表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/574

11、リースリング村 〜妖精が嫌がる臭いの謎

「ヴァン、やっと解放されたのか」


「爺ちゃん、ただいま。もう、ぶどうの収穫は終わったんだ」


「あぁ、魔導士の人達は夕方までの契約じゃからな。アリアさんに、無茶なことを依頼されなかったか?」


 僕は、爺ちゃんに、村長様の家でアリアさんとリーフさんに言われたことを話した。アリアさんがトロッケン家の神官だということも、爺ちゃんは気付いていたみたいだ。


「やはり彼女は、ヴァンの『薬師』スキルが中級だとは思っていなかったのじゃな。村長にヴァンのジョブやスキルの話をしに行ったときに、彼女は、すぐそばに来て、作り笑いを浮かべて話を聞いていたからのぉ」


「神官様だからわかるんだよね。あ、リーフさんからこれをもらったんだ」


 僕は、装備していた魔法袋を外して、爺ちゃんに見せた。


「装備すると消える魔法袋か! すごい物を頂いたものじゃ。行商人は、このような物は扱っておらぬ。街に行っても、露店にも、工業ギルドでも見たことはないぞ」


「リーフさんが布袋を改造したと言っていたよ。アリアさんが超薬草を見つけないと報酬は出せないと言ったら、リーフさんが、これを報酬代わりに受け取ってくれって」


「ほう、リーフさんという方は、ワシは知らぬが、優しいお方なのじゃな。ヴァン、大切にするんだぞ」


「うん、リーフさんは、山歩きのときに食料や水を入れておけば安心だと言ってたよ。でも、容量が少ないらしくて、アリアさんは粗末な魔法袋だって言ってた」


「どれくらい入るのじゃ? ぶどうの運搬に使っている魔法袋は、10トンの袋じゃぞ?」


「これは、1000キロだから、1トンだよね。そっか、そう言われてみれば容量は少ないのかな」


「いや、使いやすい容量じゃ。それに見えなくなるのは、とてもありがたい。魔法袋の存在を隠すことができて安心じゃ。しかし、そんなすごい物を、毒薬草探しに同行するくらいでくださるものなのか? おそらく神官の特殊な技能を使って作られた物じゃ。買うと、金貨1枚くらいするぞ」


「ええ〜っ? 金貨1枚って、銀貨100枚だよね? アイスワインが100本!?」


「ヴァンにとっては、とんでもない値段じゃな。じゃが、1本のワインが金貨1枚で取引されることもあるのじゃ」


「へぇ、す、すごい」


 そっか。確か、年代物の赤ワインは、高額だっけ。あっ、頭の中に、高いワインの銘柄の知識がズラリと出てきた。へぇ、こんなにたくさんの高価なワインがあるのか。赤ワインが多いな。



「もしや、ヴァンが『薬師』超級だと知られたのではないか? 過度な贈り物には、大抵、裏があるものじゃ」


「たぶん大丈夫だよ。アリアさんの誘導には引っ掛からなかったから。だから、毒薬を作るのは、別の上級薬師を雇うんだと思うよ」


「それなら良いが……心配じゃのぅ。トロッケン家は武術に優れた神官じゃ。魔術に優れたアウスレーゼ家との対立がひどい。治癒魔法が得意でないトロッケン家は、もし戦争になったら、薬師を戦いの駒に使うからの」


「それって50年前くらいの戦争のこと?」


「あぁ、そうじゃ。あれがキッカケとなり、冒険者ギルドが設立されたのじゃ。神官だけが力を持つことを、神は危惧されたのだろう」


「そっか。でも、もう戦争は起こらないんだよ。そのための神矢なんだから」


「ヴァンは、魔導学校でよく学んでおるのぉ。偉いぞ」


「爺ちゃん、当然だよ」


 僕は、褒められると嬉しい反面、少し複雑だった。


 爺ちゃんは、僕のことを子供扱いしているんだよね。婆ちゃんは、僕は大人だから自分で考えなさいって言うし……。どっちなんだよ〜。




 僕は自室に戻り、リーフさんの魔法袋を、壁にかけた。うん、小さな布袋だけど、こうしておけば失くすことはないよね。


 外から、僕を呼ぶ声がする。


「ヴァン、出てきなさーい。泣き虫ヴァン〜」


 はぁ、また、泣き虫って言ってるよ。ぶどうの妖精さんは、家の中には入ってこないんだな。何か決まりごとがあるのだろうか。


 僕は、服を作業着に着替えた。こっちの方が楽だし落ち着く。農家がよかったのに、どうして『ソムリエ』なんだよ。



「婆ちゃん、ちょっと畑に行ってくる。僕の部屋の壁の布袋には触らないでね。神官様からの頂き物なんだ」


「はいはい、触りませんよ」


 あれ? いつもなら婆ちゃんは、夕方だからダメだと言うのに、今日は言わないんだ。やっぱり、大人扱いなのかな。




 外に出ると、そこには大量の妖精さんが集まっていた。


「ヴァン、土が臭いの」


「嫌な臭いなの、なんとかしてほしいの」


「イライラしちゃうよー」


「ちょ、ちょっと、待って。畑の土?」


「そう、あちこち臭いの」


 そんな臭いは感じなかったけどな。別に肥料も使ってないし、今日はぶどうの収穫をしただけのはずだ。ぶどうの果実の匂いを臭いとは言わないだろうし……。


「とにかく、来て!」


「早く早く〜」


「眠れないもの」


「わかったよ。そんなに一斉に喋らないで」



 僕は、畑に向かった。


 魔導士の人達もすべて引き上げ、何人かの人が片付けをしているだけだった。別に、変な臭いはしない。


「ね? すんごく嫌な臭いでしょ」


「息ができないよね」


 妖精さん達は、鼻をつまんで大げさに騒いでいる。嘘をついているわけではなさそうだ。


「僕には、臭いはわからないよ。どんな感じなの?」


「ピリピリするの」


「イライラするよね」


「畑を新しく作ったときみたいな嫌な臭い」


「うるさい感じの臭いだよ」


 彼女達の感覚は、全然理解できないなぁ。


「いつからその臭いがしてるの?」


「たくさんの知らない人が来てからだよ」


「臭いから、空の上に逃げていたの」


 あー、そう言えば、昼間に上空で集まっていたよね。あのときは、畑では、農家が生育魔法を使って、魔導士が収穫魔法を使っていたっけ。


 新しく畑を作るときは、開墾魔法を使う。


「もしかして、空気中のマナが乱れているのかな? たくさんの人が魔法を使ったから」


「わかんないけど臭いの」


「ヴァン、なんとかしてほしいの」


「泣き虫ヴァンは、できるこなの」


 期待されているのか、けなされているのかわからない。でも、彼女達の表情は必死なんだよね。


「よくわかんないけど、わかった」


 とりあえず消臭しなきゃいけないんだよね。でも、マナの臭いなんて、僕にはわからない。彼女達が好きな香りでごまかせないかな?



 僕は、収穫時に潰れて駄目になったゴミ捨て場へと移動した。その付近に、彼女達がたくさん集まっているからだ。


「はぁ、ここは、ちょっとだけマシね」


「でも臭いの」


 うーん、マシなだけなのか。



「ヴァン、どうしたんだよ?」


「あれ? マルクこそどうしたの? 魔導士はみんな帰ったんじゃないの?」


 なぜかゴミ捨て場には、魔導学校で同じクラスのマルクがいた。彼は、既にジョブの印が現れていたから、最近は学校に来ていなかったんだ。久しぶりだな。


「俺は、ここの村長さんの依頼で来たんだ。まさか、ヴァンの村なのか?」


「うん、そうだよ。僕の家は、ぶどう農家だって言ったでしょ。マルク、めちゃくちゃポカンとしてたけど」


「だって、みんなは魔導士だと思ってたからさ。ヴァンが農家だって言うから、俺、ヴァンに頼れなくなったじゃないか」


 あはは、また、こんなことばっかり。


「マルクは、何の仕事?」


「ウチの兄貴が受けた依頼なんだけど、来られなくなったから代わりに来たんだ。この村に魔物が出るからって。兄貴は、勘違いだろうから適当にって言ってたけど」


「あー、魔物ね〜、夜間にうろついてるみたい。だから、夜は畑にも出られないんだ」


「えっ…………俺、帰る」


「ちょ、ちょっと待ってよ。村を守ってくれるんでしょ」


「ヴァン、俺にそんなこと、できるわけないだろ」


「マルクは、ジョブ『黒魔導士』じゃないか。上級黒魔導士なんだから、余裕だよ」


「無理!」


「どうしてだよ。ジョブの印が現れてから、全然学校に来てなかったのは、仕事が忙しかったからなんじゃ……」


「無理!」


 うーん? マルクは、ぶるぶると震えている。寒いのかな? 夕方になると少し冷えるか。



「早く、早く〜」


「泣き虫ヴァン、夜になっちゃう」


「臭いの〜」


 あっ、そうだった。



「マルク、ちょっと手伝って」


「だから、無理!」


「魔物じゃなくて、臭いんだって」


「はい?」


「えっと、ぶどうの妖精さんが……」


「妖精、さん? はい?」


「ぶどうの木に宿る妖精だよ。たぶんマナが乱れているんだと思う。臭くて眠れないって、僕を呼びに来たんだ」


「ヴァン、何を言ってんだ? 頭大丈夫か?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ