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第三節 家と人と土地と…… 1話目

「さて、早速ですが行動開始といきましょう」


 ログアウト不可と宣言されたその日を適当な宿屋で一晩を過ごし、気分新たに手塚はベルゴールの街を歩き出す為に外へ出るためのドアに手をかける。


「まずは土地を買って、その後――」

「この役立たずが!! 注文取り一つもできねぇのか!!」

「きゃあ!」


 手塚が宿屋の扉を開けるとほぼ同時に隣接していた酒場のドアが乱暴に開けられ、一人の幼い少女が表へと放り出される。

 少女の見た目は決して裕福といえるものでは無かった。家事手伝いの質素な服装に、髪も普段から整えていないのか長い髪に癖がついている。しかしきちんと身なりを整えれば、誰しもが振り返る程の美少女でいられるのは間違いないだろう。

 しかしそんなことより手塚が引っかかったのは、そんな小さな少女が酒場で働いているという異様な事実だった。現実世界の日本で同じことをしようものならまず確実に店の方に立ち入り捜査が入るだろう。

大の大人が未成年のバイトで誤魔化せる年齢とは到底思えない姿の少女に半ベソをかかせているなど、手塚にとっては不愉快極まりなかった。


「ご、ごめんなさい……」

「ったく……」

「一体何があったのですか? こんな小さな子を相手に大人げないことをして」


 少女を守るように近くに寄り添って背中を手で支えつつ、手塚は酒場の店主と思わしき男の目をジッと睨みつける。


「あぁん!? 兄ちゃんには関係ない話だ!」

「いいのですか? こんな現場を見せつけられて納得いかないまま立ち去らせるというのであれば、この酒場の悪評が広まることになりますよ」


 あまりにも衝撃的な状況を前に手塚はこれがゲーム内だということを忘れて理論的に店主《NPC》の男を論破してみせる。すると男の方も観念したのか溜息を一つ大きくつくと、事情の説明をし始めた。


「……一ヶ月前に客の一人が代金を支払えないからって、自分の娘を置いていきやがった奴がいるんだよ。それで、代金分をそいつに請求しようにも一文無しだから、こうして働かせているんだが……給仕をさせようにも食いしん坊なのか何か知らねぇが客の飯をつまみ食いするし、かといって今みたいに注文を取らせに向かわせても覚えが悪いと来やがった。だからこうして叱り飛ばして分からせなくちゃいけねぇんだよ!」


 それは無理な話があるだろうと、手塚は喉まででかかった。しかしここでトラブルを起こすのも面倒だと思った手塚は、とっさの処世術として少女が支払うべき金を肩代わりすることを決める。


「……いくらです?」

「あぁん?」

「その男の代金、私が肩代わりしましょう。その代わりこの子を私が引き取ります」

「引き取るって……まあ、いいか。このまま穀潰しをうちに置いておくよりはマシか」


 そう言って店主が述べた通りの金額を手塚は支払った手塚は、幼い少女の手を引いてその場を去って行く。


「多少ふっかけられたかもしれませんが、この程度のはした金ならば大したこともないでしょう」

「あ、あの」

「どうしました?」


 いち早くその場を離れてようと歩く手塚の足を止めるように、少女は手塚の方を見上げてそのクリッとした両目でジッと顔を見つめる。


「……どうして?」

「どうしてって、何がです?」

「どうして、助けてくれたの?」


 少女の想定していた未来は、あの後理不尽に蹴られ続け、それを耐えるしかないとその場にうずくまって丸まる自分という姿だった。しかし現実として今、見知らぬ男にあの忌むべき場所から解放され、こうして足取りも軽く離れていっている。


「どうして?」

「……まあ、目の前でああいったものを見せられて、そのまま無視するのも気分が悪いですから」

「でも、お金が――」

「ああ、お金の件は別に構いません。あの程度なら別に痛くもないですし」


 アーノルドが残した遺産は思ったよりも莫大なもので、宿屋での一泊も少女の解放も手持ちのお金と比べれば何とささやかなものなのかと錯覚させる程の金額を手塚に残している。

 そんな手塚であったが、金銭面ではない別方面で悩みを抱えることになる。


「このまま貴方を両親の元に帰すべきなのでしょうが――」

「っ、いやだ……お家には帰りたくない」


 このように手塚から離れまいと手をぎゅっと握ってくるあたり、酒場も親元も決して良い環境とはいえなかったのだろう。それを察してしまうがために、手塚は自分が何とかしなければならないという重荷を背負うことに。


「では私について来ますか? とはいっても、まだ何も――」

「うん! ついていくよ!」

「……そうですか。分かりました」


 二つ返事で返されてしまった手塚はそれ以上何も言わず、再び少女の手を引いて歩き始める。


「わたし、ノインっていうんだよ! おじさんの名前は?」

「おじさんですか……三十超えたらそうなりますか」


 手塚は少々ショックを受けながらも、ここでもやはりゲームで登録した名前の方で幼い少女に向けて自己紹介をする。


「私の名前はミッチーといいます。おじさんといわず、気軽に呼んで貰って構いません」

「分かったよ、ミッチーおじさん!」

「……悪化しているような気がするのですが」


 同じおじさんとつけられるのであれば、本名の方を伝えれば良かったかと、手塚はここで少しばかり後悔することとなった。

 (ひと言)幼女です。はい。


 小説を楽しんでいただけた際には、恐縮ですが評価等いただければ幸いです(作者の励みになります)。(・ω・´)

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