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100、商業の街スピカ 〜伝説のハンターとの再会

 僕は思わず、彼を指差して叫んでしまった。マズイ、失礼なことをしてしまった。


 扉から出てきた男性は、一瞬ギロリと僕を睨んだが、すぐに興味を失ったかのように、視線を外した。そして、僕達の目の前を通り過ぎようとした。


 虚ろな目、幽霊のようなゾクリとする気配、死人かと疑うほど、何の生気も感じられない。もちろん彼は老人ではない。確か、僕より15くらい歳上……まだ三十歳にはなっていないはずだ。


「ゼクトさん! お久しぶりです。覚えていますか? 僕はヴァンといいます」


「知らん」


「ボックス山脈で会いました。僕がビードロに乗っていて、ゼクトさんが魔物狩りに来られていて……」


「知らん。俺に構うな」


「僕は、ゼクトさんの英雄伝を聞いて、ハンターになりたくて講習を受けに来たんです!」


「やめておけ」


「僕は、ゼクトさんに憧れて……」


 そこまで言うと、彼は僕を見た。虚ろな目ではない。殺意のこもった目だ。マルクが、僕にやめろと合図をしてくる。


 だけど、ここでやめたら、もうこの人とは会えないかもしれない。それに何より、伝説の極級ハンターとして有名なのに、なぜ、ゼクトさんがこんな風になってしまったのか、その原因が知りたい。


「僕は、ハンターになりたいんです。凄腕のハンターに! だから、講習会に来ました。今日は時間が合わなかったけど、明日また来ます。ゼクトさんが講師をされているんですね。楽しみです!」


「おまえ、バカか」


「バカでも何でもいいです。僕は、ハンターになりたい。そして、知りたいんです、なぜゼクトさんが、そんな風になってしまったのかを」


 するとゼクトさんは、凍えるような冷ややかな目をして僕を睨んだ。マズイ、変なことを言ってしまった。でも、怒るってことは、やっぱり彼には感情があるんだ。


 喜怒哀楽の感情がない人だって、前にマルクは言っていたけど、ボックス山脈では彼は笑った。そして今は怒っている。彼がこんな幽霊のようになってしまったのは、きっと何か理由がある。


「ゼクトさん! 僕は、貴方に認めてもらえるように頑張ります。ハンターの講習を受けて、ハンターのスキルを得たら、冒険者ギルドのミッションも受けて、そしていつか貴方と同じ、極級ハンターになりたい!」


 僕は、必死だった。


 何があったのかは知らない。でも、僕が知る英雄伝で語られている彼は、ほんとにすごいヒーローなんだ。話は多少は、脚色されていたかもしれない。でも、こんな状態ではないはずだ。


 僕は、本来のゼクトさんに戻ってほしい。薬師の目を使っても、理由がわからない。だけど、憧れの人が、こんな、幽霊のような姿をしているなんて、黙っていられない。



 しばらくの間、シーンと静まり返っている。


 あんなに賑やかだった冒険者ギルドが、この三階だけ、別空間かのような雰囲気だ。たくさんの冒険者がいる。たくさんの職員もいる。だけど、みんな、拘束の結界にでもとらわれたかのように動かない。



 そして、彼は、その静寂を破った。



「おまえ、ビードロを友達呼ばわりしていた頭のおかしなソムリエか」


 覚えてくれていた! 僕は嬉しくて叫びそうになるのを必死にこらえた。


「はい! 頭は普通のつもりですけど、ビードロの草原で会いました!」


「トロッケン家を批判していたな」


「あー、あははは」


 僕が返事に困るのを見て、ゼクトさんはニヤリと笑った。こんな静まり返った場所で、そんなことを暴露されて、僕は大丈夫なんだろうか。


「俺も、トロッケン家はクソだと思っている。もしまたアウスレーゼ家との間で戦乱が起こったら、俺は迷わず、アウスレーゼ家につく。アウスレーゼ家もクソだけどな」


「あはは、えーっと……」


 これは、助けてくれたのだろうか。


「おまえ、極級ハンターを目指すなら、講習なんて無駄なことはやめておけ。チマチマ努力しても、せいぜい上級ハンター止まりだ」


 アドバイスをくれた!!


「じゃあ、どうすれば極級ハンターになれますか」


「神矢だ。ハンターの神矢を集めろ。そして実戦を積むことだ。冒険者ランクもSSランクを目指せ。超級から極級へ上がるのは、血を吐くほどの努力が必要だ。それに協力者も不可欠だ。おまえ自身が高位ランクじゃないと話にならん」


「わかりました! ありがとうございます。でも、神矢を集めるのは……ボックス山脈を歩くと集まるけど、ハンターのスキルは手に入らなくて」


「戦闘系の神矢は、降った日じゃないと得られない。いつまでも残っているわけがないだろ。神矢でスキルを集めようとする奴は、大量にいるんだぜ」


「……じゃあ、無理、ですよね」


 ゼクトさんは、無理だからやめておけと言っているのか。そもそも、戦闘系のスキルはひとつも持ってない。人気が高いスキルの神矢は、大勢の人で奪い合いになるんだ。


「おまえ、超級薬師か。ふん、それなら金が作れるな」


 えっ? 僕のスキルを知ってる? いや違う……ゼクトさんも見れるんだ。


「超級薬師ですけど……」


「金を作って神矢ハンターを雇えばいい。半年ほど前に大規模な神矢が降ったから、まだしばらくは降らない。降ったとしても薬師の神矢だ」


「なぜ、そんな情報を? それに神矢ハンターを雇うってどれくらいのお金が必要なんですか」


「そうだな、ピンキリだが……くそ弱いおまえの護衛を兼ねて付き合うなら、一日当たりこれくらいだな」


 そう言って、ゼクトさんは、人差し指を一本立てた。ええ〜? 金貨1枚? でも、それなら僕も3枚ある。でも、3日分か。3日では、中級の神矢を数本集める程度にしかならない気がする。


 神矢は、超級までの種類がある。でも、その上の極級になるには、確かいくつもの種類の超級ハンターにならなきゃいけないんだよな。


「金貨1枚なら、なんとかなりそうですけど、何十日もかかりますよね」


「は? 金貨100枚だ。金貨1枚で動くような神矢ハンターなら、極級の条件を揃えるより先に、寿命が尽きる」


「ええっ? 1日で金貨100枚ですか! 神矢ハンターってそんなに高いんだ」


「おまえみたいなクソ弱い坊やの護衛を兼ねるなら、妥当な金額だと思うぜ」


「どこにいけば、神矢ハンターと連絡できるのでしょうか。冒険者ギルド? それに、僕みたいな子供が依頼をしても大丈夫なのかな」


 すると、ゼクトさんがクククと笑った。


「金貨100枚と言われてビビったか。さっきまでの勢いはどうした?」


「えっ、あ、はぁ。いろいろと不安が……。それに、神矢ハンターと連絡が取れても、受注競争が激しいですよね」


 商業ギルドでは、僕みたいな半人前でさえ、ソムリエだとか薬師だというだけで、あんなに依頼が多いんだ。神矢ハンターとなると、その何百倍、何千倍の倍率になりそうだ。


「それなら心配はない。俺は、気が向かないと依頼は受けないからな」


 えっ? 俺は?


「もしかして、ゼクトさん、神矢ハンターのスキルも持っているんですか!?」


 僕が思わず、乗り出してしまったせいか、彼は少し後退した。眉をひそめている。


「俺のジョブは、神矢ハンターだ。おまえ、そんなことも知らずに、よく、俺に憧れているなんて言ったな」


「ええ〜っ! す、すみません! ジョブは、ハンターなのは知っていたんですけど、何ハンターなのかまでは知らなくて……。もしかして、今の条件って、僕がゼクトさんを雇うってことですか!?」


「あぁ、不服か? 神矢ハンターの技能は、俺より高い者はいないはずだが」


「不服なわけないじゃないですか。僕みたいな子供に、ありがとうございます! 嬉しいです、めちゃくちゃ嬉しいです!!」


 まさか、ゼクトさんを雇えるなんて、夢みたいだ。


「言っておくが、まだ条件を提示しただけだ。受注するとは言っていない。それに金を作れなければ、この話は無しだ。時間がかかりすぎても、俺は気が変わる」


「わかりました! 頑張ります! いつまでにお金を貯めればいいですか」


「ハンターの神矢なら、一年以上先だろうな。それまでに俺と契約すれば、神矢が降る日の情報を教える」


「わかりました。お金を貯めたら、冒険者ギルドに依頼すればいいですか?」


「いや、冒険者ギルドは通さねぇよ。この街にあるカラサギ亭という飲み屋のマスターに言え。俺に繋がる」


「はい! わかりました! よろしくお願いします!」


 僕が頭を下げ、頭を上げたときには、もうゼクトさんの姿はなかった。一瞬、夢だったんじゃないかと疑ったけど、まわりの反応に安心した。


 マルクの声が聞こえないほど、大騒ぎになっていた。



日本円に換算すると

金貨1枚、100万円

銀貨1枚、1万円

銅貨1枚、100円

と、お考えください。

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