第一節 1⇒120へ…… 2話目
――次に目の前に広がったのは、広大な草原とどこまでも青い空だった。それは都会の喧噪を一発で忘れさせるような、胸の空くような清々しい光景だった。
「おおぉ……」
「フッフッフ、どうやらこのゲームとは思えない風景には圧倒されたようだね」
まさにそうだろうとしかいいようがなかった。事前に宣伝などで見聞きしていたとはいえ、実機でそれ以上のものを見せつけられては誰しもが言葉も失ってしまうだろう。
「……さて、と。最後にこの世界の基本ルールを説明させてもらうよ。この大陸では、六つの国がそれぞれの天下を求めて争いを続けている。プレイヤーはいずれかの国に仕官して貰って、一兵士として働いて貰うことになる」
元々がPVPをメインとしたゲームなのだろう、説明の内容もPVPに沿った内容が手塚の耳に届けられる。
しかしあくまで目的はスローライフ、争いごとには一切興味が無い手塚は手短に近くの国に仕えてスローライフを送る計画を立て始める。
「因みにここから一番近い国はどこでしょう?」
「一番近い国? となるとやっぱり一度はこの暗黒大陸を統治したベヨシュタットが一番大国だし、首都までの距離も近いかな」
話によれば国によってある程度の職業の育成適正というものがあるらしい。しかし元より手塚には全く関係のない話。近くであればどこでも良いのである。
「分かりました、それでは早速ベヨシュタットとやらに向かいましょう」
手塚はそうしてその場を足早に去ろうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。少年は宙に浮いた状態で目の前に再び回り込むと、ゲームシステムについてもう少しだけ話をし始める。
「ほんとにほんとにこれが最後の説明! ユーのステータスについて説明させてもらうね! まずは右下に見えるのがLP。これがゼロになるとゲームオーバーだから気を付けて! 次にそのすぐ下にあるのがTP。これで各スキルを使うから、管理をしっかりとしてね!」
「まあ要するに、死ななければいいわけですね?」
元より争いごととは無縁、死ななければ良い。そうして要点だけ掴むように手塚が確認を返すと、少年はそれまでの年相応の雰囲気から、まるで悪い大人がするかのような笑みをニヤリと浮かべた。
「……まあ、そうだね。死ななければ、ね」
「……何です、その含みのある言い方は?」
「いや、何でもないよー?」
そうして少年はニヤニヤとした表情を浮かべてまま、まさに妖精らしいというべきか、その場で霧隠れするかのようにすぅっと消えていった。
「……まあいいでしょう。ひとまず最初の街に向かうとしましょうか」
ステータスボードとやらを開かなければ、所持品だったりステータスだったりを見られないのであるが、如何せんその辺りの説明は一切少年から聞けていない。
そうこう困っていた手塚であったが、ふとした拍子に目の前に立体映像のステータスボードが現れ、所持品やらステータスやらが表示され始める。
「おお、素晴らしいですね」
テレビ取材によれば脳波を読み取ってまるで本当に自分の手足を動かしているような感覚に陥るとあったが、まさにその通りであった。頭で考えるだけで、目の前のボードが閉じたり開いたりと、自由に操作が可能となっている。
「これは……各成長パラメータについてですか……」
レベルが1上がるごとに、自分で好きなように割り振る事ができるようだ。
「全部で六種類……ひとまず全て見ていきましょう」
筋力 strength 物を持てる最大積載量。武器の取り扱い。物理的攻撃力にも適用。
耐久力 durability 物理耐性。身体的バッドステータス耐性。
知力 intelligence 魔導書解析の速さやTP最大量アップ。発想力。
精神力 mind 魔法耐性。精神的バッドステータス耐性。
器用さ proficiently 手先の器用さ。武器の取り回し。俊敏さ。
運 luck レア泥率アップ。クリティカル率アップ。
「……振り分けについては後で考えても問題なさそうですね」
ボードを閉じて辺りを見回すと、自分と同じような新規プレイヤーがポツポツとログインをしている様子を見ることができる。この光景を目にした瞬間に様々なリアクションをとるプレイヤーも面白いが、翌日の仕事を考慮して区切りの良いところまでゲームを進行させる為、手塚は改めてステータスボードを開く。
「……ひとまずこの頭上に見えるチュートリアルに従いましょう」
ステータスを覗くついでに見えた初期の職業。剣士が自動的に選択されているようであるが、これはあくまでゲームルールに則った職業というものらしく、細かいステータスや習得するスキルが近接職向きになるように調整されているようである。
「ついでに一応基本ステータスも覗いておきましょう」
プレイヤーネーム:ミッチー 職業:剣士 Lv.1
筋力 評価:E
耐久力 評価:E
知力 評価:E
精神力 評価:E
器用さ 評価:E
運 評価:E
当然ながら全て最低値であり、評価も一番下のE。評価は八段階あるようだが、上の方はどのような評価になっているのかは現時点では把握できない。
「……ひとまずストラードとやらに行ってみましょう」
殆どのプレイヤーが最初に訪れる“白き町”ストラードに向けて、手塚改めミッチーは、最初の一歩を踏み出すこととなった。