第四節 生きるための術 1話目
「土地が欲しい? お兄さん、この辺一帯は高くつくけど大丈夫かい?」
「ええ。予算なら事前に調査の上で組んでいますので」
不動産に連れられるまま、現地にて手塚が抑えようとしている土地は、ベルゴール近郊の場所だった。
どこまでも広がるだだっ広い農場に、ポツリと建てられた家。それらを予定していた手塚にとっては少々懐を痛めることになるだろうが、それを差し置いても交通の便などを鑑みて丁度良い土地が都市郊外にあるとなれば、多少値が張ろうと手に入れるもの。
「前の農家が借金の片に家畜やらなんやら全て置いていったから、契約書ができ次第それらとこの広い土地、そして家は全部あんたのものだ」
「ほへー、すっごい広いよおじさん!」
ノインの言うとおり、何度見ても広すぎる農場である。決して一人では手入れを行き届かせられない広さに、契約書を交わしたばかりの手塚も冷静になった思考で広すぎたかと少し後悔する程。
「それじゃ、何かあったらまた呼んでくれ」
「ええ。ありがとうございます」
そうして不動産の男は馬車で再び元のベルゴールにある店へと帰っていく。手塚はその背中をひとしきり見送った後、改めて家とその周辺に広がる農場を見回した。
「……まずは、第一歩」
そうして着実な一歩を感じ取りながら、手塚は我が家へと足を踏み入れていった――
◆◆◆
「――ふぅ、まずは少々荒れた土地を改めて整地し直さなければ」
屋内に備え付けてある浴場にて、手塚は肩までゆっくりと使った状態でこれからの指標の確認を行う。
いくら前の農家が置いていったからといって、不動産の男が全てを世話できるはずもなく、農地といっても荒れた場所が多々見受けられる。それも踏まえて多少の値引きもして貰ったが、実際に再度整地を行うのは他の誰でもない手塚自身である。
「……あの大鎌を使えば、多少は楽になるでしょうか」
本来ならばPVPで使われるはずの大鎌が、ある意味では本来の用途である草刈り鎌として使われるなど、誰が想像できただろうか。しかし事実として土地を手に入れたその日に手塚が試しとして振るってみたところ、一振りで遠くまでそれなりに草を刈ることができていた。これならば一角ごとにその日その日で整地を行うのは容易となるであろう。
問題は、その整地した農地で何を育てるべきかということ。
「困りましたね……この世界で育てられるものに何があるのか、この土地にあったものを考えなければ……基本的なことを見落としていました」
初歩的なミスをしてしまった手塚は、大きく溜息をつきながら肩までじっくりとお湯に浸かり直す。
「もしかしたら元々の地主もここで上手く育てられずに資金繰りがどん詰まっていた可能性もあったのかもしれません」
しかし既に契約は交わされた後。手塚は自分のミスをカバーするべく、即座に考えを切り替えて明日以降の予定を組み立て始める。
「ひとまずまたベルゴールに行ってみましょう。そこで再び情報収集をすれば良いのですから」
生活基盤はほぼできている。後は農業をするにあたっての基盤を組み立てるのみ。
「……ノインにも、少しだけ手伝って貰いましょうか」
今となっては幼い彼女も養っていかなければならない。手塚は自信に課せられたここでの使命の重さを感じ取りながら、現実でもゲームでも久しぶりの風呂にどっぷりと浸かっていった。




