103、商業の街スピカ〜青ノレアへの加入
いま、僕達は、冒険者ギルドの別館にいる。
スピカの冒険者ギルドの本店には、隣接する別館がある。その別館には、商業ギルドや工業ギルドの事務所だけでなく、高ランクパーティの事務所があるそうだ。
別館の一階は、商工ギルドの店になっていた。かなり広い。二階は、商工ギルドの事務所兼倉庫らしい。そして、三階には、高ランクパーティの事務所があるそうだ。
「わっ、すごい、いろいろな物が売ってる」
「しっ! ヴァン、はしゃぐなよ」
「ご、ごめん」
マルクに叱られた俺を、ラスクさんは面白そうに見ている。神官様は、無言で売り物を物色中だ。
この別館の入り口では、冒険者ギルドカードの提示を求められた。ラスクさんが、この三人を事務所に連れて行くと言ったから、入館を許可されたように感じた。神官様も、初めて来たのかもしれないな。
見たことのない珍しい物がたくさんある。どれも、すごく高い。それだけ希少価値の高いものなのか。
「買い物なら、帰りに見ていけばいいよ。あっ、そういえば、ヴァンくんのエリクサーが数日前に並んでいたね」
「えっ? そ、そうなんですか」
「たぶん、俺が売った物が、こっちに流れてきたんだと思いますよ。流通量を見ながら、値崩れしないように少しずつ出してるので」
「へぇ、マルクくんは賢いね。まぁ、あのエリクサーは、レベルが高い人ほど欲しがるだろうから、売る場所を変えれば、値崩れは起こさないと思うよ」
「ここで、ということですね」
ラスクさんは、品のいい笑顔を浮かべている。マルクもそれに応えるように、上品な笑みを浮かべた。二人とも貴族だもんな。僕は、こんな優雅には笑えない。
「事務所は三階だよ。階段しかないんだ。ちょっと長い階段だけど、ついて来て」
「はい!」
そういえば、天井が高い。1階で2階分ありそうだ。だから、階段も長いのか。
僕は、全然知らなかったんだけど、僕達が勧誘された青ノレアというパーティは、ノレアグループの一つなのだそうだ。
ノレアグループは、スピカだけでなく各地にあって、王都からのミッションを受注することもあるらしい。加入するためには、厳しい条件を設けているため、どんなに高ランクでも、条件を満たさない者は加入できないそうなんだ。
さっき、大勢の前でパーティ勧誘をされたことで、僕は、誰からも頭がおかしいとは言われなくなった。ラスクさんは、わざと、そうしてくれたんだと思う。
おかげで、超初心者の僕は、カス冒険者のレッテルを貼られずにすみそうだ。
マルクが驚いていた理由も、ノレアグループの話を聞いて理解できた。誰もが憧れる冒険者パーティなんだ。『青ノレア』って言っていたけど、ノレアグループの他のパーティ名にも、色の名が付いているのだろうか。
コンコン!
「サブリーダー、獲物を二人連れてきたぜ。かわいこちゃんは、背の高い方の子の後見人だ」
獲物!? かわいこちゃん? なんだか、ラスクさんの雰囲気がガラリと変わった。貴族っぽい雰囲気は消え、隙のない冒険者だな。ちょっと怖い。
部屋の中には、五人の人がいた。一斉に視線が突き刺さる。これも、怖い。ポーカーフェイスは解けている。もう一度、使うべきか。
「ラスク! おまえが獲物とか言ってるから、坊やがビビってるじゃねぇか。この、ドアホ!」
「あはは、面白いかと思ったんだが、外したか。この二人、トロッケン家に目をつけられている。まだ、加入条件は満たさないが、構わないだろ?」
えっ? レアスキル持ちが条件じゃないの? そういえば、マルクは、まだBランクだとか言っていたっけ。Bランクも、凄すぎるんだけど。
「黒魔導士はいいとして、かわいこちゃん付きはソムリエか? リーダーが何て言うかな」
だよね……。全く戦えない超初心者の僕が、こんな有名な高ランクパーティの事務所にいること自体が、場違いなんだ。
「リーダーは、この坊やを加入させると言うはずだぜ」
「根拠は?」
「りんごのエリクサー、ぶどうのエリクサー、気に入っていたよな? 作った謎の少年を誘拐して来いって、言ってなかったか」
すると、話していた人が、何かの魔道具を操作した。僕に、光が当たっている。スキルサーチなのだろうか。ジョブはわかっても、スキルはわからないみたいだな。
「超級薬師か、なるほど。しかし、こんなステイタスで、よくボックス山脈に出入りできるな。精霊師とは、それほどの力を持つのか」
ステイタスまで見られてるんだ。
「ヴァンが作って、マルクが売っていたようだよ。二人は、とっても仲良しでね〜」
「それで、二人ともトロッケン家に狙われているということか。超級薬師なら、トロッケン家の神官など毒殺することも簡単だろう? あー、だが、そうなると精霊師のスキルは消えるか」
えっ? スキルが消える?
「そうだろうね。邪に染まると、精霊の加護が外れるだろうから、精霊使いに落ちるのかな。試してもらっても面白いかもしれないね」
「このドアホ! レアスキルを捨てさせる気か」
強烈なツッコミを受けて、ラスクさんは楽しそうにしている。なんだか、サブリーダーをからかって遊んでいるかのようだな。
「まぁ、いいだろう。二人の加入を認める。フランちゃんは、加入条件を何一つ満たしていないから、またの機会だな」
サブリーダーは、神官様の名を知ってるんだ。
「でも、この子の後見人だもん。私にも、許可証ちょうだいね〜」
神官様が、また、キャピッとしてる。
「フランちゃんの策略のような気がするが……まぁ、いいだろう。仮許可証だからな、仮だぞ」
「はいはーい」
なんだか、キャピッとしている神官様は、かわいいんだけど、イラっとする。僕は、嫉妬しているのだろうか。
規約のようなものが書かれた書類にサインをすると、しばらく待つようにと言われた。許可証の発行だろうか。許可証って、何だろう? 別館の入場許可証?
「ヴァンくん、マルクくん、簡単に説明しておくよ。知っているだろうけど、ノレアグループは、この国で最大の冒険者グループだ。スピカだけでなく、各地に点在している。本拠地は、王都にあるんだ。我々の信念は、弱きものを守ること。だから、意味のない虐殺は禁じている。しかし、正当な理由があれば、剣をふるって構わない。たとえ、その相手が神官三家であってもね」
チラッと神官様の顔を見た。彼女は驚く様子はない。知っていたのか。
「そして、ここは青ノレアの事務所だ。キミ達が加入するのも青ノレアだ。ノレアグループには、格付けがあってね。青ノレアが一番上なんだよ」
「ええっ!? あ、すみません。驚いてしまって……」
「あっ、もしかして、ヴァンくんは、あまり詳しくはないかな?」
「……はい」
「ノレアのリーダーは、精霊の守護を受けているんだ。青は水の精霊、赤は火の精霊、緑は風の精霊、黄は大地の精霊だ。そして今言った順が格付けの順位。それぞれに所属する冒険者は、全国で300人以内と決められている」
「じゃあ、私も加入でいいじゃないの〜」
「フランちゃんは、ダメだよ。青ノレアは、レアスキル持ちで、Sランク以上であることが条件なんだから。ランクはいずれ上がるが、スキルはね〜」
「いじわるだよねー」
神官様は、キャピッとしたスイッチが入ったままだ。冒険者の中にいるからだよな。
「青ノレアは、キミ達を入れても50人程しか居ない。数人の例外以外は、SSランクだから安心してくれ。トロッケン家は、キミ達に手出しできないよ。仲間を狙うということは、青ノレアに対する宣戦布告だからね」
「青ノレアに喧嘩を売ったら、トロッケン家は全滅でしょうね〜。もう神官三家じゃなくて、神官二家でいいと思うけど」
えっ……。話を聞けば聞くほど、汗が出てくる。そうか、戦闘系のレアスキル持ちも大勢いるんだ。そりゃそうだよね。
あっ、思い出した。子供の頃に読んだ絵本……神官家の戦乱を再び起こさせないために、神殿から地上に降りた人達がいるんだ。そして、人間に姿を変え、小さな冒険者パーティを作った5人。ノレア様とその従者。
ノレアグループの名は、その童話になぞらえたのだろうか。もしかして、作り話ではなくて、本当の話? だとするとリーダーは、その従者?
でも、こんなことを尋ねていいのかわからない。そもそも、気安く話せる雰囲気じゃないんだよな。
「お待たせしたね。マルク、ヴァン、青ノレアへようこそ。加入手続きが完了した。これからは、青ノレアの名に恥じない行動をするように」




