第一節 1⇒120へ…… 1話目
――最初に浮かび上がったのは、このゲームを開発した企業のロゴマークだった。そこからはオープニングよろしく、百年前に起きた六ヶ国間の戦争の歴史が若き少年の声で語られる。
――かつて暗黒大陸と呼ばれていた巨大大陸、レヴォ。そこでは六つの国がそれぞれ統治を行い、拳王・剣王・銃王・導王・械王・暗王と、六人の王によって互いの侵攻が繰り返される、戦乱の時代が続いていた。
かつてのプレイヤーはいずれかの国に仕え一人の戦士として他の国の征服に赴き、天下統一の為に、あるいは己が欲望の為に、一人の人間として戦乱の時代を生き抜いた。
二年間にも渡る大戦争は、後に超大規模戦争と呼ばれる大戦争の末、剣王が治める国、ベヨシュタットの勝利によって世界は統治され、世界に恒久の平穏がもたらされる――筈だった。
「……ん?」
言葉尻に手塚が首をかしげていると、戦争後に刻まれた新たな歴史が、とある少年の語りとともに視界に映し出されていく――
「――そこから先はミーが説明するヨ」
年齢としては一桁程度であろうか、小さな少年はまるで妖精のように周りをくるくると回り、こちらに語りかけながらも何かを品定めするかのようにじっと視線を合わせ続けている。
「ミーの名前はシステマ。このゲーム世界の案内役であり、そして――この世界における神のうちの一人ともいえる存在」
普通神といえば老人が想像されるが、どうやらこのゲームの神は小さな少年のようである。
手塚が黙ったまま少年の姿をじっと見つめていると、少年は手塚が反応しないことを悟ったのかそのまま話を続ける。
「超大規模戦争から丁度百年。世界は再び戦乱の世に逆戻りしようとしていた。引き金を引いたのはかつての六つの国の一つ、旧キャストライン領出身の男。彼によって、暗黒大陸レヴォは再び六つの国へと分裂することになった」
武闘派の集いでもあった国、デューカーの血を色濃く受け継ぐ国、ナックベア。
暗殺を得意とし、世界に裏から干渉していたワノクニの生業を引き継ぐ国、アシャドール。
常に中立を装いながらも策を張り巡らせてきたブラックアートの後を追う国、ソーサクラフ。
中世を舞台にしておきながら文明レベルが数世代先んじていたマシンバラの超技術力を密かに盗み独立した国、テクニカ。
かの大戦争を勝ち抜き、依然としてその名をとどろかせる国、ベヨシュタット。
そして――
「――かつてマシンバラと手を組み、銃火器の扱いに長け、最も戦争を好んでいた奇特な国家、キャストラインはその形を変えてリベレーターと名乗る武装国家へと世代を飛び越えて変化を遂げ、六つの国は再び戦乱の世を生み出していったというワケさ!」
目の前の少年は戦争を題材にしたゲームには似合わない案内をこなしているが、その中身はこれから没入する世界の熾烈さを如実に表している。
「さて、そろそろユーも新たなプレイヤーとしてこの暗黒大陸に降り立つ時が来たんだ。最後に名前を教えてもらおうかな」
ここでようやくプレイヤーネームを登録することになった手塚であったが――
「――名前、ですか……」
自分で自分に名前をつける――そんなことなど手塚は今まで一度もしたことが無かった。大抵のゲームは初期ネームがあって、ネーミングセンスなど無い手塚にとってはそれらから適当に選ぶ程度しかやったことが無い。
「……困りましたね」
「おや? もしかしてニックネームとかつけるの苦手かな?」
「ええ、恥ずかしながら」
相手はNPC――とはいえ、まるで人間のように考えて喋るこの少年に自然と人間と同じ対応をしてしまうのはおかしな話だろうか。
「だったら名前をもじったものとかいいんじゃないかな? ちなみにユーの下の名前は?」
「作道といいます」
「じゃ、ミッチーで」
「えぇっ……」
一秒かからずにミッチーなどという名前を薦められて、手塚は思わず戸惑ってしまう。
「ネットゲームなんてまともなかっこいい名前をつけていたら中二病っていう風潮があるし、ちょっと砕けたあだ名っぽいのが丁度いいんだよ!」
「名前の両脇に十字架とか卍とかつけた方がかっこいいと、私は知り合いからお聞きしましたが」
「それって一体いつの時代のセンス――って、このゲームでもつけているプレイヤーがそれなりにいるからあまり言えないかー」
しかしながら折角貰った名前なのだから、ある意味ではデフォルトの名前になるのだろう。手塚は少しばかり納得がいかないままであったが、少年の言うとおりミッチーという名前を登録することで、ゲームをスタートすることとなった。
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