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第二節 出会い 3話目

「ひとまず運営に相談してみましょう」


 どんな時でも冷静に対応――手塚が常日頃から心がけている信条のようなものだった。そして今回もまた冷静に事態に対処するべく、まずはヘルプボタンから運営とのコンタクトを図ってみる。

 暗い裏路地で浮かび上がるステータスボードの呼び出しボタンを押せば、どこからともなく例の少年が姿を現わす。


「おっと、ミーをお呼びかな?」

「おや? 運営を呼んだはずでしたが」

「うん。ミーがこの世界ゲーム全体の管理をしている管理人だけど?」


 半信半疑でしかないが、手塚は改めて目の前の少年に対してログインログアウト関連に不具合がでていると伝える。


「このゲームを中断すべくログアウトしようと思うのですが、どこから選べば良いのでしょうか?」

「へ? ログアウト? 何それ?」

「……分からないのでしたら、貴方ではなく別の方に――」

「なーんてね! ログアウト? ゲームの中断? そんなこと、ミーがさせるワケないじゃないか」

「……どういうことです!?」


 一息間を置いて考えてみたものの、手塚は目の前の少年が言っていることの意味を一ミリたりとも理解することができなかった。もっというとするならば、理解できないというよりも理解したくなかったといった方が正しかったかもしれない。


「ログアウトができない……? そんなこと、あって良いはずありません!」

「えぇー? 現実世界よりもこっちの方が面白いよ?」

「何を言っているのです! その現実世界で過ごさなければ――」


 手塚の言葉を遮るように、少年はずずいと鼻先三寸ほどにまで急接近をすると、前回の別れ際とは違って完全に悪意のある表情でもってこのゲームの真実を伝える。


「現実世界? ハハッ、何が面白いのさ? この世界ゲームのように憲と魔法のファンタジーがあるワケでもないし、本当の意味で自分自身の実力でのし上がれるワケでもない。既得権益にまみれたくっだらない世界なんかよりも、この世界ゲームの方が素晴らしいに決まっている! そうでしょ? だってそうじゃなきゃユーもこのゲームを買うことが無かったよね!? ねぇ!?」

「――ッ!?」


 化けの皮はとうに剥がされていた。今目の前に浮かんでいるのはこの世界ゲームを我が物とする悪魔、否、悪魔よりも恐ろしい何かだとしか思えない。


「……デスゲーム」

「うん? 誰かがそう言ってたの? だとしたらその人、前作を知ってる人かもしれないね!」


 死神アーノルドがしきりに訴えていた言葉の意味が、ようやく理解できたのかもしれない。そう、これは――


「――クリアするまでログアウトできない。つまり事実上ユーの現実リアルの肉体が朽ち果てて死ぬまで動けない。まさに――」

「――デスゲーム。ようやく理解できました」


 これではスローライフをしている暇などなさそうに思える。だからこそ手塚にはまだ不審に思える点が幾つも存在していた。


「しかしながら、貴方がどう思っているのかは知りませんが、人間飲まず食わずではまず一週間も持ちません。つまりタイムリミットは――」

「あーあー! それは違うよ! 全く、よくある質問リストに追加しておけば良かったかな!?」


 真剣な話のつもりであったがそこからまた一転、運営の化身である少年はあくまで今のは外に出る場合の話だと話題を仕切り直す。


「ユー達の身体はIPアドレスから逆探知して安全を確保する様にしているから安心して! もし警察が先に見つけたとしても、ミーの知り合いがちゃんと指定した病院に搬送するようにしているから、現実あっちの世界については何も心配する必要は無いよ!」


 あくまで身の安全は保証する――つまり死ぬまでとは、寿命が尽きるまでという意味らしい。


「し、しかし仕事はどうすれば――」

「仕事って、ユーみたいな人達が大勢いるワケだから、今頃現実世界は麻痺しているんじゃないかな? ひとまず現実世界なんてつまらないものは置いておいて、こっちの世界をエンジョイして貰いたいってのがミーの望みかな!」

「……そうですか」


 現実世界は最早機能停止しているに等しい。そしてこの世界ゲームが、全てを乗っ取ろうとしている。少年はひたすらに現実世界をコケにし尽くし、自らが創り上げたこの世界ゲームを賛美していた。


「まっ! 現実世界のしがらみなんて全て忘れて、この世界ゲームを楽しんでいってよ! それじゃ、チャオ!」

「…………」


 軽い質問のつもりがかなり重い問題となって帰ってきてしまい、手塚はそれ以上何も言えず、ただ裏路地に一人立ち尽くしていた。


「……ええ、仕方ありません。ログアウトができないのであれば、せめて今の状況を何とかするまで」


 転んでもただでは起きない男、それが手塚作道。


「そしてあわよくば念願のスローライフを、堪能するまで……!」


 ……まさに、転んでもただでは起きないといえるだろう。

ここまでプロローグ的なものですが、読んでいただきました読者の方々に多大なる感謝を。


 小説を楽しんでいただけた際には、恐縮ですが評価等いただければ幸いです(作者の励みになります)。(・ω・´)

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