第二節 出会い 1話目
「これは……どうしましょうか」
“冷徹な死神”と呼ばれ、多くの人間からお伽噺のように恐れられたプレイヤーは、手塚の目の前で消え去った。まるで天に召されるかのごとく、死体も残さずに塵となって消えていった。
そして手塚に残されたのはステータスボードに詰め込まれた装備品の数々と、まだ比較はできないものの明らかに桁違いだと分かるようなお金。そして極めつけは――
「――まさか、いきなりレベル120ですか……」
このゲームにおいては、相手がそれまで培ってきた経験値を、PKえできれば丸々奪い取ることができる。つまり今の手塚のようにレベル1であろうと何かしらの奇跡で高レベルの人間を討ち取ることができれば、そのままレベルを引き継いで自分のものとすることができる。
「まるで真田幸村の最期に立ち会った武士のような気分ですね……」
一瞬にして雑兵から世界有数の高レベル帯のプレイヤーへと転身を遂げた手塚であったが、その実感は全くもって湧いてこなかった。
「いくら高レベルとはいえ、宝の持ち腐れとしか言い様がありませんが……」
資金があるのはありがたい。しかしそれに付随する装備品の数々が、手塚にとっては持て余すだけの代物と化している。
「特にこのリーパー・フロム・ヘルでしたっけ? こんな物騒な服を身につけて農作業なんてできる気がしないのですが……」
アーノルドという男が身につけていた防具のセット装備。身につければまさに死神のような恐怖と威圧感を相手に与え、相手の精神力を削るセット効果を併せ持っている。
「更にこの大きな鎌……草刈りには使えそうですが……」
手塚が大鎌と評しただけの大鎌、正式名称は断罪の鎌と呼ばれ、鎌という括りでは現状最高格レアリティの高い代物である。TPを微量ずつ消費するものの、振るう度に死神の斬撃と呼ばれる斬撃波が遠くまで飛んでいくという、遠近両用が可能な規格外の近接装備である。
「レアリティレベルは……どちらも120ですか。これは凄いのでしょうか?」
プレイヤーのレベルと同じように、装備にもレアリティレベルというその装備の希少さを示すレベルが振り分けられている。そしてレベル120ともなれば現状の最高格のレベルともいえる代物だということなど、初心者の手塚が知る由もなかった。
「しかし体験版が先行配信されていたとしても、ここまで凄いものを揃えられるものなのでしょうか? 疑問が残りますね……」
そもそも体験版一ヶ月でここまでレベルがあがるものなのであろうか。事前情報では最高レベルが150だということを手塚は聞いたことがあった。だとすれば後30レベルでアーノルドはレベル最大にまで到達できたことになる。一ヶ月でここまでレベルを上げられるのならば、ネットゲームの中では既にぬるゲーの部類に入ってくる筈。
しかしあの男は、このゲームをデスゲームだと言っていた。その言葉の意としてはぬるゲーとは真反対のイメージが浮かび上がってしまう。
「……まあ、初心者が考えても仕方がありません。ひとまずステータスの割り振りをしましょう。農作業などもするのですから、筋力はそれなりにあった方が良いかもしれしませんね」
そうして手塚が考えに考え抜いた結果、割り振られたステータスは新たにこのように更新される。
筋力 SS
耐久力 A
知力 S
精神力 S
器用さ SS
運 A
「……本当に、これで良かったのでしょうか?」
ついさっきまで最低値であるEが立ち並んでいたステータス値に、プレイヤーの一つの到達値ともいえるSが立ち並んでいる。そして中にはSS――つまり評価値Sを超える評価まで到達したステータスまで出来上がってしまっている始末。
「こんなことになるのでしたら、アーノルドさんに先にステータスの割り振りを聞いておけば良かったでしょうか」
ひとまず汎用性をベースに筋力と器用さに割り振りを大きくしたことにより、他の高レベルプレイヤーと遜色ないどころか頭一つ抜けるようなステータスにまで成長を遂げてしまったことになる。
「……他にも色々アイテムが頂けましたが、今のところ使い道は分かりませんね。これは大切にしまっておくことにしましょう。後は……これは普通に装備していても問題がなさそうですね」
恐らくはアーノルドという男のそれなりの気遣いなのだろう。レアリティレベルがそれなりに高いだけの革で作られた防具と何の変哲も無い鉄製の直剣を装備し、そしてアイテム欄にあったこの世界の地図を手に持って、手塚は最寄りの小さな村へと脚を運ぶことにした。
この後も数奇な出会いをすることになっていきます。(´・ω・)
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