104、商業の街スピカ 〜ヴァン、さらわれそうになる
僕達は、今、ラスクさんに連れられて、大きな商業ギルドに来ている。僕は、この商業ギルドは初めて来た。依頼がメインになっているのか、貴族や商人らしき身なりの良い人がたくさんいて、ちょっと居心地が悪い。
ラスクさんは、自分が依頼したミッションを、僕に受注させるつもりのようだ。しかし、神官様は後見人だからわかるとして、なぜ、マルクまで一緒なんだ?
商業ギルドの職員さんは、ラスクさんを見て驚いた顔をしている。でも、さすがに、仕事は忘れていないようだ。
「こちらは、受注カウンターですが?」
「ヴァンくん、商業ギルドのカードを出して」
ラスクさんはニコニコしながら、カウンターにもたれかかっている。なんだか、僕が強制されてるように見えるんじゃないかな? 職員さんがちょっと困った顔をしている。
僕は、商業ギルドのカードを提示した。
「派遣執事の依頼を受注しに来ました」
「お預かりします。受注可能な派遣先を探しますので、少しお待ちください」
ラスクさんが何か口を挟むのかと思っていたけど、何も言わないでニコニコしている。
「お待たせしました。ヴァンさんは、いま、長期の薬師契約を受注中ですね。兼業可能な派遣執事となりますと、受注できる件数がかなり絞られてしまいます」
「そうですよね」
まぁ、当たり前だよな。ファシルド家の急患を優先することになるんだから。
「ヴァンくんが受注可能な依頼の数を知りたいな」
なぜか、ラスクさんはニコニコしながら、職員さんの手元を覗こうとしている。
「薬師契約などの制約がなければ、千件ほどありますが、これがあるために、百件を下回るかと」
ええっ? そんなにあるの?
「ご指名の依頼は?」
「ヴァンさんを指名された依頼は40件ほどありますが、薬師契約の制約があるため、指名された中で受注可能なものは、12件ですね。指名された依頼をすべてご覧になりますか?」
「うん、見てみたいな」
「ルーミント様には、お見せできませんよ」
「えー、いいじゃないか。ライバルを知りたいんだよ」
なんだかラスクさんは、職員さんをからかって遊んでいるように見える。
「ダメです!」
「ヴァンくん、冒険者ギルドのカードを見せてあげて」
へ? 意味がわからないけど……僕は、冒険者ギルドカードも提示した。あれ? カードに記載されている情報が変わってる。いつの間に書き変わったんだろう。
『冒険者ギルドカード』
名前:ヴァン(13歳)
ジョブ:ソムリエ
登録スキル:薬師、精霊師
冒険者職種:薬師
冒険者ランク:Eランク
冒険者ギルドポイント:1,300
所属冒険者パーティ:青ノレア
特記事項:ノレアグループの保護下にある
僕は、職員さんに冒険者ギルドカードを提示した。すると、彼女は、なぜかため息をついてる。
「ヴァンさん、それを先に言ってください。パーティ加入されてから、まだ何のミッションも受注されていないのですね? 何か受注されないと、他の二種ギルドには情報が伝わりませんので」
なぜか、僕が注意された。
「えっと……すみません。まだ、仕組みがよくわからないので」
そう言うと、彼女は、いえいえと澄まし顔だ。うーむ、この人は、プライドが高そうだな。逆らわないようにしよう。
ラスクさんは、クククと楽しそうに笑っている。変な人だよね。悪戯好きなのか? まぁ、いいけど。
職員さんは、書類をラスクさんに渡した。僕ではなくて、ラスクさんに見せるんだな。保護下って書いてあるのはそういうことか。
「へぇ、まだフランちゃんのチェックが入っていないものもあるね。後見人が許可したものしか、ヴァンくんに見せちゃダメだよ」
「えっ? あ、失礼いたしました」
ラスクさんは、5〜6枚の紙を職員さんに返している。神官様は、片眉をあげ、職員さんの手から依頼書を受け取っている。
僕は暇だ。マルクも暇そうにしている。横の店を見に行ってみようかな。マルクに合図して、カウンターを離れた。
「ヴァン、いいのか?」
「だって、ラスクさんの依頼を受注するために来たのに、なんだか暇だし。彼らの書類チェックが終わったら、呼ばれると思う」
「あはは、ヴァン、落ち着きのない子供みたいだぞ」
「いいんだよ、子供で。しかし、怒涛の展開だよな。ノレアグループって、童話に出てくるノレア様とその従者の話から名付けたのかな」
「はい? ヴァン、魔導学校で……あー、そっか、剣術と魔術、どっちも試験受かってないから知らないのか」
「うん? 何が?」
「ノレアグループの総帥は、ノレア様だよ。4つのパーティリーダーは、その4人の従者の属性ごとに色分けされてる。精霊の守護があるって言われているけど、彼らは精霊が人に姿を変えた存在だから、精霊そのものなんだよね」
「ええ〜っ!?」
「そもそも冒険者ギルドができたのが、神官家の戦乱後だからさ。その監視も兼ねて、冒険者に紛れることになったらしいよ。もう50年くらい前の話だけど」
「じゃあ、みんなそろそろ引退だね」
「ヴァン、精霊は歳を取らないよ」
「あ、そっか」
商業ギルドの店舗をブラブラしながら、そんな話をしていると、やたらと視線を感じた。でも、僕達が青ノレアに加入したことは、まわりの人は知らないよな?
マルクは、お菓子コーナーを物色していたけど、何も手に取ってはいない。珍しいものは、特にないのかな。
「あの、失礼ですが、キミ達は学生さん?」
身なりの良い男性が声をかけてきた。三十代前半だろうか。
「ええ、そうですよ」
僕が戸惑っていると、マルクが対応してくれた。でも、いつもの顔ではない。警戒しているみたいだ。
「キミ達みたいに、カッコいい男の子には、何でも買い与えてくれる人がいるんだ。よかったら紹介するよ?」
何それ?
「そういうのは、間に合ってますから」
「遠慮しなくてもいいんだよ。ここにあるものなんて、なんでも好きなだけ買ってくれるよ?」
慈善事業? 僕達は、お金に困っているように見えるのかな? マルクは、冷たい目をしている。怒っているのか?
「そっちのキミは、どうかな? 毎日楽しい暮らしが待っているよ?」
「えっ? えーっと……。生活に困っているわけではないので……」
「今より、もっといい暮らしができるんだよ?」
「いや、あの……」
「さぁ、行こう。こっちだ」
男性は、僕の腕を掴んだ。
「やめてください! 彼は、身売りなんてしませんよ!」
身売り?
「キミは嫌そうだけど、彼はそうでもなさそうだよ。友達なら、彼の幸せを考えてあげてよ」
マルクは、必死に立ち塞がってくれている。だけど、いつの間にか、数人の強そうな男性に囲まれていた。こんな場所では、マルクは魔法を使えない。当然、剣も抜けない。
僕は、戸惑うばかりで、何が起こっているのかさえ、わからない。
「ヴァン! 遊んでないで、こっちに来なさい!」
異変に気づいたのか、神官様が叫んだ。た、助かった。
「へぇ、かわいい子だな。あの娘も連れていくか」
うげっ、助かってなかった……。
神官様が近寄ってくるのを、彼らは待ち構えている。ちょ、ラスクさん! あ、ラスクさんは書類をまだ見ている。気づいていないのか。
「お嬢さんも、一緒に行こうか」
「何のお話かしら?」
「彼をね、スカウトしていたんだよ。お嬢さんもいいねぇ」
すると、神官様はため息をついた。
「こんな場所で、人さらいですか? まぁ、仕事を探しに来る人が集まるから、効率は良いのかもしれませんね。それに、こんな所では、剣も抜けないし攻撃魔法も使えない」
神官様は、冷たい視線を向けている。だけど彼らは、それに怯む様子はない。
彼らの一人が、神官様に触れようと手を伸ばした瞬間、その男は、床に倒れた。転んだわけでもない。そして、次々と、この場にいた男達は、床に倒れていった。
「て、てめぇ! 何をした」
神官様は、彼らを無視して、職員さんを呼んだ。
「人さらいの現行犯です。適切に処理してくださ〜い」
「えっ? あ、はい。この拘束は……」
「ただの重力魔法よ。私や彼らをさらおうとしたの。裏ギルドの依頼でしょうけど、こんな場所で仕事させてもいいの?」
「それは困ります! 捕獲していただき、ありがとうございます」
神官様は片眉をあげ、何もなかったかのように、カウンターに戻った。僕達も、彼女の後を追った。
「ヴァンくん、悩ましかったけど、決めたよ。俺の依頼と、あとは、これだ」
ラスクさんは、まるで気づいていないかのようだ。えっ? 二つ同時に受注するのか?
「こちらの書類にサインをお願いします」




