ジョブボードの画面を表示した。




 ◇〜〜◇〜〜〈ジョブボード〉〜〜◇〜〜◇


【ジョブ】


『ソムリエ』上級(Lv.1)


 ●ぶどうの基礎知識

 ●ワインの基礎知識

 ●料理マッチングの基礎知識

 ●テースティングの基礎能力

 ●サーブの基礎技術

 ●ぶどうの妖精

 ●ワインの精




【スキル】


『薬師』超級(Lv.1)


 ●薬草の知識

 ●調薬の知識

 ●薬の調合

 ●毒薬の調合

 ●薬師の目

 ●薬草のサーチ

 ●薬草の改良

 ●新薬の創造



『迷い人』中級(Lv.1)


 ●泣く

 ●道しるべ




【注】三年間使用しない技能は削除される。その際、それに相当するレベルが下がる。



【級およびレベルについて】


 *下級→中級→上級→超級

 レベル10の次のレベルアップ時に昇級する。

 下級(Lv.10)→中級(Lv.1)


 *超級→極級

 それぞれのジョブ・スキルによって昇級条件は異なる。


 〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜




 うーん、使えそうなものは……うん? 薬草の改良? 新薬の創造? 消臭薬が作れるのかな。


 でも、これは超級の技能かもしれない。マルクが村長様の依頼を受けているなら、アリアさんやリーフさんにも会うかもしれないから……超級だということは、マルクにも秘密にしておく方がいいよね。


 上級の範囲がどこまでなのかわからないな。あっ、ソムリエと比べると……うん、やはり改良や新薬は超級っぽいか。


 画面を見ながら考えていると、頭の中に知識とともに、いくつかのアイデアが浮かんできた。土が臭いなら、臭いを吸収する何かがあればいいんだ。


 あっ、そうだ。全部自分でやるんじゃなくて、マルクに手伝ってもらえば、適当に言い逃れもできる。


 よし、それでいこう。



 僕は、ゴミ捨て場から、潰れたぶどうの房をより分けた。うん、これを改良すれば良いんだ。派手なことは、マルクに頼もう。


 ぶどうの房に手を向けると、僕の手からふわっと魔力が放たれた。潰れていた果実はだんだん小さくなり、熟す前の青く小さな固い実のような姿になっている。たぶん、ぶどうからエネルギーを奪い取ったんだ。


 僕の手には熱い何かが集まってきた。そして、小さな固い実が、僕の手の中の何かを吸収したがっている。返してほしいんだね。


「マルク、このゴミ全部を乾燥させて」


「はい?」


「急いで!」


「それくらい、ヴァンにもできるだろ」


「僕は、別の魔法を使ってるから、できないよ」


 マルクは、首を傾げながら、ヒート魔法を放った。ゴミ捨て場すべての葉や枝までが、一気に枯れたように乾燥している。さすが黒魔導士だな。


「マルク、粉々に砕いて風に乗せて。村中に撒きたいんだ」


「それくらい、ヴァンにもできるだろ」


「僕は、他の魔法を使ってるんだってば」


 またマルクは首を傾げながらも、風魔法を使って、一気に粉々にして空中に舞い上げた。僕はそこに仕上げをした。僕の手に集まっていた熱い何かを、マルクの放った旋風に合流させた。


「うわっ!? な、なんだよ?」


「マルク、さすが黒魔導士だね」


「えっ? 俺か?」


 マルクが放ったキラキラとした風は、村中を駆け抜けた。うん、うまくいった。改良したぶどうは風に乗って、空中の乱れたマナをどんどん吸収している。空気清浄器だね。


 ポト、ポトポト


「ちょ、ヴァン、なんか変な青い玉が落ちてきたぞ」


「うん、だよね。ぶどうの実がマナを回収したんだよ。あ、ちょっと待って、確認する」


 ぶどうの実の倍くらいの、黄緑色の実があちこちに落ちていた。手に取ってみると……あれ? 僕は、マナを吸収するスポンジのようなものに、改良したはずなんだけどな。


 ぶどうの木に対しても「薬草の改良」の技能が使える。だけど、もしかして、新薬を作ってしまったのかもしれない。マルクの魔力が絡まった突然変異なのかな。


「マルク、この実、なんだか不思議なことになってる。食べてみてよ、毒はないから」


「ちょ、何だよ、何をしたんだよ?」


「心配しなくても大丈夫。僕は『薬師』のスキルがあるんだ。技能の一つを使ったんだけど、マルクの魔力の影響を受けて、突然変異したみたい」


「ええ〜っ? 薬師? ソムリエで薬師?」


 また、マルクはポカンとしている。仕方ない、毒味は僕の役目かな。僕は、黄緑色の実を一つ食べてみた。やはりね。これはエリクサーだ。果実タイプなんて初めて見たけど。


 体力も、使った魔力も、完全に回復している。


 同じものは、もう作れないだろうな。やはり、空気中には、大量の不安定なマナが満ちていたんだ。



「もう臭くなーい」


「泣き虫ヴァンは、やればできるこ」


「寝よ、寝よ〜」


「オバケぶどうが邪魔なの」


「よいこは、お片付けもしなきゃ」


 なんか、口々に文句を言ってる。彼女達は、僕のことを完全に幼児扱いしてるよね。


 でも、このままだと騒ぎになるか。それに魔物が侵入してきて、果実タイプのエリクサーを食べると面倒だ。



「マルク、この実は、果実タイプのエリクサーみたい。騒ぎになる前に集めよう」


「えっ!? エリクサー?」


 そう言うと、マルクは、落ちていた黄緑色の実をパクリと食べた。そして、またポカンとしている。


「マルク、呆けてないでさ、手伝ってよ。あー、魔法袋を持ってくればよかった」


「魔法袋ならあるよ。ちょ、ヴァン、これって、大金持ちになれるんじゃないか? すごいぜ。もっと作ればさ〜」


「偶然の突然変異だから、二度目はないよ」


「じゃ、じゃあ、急いで集めよう!」


 だから、そう言ってるのに。


「ヴァン、これを使えよ」


 マルクは僕に、小さな麻袋を手渡した。でも、手に持つと不思議な感じがする。


「これは?」


「俺の叔父さんが魔法袋を作っているんだ。こんな果実タイプのエリクサーなら、普通の魔法袋に入れるとすぐに劣化してしまう。これは、完全遮断の魔法袋だから」


「えっ!? 結界かバリアが付与されているの?」


「両方付与されている。危険物を扱うために作られた物だから、完全に状態がキープされるよ。自動ロック魔法も付与されているから、持ち主が装備しないと中身を取り出せない安心仕様なんだぜ」


「へぇ、すごい。借りるね」


「いや、ヴァンにやるよ。その代わり、俺が集めたエリクサーは俺にくれよな」


「わかった。ありがとう」


「さぁ、集めようぜ」


 僕は、もらった魔法袋を装備した。中身は空っぽで、残容量だけが表示された。10……10キロかな? 随分と少ないけど、10トン?


 マルクは、すごい勢いで集めている。いつも無気力な彼が急いでいるのは……うん、もう夜になってきたからかな。


 ぶどうのエリクサーは、ほんのり光っている。


 僕も、マルクに負けないように集め始めた。暗くなってきたことで、大きなぶどうの実は、目立つようになってきたな。




「ヴァン、何をしているんだい? それに、この巨大なぶどうの実は、一体どうなっているんだ?」


 目立つ場所のぶどうを拾い終えた頃、畑にいる村の人達も、ぶどうに気づき始めた。マルクは、首を横に振っている。うーん、言うなということ? でも、エリクサーは、みんなにとっても便利な全回復薬だ。


「マルク、話してもいい?」


「えっ……」


「そもそも、村のみんなの畑のぶどうだったし」


「あー、まぁいいけど。騒ぎになって、殺し合いが起こっても知らないぞ」


 そっか、高く売れるなら、欲深い人は殺してでも奪おうとするかもしれない。でも、いま村にいる人達は、ほとんどが年寄りだ。自分や子のために使いたいと考えるはずだ。


「大丈夫だよ、村の人達は、腰痛に悩んでいるんだ」


「はい?」


「治るでしょ?」


「怪我なら治るだろうけど……腰痛?」


 あちゃっ、村の人達が集まってきてる。



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