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第三節 家と人と土地と…… 3話目

「――ところで」

「!」


 注文を終えて待つ時間の間が丁度良かったのだろう、手塚は少々マナーのなっていないこの女性の素性について、話を切り出し始めた。


「貴方は誰です?」

「誰って、初対面だからそもそも自己紹介も何もしてないし……」

「しかしこの子に親しげに話しかけていた辺りから、親族か何かと思われますが」


 それはその場のノリで彼女が割り込んだだけのことで、実際ノインとは何の関係性も無くいたずらに声をかけたに過ぎない。


「えっ、何この雰囲気、圧迫面接的な? しかもこの子ってNPCじゃないの?」

「ふむ、その口ぶりですと、貴方はプレイヤーのようですね」

「えぬぴーしー?」

「気にする必要はありません、ノイン。我々の地方でのこの国の人々の呼び方みたいなものですから」


 職場の若者が喋るようなものと似た雰囲気を感じ取った手塚は、この時初めて別のゲームプレイヤーと遭遇したということになる。


「女性のプレイヤーは珍しいですね。こういった類いのものは、男性が多いイメージでしたが」

「そうなの? まあ確かにあたしを見るなりいわゆる姫プ? 的な扱いをするヤツ多いしそうなのかな」


 しかしその口ぶりとは裏腹に、手塚と同じでこのようなタイプのゲームは初めてなのだという。そして見た目の良さには自覚があるようだが、チヤホヤされることについてはあまり好きでは無い様子。


「何かある度に、「俺が守ってやる!」とかかっこつけてさ。ダッサいのよねぇそういうのって」

「はぁ、そうですか……」


 手塚の知り合いには逆手に利用してこれでもかと媚びるような人間プレイヤーがいるが、どうやら目の前の人物はその真逆のようである。


「あたし、きなこっていうの。リアルだとJDやってたんだけど、運営から休学するように言われちゃってさー。それで、おじさんはなんて名前でやってるの?」


 ネットゲームで割とあり得るのが、既存の食べ物やそれをもじったパターン。しかし手塚の場合は――


「……ミッチーといいます」

「ウクッ……み、ミッチーさんね。よ、よろしく……」


 明らかに笑いをこらえようとしていたところが、手塚の精神を無条件に削っていく。


「笑って貰って結構です。自分でも適当につけたものなので」

「い、いやいや! 笑わないってば!」


 明らかに取り繕うようなフォローを入れられている間に、きなこが注文していた料理が目の前に置かれる。


「どうぞ、食べられてください」

「えっ、でもお代は――」

「構いません。後で纏めて支払いますので」


 先程までつまみ食いをしようとしていたわりには真っ正面からの裏の無い善意に弱いのか、きなこは戸惑った様子を手塚に見せている。


「後で支払ってとか、そういうの無しだから」

「ええ、勿論」

「……なんかこの人相手は調子狂うわね」


 それでも夕食にはありつけたことはありがたかったのか、目の前に置かれたパンとスープに手をつけ始め、黙々と口へ運んでいる。


「もぐもぐ……ごっくん。それで、おじさん今レベルいくつ? こう見えてあたし結構モンスター討伐とか行ってるから、結構自信あるんだけど」


 既に彼女の方はこの世界ゲームに順応しているようで、自信満々に手塚のレベルを聞こうとしている。


「まっ、プレイヤー同士の噂だと前作? のレベルを引き継いだとんでもない人とかいるらしいけど、おじさんは――」

「120です」

「……えっ」


 見るからにゲームに疎そうな手塚の風貌からして、精々一桁レベルだと思っていたのであろう。しかし現実として手塚の口から出てきたのは三桁のレベル。


「はっ、はぁーっ!? あたしですらまだ11レベルなのに、何そのレベルおかしいでしょ!?」


 机をバンと叩きながら立ち上がるきなこに、周囲の注目が集まる。ここで下手に目立つことを嫌った手塚はきなこに落ち着くよう言いながら席に着かせつつ、ここで新たに知った事実の整理をし始める。


「どうやら、貴方のいう前作プレイヤーのレベルを引き継いでしまっている、というのが今の私にとっての認識で正しいようですね」


 今の会話の中で、既に手塚は重要な情報を耳にすることができていた。恐らくはあの“死神”の男、前作における廃人レベルだったのであろう。しかし自身の行いに次第に罪悪感を覚え、リセットしたというところだろうか。


「まさか、あんた前作――」

「やってないです」

「えぇっ!?」

「やって、ないです」


 二度目は強めに言った手塚の威圧感は、レベルだけの問題では無いのだろう。元々の体格の良さと、変に丁寧な言葉遣いが恐怖を持たせる。


「……だとしても、虫の良すぎる話でしょ。運営が知ってたら絶対不正行為だって思われるわよ」

「しかしここ数日何も音沙汰無しですが」

「うーん、それならお咎め無しってこと……? いいなー」


 二人が話をしている間、ノインは全くその内容が理解できず、ひたすらに黙々と料理を食べていた。


「もぐもぐ……おじさん、むずかしいお話してるからわかんないや……」


 そうして一区切りの話が終わったところで、手塚はこの場の支払いを済ませてきなこと分かれようとしたが、きなこの方はまだまだ話をしたがっているようで、店の外に出ても後をついてくる。


「ねえねえ、ミッチーさんはこの世界ゲームで何をするのが目的なの?」

「私はただのんびり過ごしたいだけです。特に争いごとにも興味はありませんし」

「そっか……あたしはまだここでしばらくレベル上げをして、それから紛争っていう小規模なPVPにも行ってみようかなって思うんだ」


 丁度ベルゴールという街自体が、お隣のテクニカという国と近いらしく、小競り合いが時々起こっているのだとか。


「そうですか。お聞きしているかと思いますが、このゲームは抹消されれば全て失います。お気をつけて」

「分かってるって。ミッチーさんこそ気をつけなよー」


 こうして一時は分かれることになる二人で会ったが、次に会う時には全くもって別の形で会うことになるなど、今の二人には想像もつかないだろう。

 至極どうでもいいですが、このゲームは敵国の兵士を捕虜とするか、あるいは奴隷として扱うそうですよ(フラグばらまき)。


 小説を楽しんでいただけた際には、恐縮ですが評価等いただければ幸いです(作者の励みになります)。(・ω・´)

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