救世主
この世に生まれた人間には皆何かしらの役割を与えられ生まれてくると僕は思っている。
その人にはその人に与えれた役割、似たような人は居ても同じ人は居ない。
「この世には自分に似た人間が3人はいる」なんてよく言われるが似たようなだけで同じではない。
だから僕は僕に与えられた役割をこなす、生まれてから毎年、毎月、毎日、毎時、毎分、毎秒……
常に僕が僕であるために最適解を考え、その通りに役割をこなしていく。
それが親に敷かれたレールだとか、お利口さんだとか、優等生だとかは関係ない、人生で僕と言う歯車は僕しか居ない。
「それじゃ、今日はここまで。復習を必ず行うように」
先生がいつものように授業を切り上げる、この先生は必ずチャイムの5分前に授業を終える。
だからチャイムまでの沈黙の5分間が訪れる、ほかのクラスはまだ授業中だからだ。
僕はふと空を見る、今日は綺麗な快晴だ、雲1つない、この青空の青さを汚すものは何もない。
よく、昔の人は「昔のほうがそれが綺麗だった」とか言うけど、正直、空の青さはあまり変わらないと思う。
そしてあっという間に5分は過ぎ、チャイムがなる。
生徒は慌しく、教室を飛び出していく、彼らの役割はこれから始まる。
塾へ行くもの、趣味に勤しむもの、バイトに向かうもの、家に帰るもの、部活動に精を出すもの……
僕はどれでもない。
「よっ、相変わらず死んでそうな目してんな」
教室の窓際の席に居る僕に、態々声をかけて来たこの男。
名前を『吉沢悠』、はるかなんてかわいい名前をしているが正真正銘の男だ。
しかも、柔道部のレギュラーでエースを任せれている、俺とは正反対の役割を持つ。
「うるさいな、放っておいてくれ」
「そう言う訳にもいかないのはお前も分かってるだろ?」
僕はわざとらしく大きな溜息をついて見せた。が脳みそが筋組織で構成されたこの男にはそういった行動自体が無意味なのは今に始まったことではない。
ことは分かっていても僕は敢えてそうする、そうすることが僕とこいつの関係だ。
腐れ縁の幼馴染、もしこれが男女なら、誰しもがあこがれるシュチュエーションになると思うが現実はそうではない。
ただ、僕自身それほど異性に興味もないし、こいつもそう思ってないことは分かる。
そして、僕の問題はこいつが機械みたいにまじめで一直線な男だってことだ。
普通ならこいつの役目は部活で練習をすることだろうが、柔道部の顧問から「お前が居るとほかの部員のモチベーションが下がる」と遠まわしに言われたそうだ。
そして、こいつは考え、考えた末に練習に参加しない、公式大会以外に出場しないと決めたらしい。
だから俺はこいつが嫌いだ。自分じゃない役割を他人に強要されているし、それもいいと自分に言い聞かせ、納得させている。
だから俺はこいつが嫌いだ。
「帰るか」
だから、僕はこいつの今の役割に合わせてやる、それも僕の役割だ。
吉沢は、うれしそうに僕の後につく、他人からは僕と吉沢の関係がものめずらしいからか、邪推な想像をするものも多い。
しかし、僕は、僕の正しい役割をこなすだけだ。それが恥ずかしいだとか、無理しているとかならやめればいい。
「はじめは部活、なんもしないのか?」
この質問はこいつと居る間に無限回は答えたが、こいつは覚えてないのか、覚える気がないのか、本気で忘れているのか何度も聞いてくる。
「部活で時間を使うのは僕らしくない、他人に拘束されることも、他人と同じ目標に向かっていくモチベーションだとか僕には無理」
「いつ聞いても同じ答えだな」
「お前な……」
あきれを通り越して言葉を続けることをやめた。
「お前こそ、いつまで子供のときの約束を引きずる気だ?」
「約束は一生だからな」
その笑顔が偽者だってことはもう分かっているのに吉沢は俺に本当のことを話してはくれない。
余計な言葉や、おせっかいはできるのに、唯一の幼馴染にいまだにわだかまりを感じて、本気で向き合ってくれない。
けど、それは僕の役割の範囲外だと思うし、それ以上は聞かないことにしている。
しばらく歩くと持ち寄りの駅へとつく、それなりに居る人々はいつも役割に追われている。
大人はいつも自分の役割に押しつぶされそうで、余裕がない、大人になるときっと役割が大きく、重くなるんだなと僕はいつも思う。
「どうした?」
「別になんもない」
人のこと言えないと僕は思った、僕もこいつに嘘を付き続けている。
でも、それも僕の役割の1つだ、だから言わないことが正しい。
それが正しい。僕は正しい。
「今日も相変わらず混んでるな」
僕たちが住む町はそれなりに人が行き交う繁華街だ。
北と南に分かれた駅の出入り口はそれぞれバスのロータリーになっておりいつも人が列を作っている。
都会とまではいかないがそれなりに栄えている。
学校から駅まで歩いてそれからバスを乗り継いでいくのが家へのルートだ。
自転車のほうが早いし楽だが、僕は自転車に乗れない。
「はじめが電車に乗れればなぁ」
「うるせえ」
この憎まれ口も何度も聞いている。
何度も何度も。
「はじめ?」
僕は名前を呼ばれ、ハッとした。
いつの間にか、目から涙が溢れてたみたいだ。
「さあ、早くバスに乗ろう」
「なんか変だな、はじめ」
僕が足をバスのステップに足を掛けると、急に空気が凍りつく。
それは文字通り空気……いや、空間が凍りついたように動かなくなった。
そして、僕だけ動ける。もう何回繰り返したか分からないやり取り……
「今回もだめそうですね」
周りと同じような凍ったような声が僕の耳に聞こえる。
バスの中から幼い女の子が降りてきた。
彼女は天使だか悪魔だか神様だかなにかだ。
そういう役割のものだと聞いている……
「またやるよ」
「そう言って何度目ですか?」
彼女の言葉は冷たい、僕の心に突き刺さるほど。
「もう何回目か数えてないよ」
「嘘ですね」
彼女は僕の目の前までくると僕の顔を睨み付けた。
「嘘だよ。今日で3兆5999億1004回目だ」
僕はわざとらしく体をそらし、彼女の視線から外れる。
そして親友だったはずの吉沢を見据える。
「お前はいつも僕のそばにいるな。本当に馬鹿なやつだよ」
僕はもう1度最初からを選択する。
僕の役割はただ1つ、この世界を救うこと。
「では、世界をリセットします」
僕は……また眠りに付いた。
目を覚ました。
何度も繰り返した、朝だ。
『市川一』それが僕の名前だ。
眠りから覚めた僕は、まず日付を確認する。
2011年4月8日……僕の高校生活の初日だ。
僕は急いで制服に、着替えリビングへと向かう。
「おはよう母さん」
「おはよう」
母さんは綺麗にスーツを着こなし、今もう出かけようとしているところだった。
「父さんは、まだ帰ってきてない?」
「あと2週間は出張から戻ってこないわ、もう行くわね」
「いってらっしゃい」
母さんはそそくさと家から出て行った。
リビングの机の上には見開封の食パンの袋と、ゆで卵が置いてあった。
僕はそれを小さな袋に入れるとかばんに詰めた。
そして家を出て、鍵を閉める。
「時間がない」
僕はそうつぶやき学校へ向かった。
学校は都立の普通の定時制の高校だ、何も変わりはしない。
見慣れた校門をくぐると俺は真っ先に校舎の脇にある用具倉庫の横に彼はいる。
おかっぱ黒髪の背の低いめがねの男、僕はそいつに向かって朝ごはんを差し出す。
彼は驚いたようだが黙ってそれを受け取り僕に感謝の言葉を述べ一礼した。
新入生の歓迎会を終えると、教室で自己紹介があり、僕はそこでやらなければならないことがある。
「オカルト研究部を作ります」
僕の自己紹介はオカルト部の創立を促し、事前にメンバーをそろえること。
もちろん、普通の人間ならこんな怪しいやつが言うことなんて聞かないし、賛同しようなんて思わない。
けど、運命は収束する。それは何度も試した。
放課後、最初のピースが手に入る。
僕が帰りの支度をしている、振りをしていると1人の男子生徒が声を掛けてきた。
背の低い黒髪でおかっぱ頭のめがねの『花木洋平』。
「こ、こんにちは、僕は花木洋平。僕もオカルト研究部に大賛成なんだ」
花木は少し興奮気味で僕にそう伝える。
僕は、黙って手をだす、そう握手を交わすために。
出された手をじっくりと見た後、花木はあわてて同じように手を出した。
そして僕はぐっと手を固く握った。
花木は人とコミニュケーション取るのがすごく苦手だ。
本当なら半年ぐらいはこいつはオカルト研究部に入ってこない。
けど僕は知っている、花木は朝ごはんを抜くとこの世のすべてが嫌いになる。
だから僕はあらかじめ朝ごはんをもってきて渡した。
わざと顔を覚えてもらうために、そして花木は怪しい僕の提案を飲む。
これで一歩なんだ。
「まだ部員が足りないし、顧問の先生も見つけなければならない。協力してくれ」
僕は花木に、顧問の先生を見つけてもらうことにした。
そっちのほうが簡単だと分かっているから。
「で、でも僕、人と話すのが苦手なんだ」
「大丈夫、見つけらなくてもいい。とりあえずそれが君の役割なんだ」
なんとか納得させて、先生探しをさせる。
時間がとにかく足りない。
僕は足早に教室を飛び出る……が。
「おい。ちょっとまてよ」
僕は思わず足を止める、会わないつもりでいた。
「はじめ……」
僕は恐る恐る、振り返る。
そこには吉沢が立っていた。
「ごめんな、急いでいるんだ」
僕はそういって、振り切ろうとするが吉沢は肩を力強く掴む。
「なんだよ、痛い」
「わ、悪い」
そう言って肩から手をどけるが、一向に用件を言わない吉沢。
僕は、大体のことは分かるが吉沢の言動、行動、思考はまったく統一性がなく、毎回違った反応をしたり、何度も同じことを繰り返したり、僕のことをまるで邪魔するようなことをしてくる。
「な、なあ、やめないか」
「何をだよ」
吉沢は目を泳がせながら、何かを言いたそうな顔をしている。
しかし、僕には時間がない。
「ごめん」
そういって、足早に廊下を進む。
追いかけてくるかと思ったが吉沢は付いてくることはなかった。
僕が急いでいる理由は、とある電車に乗らなければならないからだ。
そして、とある物を用意しなければならない。
赤い絵の具と、薄いビニール袋だ。
時間通りに僕は電車にのる、とある女生徒と男子生徒が乗る電車に。
非常に気分が悪くなるが、何度か繰り返したことだと自分に言い聞かせる。
電車に乗り、しばらくすると人が増え、混雑してくる。
本来であれば椅子に座るところだが、今は立っている必要がある。
やがて電車の発車のアナウンスが流れ、事件が起こる。
「やめてください」
1人の女性が声を上げた、若い女性だ。
女性の手には1人のスーツを着た男の手が掴まれていた。
「痴漢です」
女性は続けてそう言う、電車内はざわつく。
普通の人間なら、この場合、我関せずを貫くだろう。
しかし、世の中には正義感が強い役割の人間が何人か居る。
「あのー」
女性を中心にざわついた場所で、2人の制服に身を包んだ男女が声を掛ける。
「僕たち、たまたま見てましたけど。その男性は痴漢なんてしてませんでしたよ」
男子生徒の方がそう女性に伝えると、またも電車内がざわつく。
「女が嘘を付いてるんだ」
スーツの男がそう叫ぶ。
しかし、他の乗客が「俺は見てたぞ、その男が女性を触っていたのを」と言い出す。
女生徒も「私もスーツの人は触ってないのを見ました」と続ける。
電車内は、誰の言葉を信じるかで割れているように聞こえる。
騒ぎは大きくなり、女性とスーツの男の言葉が強くなっていく。
「次の駅で降りるぞ」
先ほど女性を擁護した、男がスーツの男性に告げると男性も頷いたようだ。
女生徒と男子生徒も付いていく、だから僕も付いていく。
そして、次の駅で騒ぎを起こした人間たちと僕と、他の乗客も数名降りた。
「てめぇ、痴漢しといていい度胸だな。警察呼ぶぞ」
電車から降りるとすぐに、男が怒鳴りだす。
男は、かなり大柄で顔もかなり強面であり、男性はだいぶ萎縮している。
しかし、女生徒と男子生徒は相変わらず男性の擁護をしている。
そろそろ駅員が来る、だから僕は行動を起こす。
さりげなく近くを通るようにしてその大柄な男にぶつかる。
特性の血糊を口に含みながら、ぶつかった衝撃で吐血したようにして。
「きゃあ」
女性が悲鳴を上げる。
そこへ丁度、駅員が来る。
僕は咳き込んだ振りをしながら、その場にひざを着く。
大柄な男の服は真っ赤に染まり、床にも偽物の血溜りができる。
この参上を見れば、駅員は痴漢騒ぎどころではない、一発警察ものだろう。
当然、免罪を仕立て上げようとした女性と、大柄男は逃げ出す。
自分たちの立場が危うくなるような状況にはしたくないだろう。
「君、大丈夫か?」
駅員の1人が僕に話しかけるが僕は平然と立ち上がり。
「あ、すみません絵の具をこぼしてしまって」
「いや、それはいいが……」
といい終わらないうちに僕は「急ぎますので」とその場を離れる。
こうして彼と彼女が余計なトラブルに巻き込まれる必要はなくなるのだ。
僕は自宅に帰り、急いで制服を洗濯する。
絵の具はなかなか取れない。
そしてテレビをつける、丁度ニュースをやっている。
「えー、続いてのニュースです。未だに原因不明とされているなぞの失踪事件ですが、未だに手がかりがつかめていない状況となっています……」
暗いリビングでテレビを見つめながら僕は溜息をついた。
これ以上、犠牲者を増やしたくない。
胸ポケットからボロボロの手帳を取り出すと、今日の日付の欄を見つめる。
そこには48人とバツと書いてある。
本来、無くなるはずだった人数だ。
僕が唯一、彼女に許しを得て持つことを許可された僕の記憶以外の記録だ。
部屋に戻ると、机の鍵の付いた引き出しを開ける。
そこには一冊の分厚い本がある、カバーは珍しい羊皮紙を使った、かなり古い本。
ゆっくりそれと机の上におく、表紙は調べた限り、この世に存在しない文字と思われるものが書かれている。
しかし、僕はそれが読める。
でも、読んではいけない。
声に出したら、恐らく僕は死ぬ。
そう言う本だ。
そっと1ページ目を捲る、文字が書かれている。
ずらりと、隙間無く、黒い文字が書かれている。
血で書かれた文字が……
僕は本を閉じ、それを元の引き出しの中に入れた。
この本がどうやってここに来たのかは分からない。
でも僕は選ばれたそれだけは分かる。
僕の役割は救世主。
その役割を全うするだけだ。
翌日の放課後、引き続き部員探しと称したフラグを作るために僕は学校のいたるところにある記号を書いた札を張りに行く。
もちろん、これは他の人間から見ればいかにも怪しい行動だ。
しかし、僕を見た人間は思うだろう「こいつはオカルト好きのイカレタやつ」だと。
それでいい、それが僕の望みだ。
「けど、きっとあいつは俺を止めようとするだろうな」
思わず口に出した言葉に僕自身、驚きながら頭を振って思考を振り払う。
今は、まだ考えない。少しでも時間を稼ぐ。
「なにしてんだ?」
僕は驚きながらもその声のほうに振り向く、そこには白衣に身を包み、少し寂しげな頭皮とそれに反比例するように生えた白いヒゲを携えた初老の男。
「こんにちは。進藤先生」
この男は『進藤泰久』、生物学を教えている教員だ。
僕が例外的に行動を知ることができない人物の1人だ。
「いたずらもほどほどにしとけよ」
それだけ言うと進藤先生は離れていく。
学校内に敵は居ない、そのはずなんだ。
そうあってほしい。
僕が札を張り終えて教室に鞄を取りに戻ると教室の前に2人の男女が中を覗いていた。
男子生徒のほうは『日村悟』、女生徒のほうは『日村叶』。
昨日の一件を不思議に思い僕を探しにきた、僕がそうなるように仕向けたと言った方が正しいか。
「誰かを探してるのかい?」
僕はわざと2人に声を掛ける、すると2人は少し驚いたような顔をした。
しかし、すぐににっこりと笑い続けて僕にこう言った。
「オカ研に入れてほしい」
「と言うよりあなたを観察したい」
悟と叶が続けて言う。そう、彼らの趣味は人間観察。
しかも、変わった人間を見たいのではなく、彼らの物差しで普通に生きる人間をよく見たいという、かなり変わった趣向を持っている。
まあ、僕が普通に生きてると言えるかどうかは、分からないが。彼らに言わせれば、人の争いを止め様とするのは、人間なら普通らしい。
そして、彼らも今後、敵との戦いに必要なピースの1つ……いや、2つか?
「まあ、観察は分からないけど、オカルト研究部には大歓迎だ」
そう言って、携帯で花木にショートメッセージを送り、その間に自己紹介を済ませる。
数分もしないうちに花木は教室までやってきた。
悟と叶が軽く会釈するが、花木は固まっている。
「こいつは花木洋平、オカルト研究部の部員の1人だ」
そう言うと代わる代わる、悟と叶が挨拶と自己紹介をするが、花木は上手く言葉を返せない。
花木のコミニュケーション能力は、なんとか特異点までに改善の余地ありだな。
「悪いな、2人ともちょっと人と話すが苦手なんだ」
「大丈夫ですよ」
2人はそんな花木に笑顔で居てくれる。
この2人は一緒に居ればなにも問題ない。
心強い味方だ。
「よ、よろしく……」
小さい声ながらも花木は言葉を発した、今までで一番、いい反応かもしれない。
そんなことを感じながら、僕は背中に何か冷たいものを感じた。
周囲を慌てて振り返るが辺りに他に人間の姿はない。
窓から外を見下ろすと、校庭には運動部が激しく動き回ってはいるが、こちらを見ているような人間は見当たらない。
僕はその寒気に一層警戒をしつつ、話を進める。
「これで僕含めメンバーは4人となった、部を設立するには後は顧問の先生と、部員が1人足りない。部員のほうは僕が何とかするから、花木と悟、叶は顧問の先生を探してほしい」
僕がそう言うと、花木が1枚の紙を取り出し、僕に渡してきた。
「こ、これ、僕が頼んでみた一覧なんだけど……」
紙には5人の名前と、その時の反応が書かれていた。
上手くコミニケーションができない花木が、ここまでやってくれるのは僕への感謝もあるが、高校デビューで今までの自分を変えたいと言う、原動力がある。
僕はそこを上手く刺激すれば、後は本人が頑張ってくれる。
なんか、ずるいような気がするが、僕はこれをもう何度も繰り返し試している。
「ありがとう」
だから最適解を僕は、知っている。
僕はその紙を受け取り、2人にも見せる。
2人は頷き、積極的に花木に話しかけていく。
花木は困惑しているが、今はしばらくは任せたままでいいだろうと思う。
今後の方針を決めた後、僕たちを解散した。
家に帰ると僕は、またあの本を広げた。
1ページ、2ページと順に本を捲る、その中にある一文を探すために。
擦れた文字で書かれたそれは……
僕は家を出て、駅へと向かう。
混雑している、バスに乗り僕はわざと乗客とくっ付く。
「どれいんたっち」
僕がつぶやくと、体が熱を持ったように熱くなる。
対象から魔力を奪う……それが「どれいんたっち」だ。
駅に付くまでの間、僕は次々に人から魔力を奪い続ける……いや、分けてもらう。
少しずつ、でも、多くの人から、より多くの人から分けてもらう。
僕は、そう自分に言い聞かせる。
これも計画に必要な、ピースの1つ。
僕から魔力を取られた人は、いつもより疲労感が増す。
でも、大量に奪わなければ死んだりしたりはしない。
バスを降りて今度は電車に、乗り込む。
また、バスと同じように密集した中で「ドレインタッチ」を繰り返す。
本来、魔力は個人、個人に器が決まっており、それ以上増えたりはしないのだけど、僕はお手製の魔力を保存しておける小さいガラス瓶を大量に持っている。
ここに余剰魔力を保存すれば、本来人がもっている魔力量を大幅に超えられる。
僕は電車の乗り降りを繰り返し、瓶が一杯になるまで魔力を集めた。
これが今後必要になる……僕は大きく溜息を付きながら家へと向かった。
辺りの日は落ち、すっかりと暗くなったが僕の家に明かりはない。
父さんと母さんは仕事でいつも忙しい。
役割を全うしていることが正しいとは頭では分かっている。
部屋に戻ると、机の上に本が置きっ放しになっていた。
僕は慌てて、それを机にしまう。
集めたガラス瓶も押入れの金庫の中に大事にしまう。
そこで僕は全身に力が入らないことに気が付いた。
「ま、間違えて自分の魔力も全部瓶詰めにしたのか」
スーッと意識が消え、僕はそこで倒れた。
夢を見た、広い野原に空は燃えるように赤い。
野原に立っている僕の周りに黒い蝶がたくさん舞っていた。
そしてどこからとも無く木槌の音がする。
それと同時に僕の体は燃えた、すごく熱い。
熱が口からのどを焼き、肺と胃を焼き尽くす。
消そうとしても消えない炎。
どこからか声が聞こえる。
「罪人よ。この世の断りから外れた罪人よ。一刻も早く裁きを受けよ」
低くくぐもった、それでいて恐ろしい声が脳に響くみたいに聞こえる。
僕は精一杯叫ぼうとした、けど喉は焼けて声が出ない。
それでも僕は叫んだ。
「いやだ」
声にはならなかった。
また木槌の音が聞こえたと思うと、僕は目を覚ました。
気を失ってからまだ、数分も立っていない。
全身は、汗びっしょりで床まで濡れている。
僕は、布団を敷き、洋服を着替え、風呂に入り寝た。
今度は夢は見なかった。
最後の1人は決まっている。
普通の高校になんて来ないような人間……名前を『柊終』。
本来であれば別の高校に進むはずだった、けど家の事情でおばあちゃんの家から近いここの高校に通うことになり、そして3年間不登校を貫き退学する。
そして、彼女は今は図書館で勉強してる振りをしている。
おばあちゃんに心配を掛けたくないからだ、けど学校へは行きたくない。
そんな訳で僕は学校をサボり図書館に来た、町の隅にある小さい図書館だがなぜか年代の古い書籍ばかり並んでいる。
図書館の隅のほうでわざわざ、制服姿で本……と言うよりも絵本を読んでいる彼女に話しかける。
「おはよう」
彼女は僕の言葉を無視する……と言うよりも自分に声が掛かっているとは思っていないのだろう。
*続きは後日




