これは、神も罰すのを放棄した、哀しい男の半生。それとも人生なのだろうか。私に決める権利はない。
神は人間界を常に見下ろすというのは、信仰の有無に関わらずよく言われている事だ。神は人間界を常に監視し、悪しき者は裁かれ、善き者にはたまに天からの恩恵を授けてやる。うむ、やはり定説だ。尤も、本当に事実かと言われると誰しも自信満々に首を縦に振るのは難しい。それが神でもなければだが。今から話すのは、そんな神が、終に罰すことを放棄した男の半生である。
男はまだ若い。日本国においての義務教育終了以前の14歳。一般的な14歳といえば中二病真っ只中である気はするが、彼にそこまでその病の進行している様子は見受けられない。というか、中二病の人間は案外と少ないのかもしれない。男の持論である。とは言え、この男に人を診察する資格などないが。
男は自宅から少し離れたとある地方都市の、ある程度有名な男子校に通っていた。成績はボチボチと言った所。というのも男は、学業の成績こそ良かったものの、物忘れが激しい性分であった。中学に入ってからだろうか。集中してやったことは忘れないが、気を抜いたときにやる事は、初めから聞いていないかのように綺麗さっぱり忘れてしまう。案外困らないような気もするが、実際のところ問題だらけで、一度教師に怒られてはひどく疲れてしまう。本人としては覚えがないのだから当然だ。病院に行こうとも考えた。だが男は同時にひどく悲観的で、もし何か脳の病の類と知られたら、家族に知られたら、と考えてしまうのだ。 そして結局行けなかった。
ところで、彼は男子校で過ごしている。そのため女に縁はないと分かっていたが、唯一身近に居た女がいる。寒音と言う。これで「かのん」と読む。幼稚園から関わりがあり、小学校も同じだった。中学は違うのは自明の理である。中学進学後もたまに会い、共に遊んでいた。体調を崩しやすい女であった。