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友情万歳

作者: 日常平和

「拓。お前に相談してもいいか?」

始まりは淳也からだった。家が近い俺達は毎朝一緒に学校に行く。

「あぁ。別にいいけど。」

と軽い気持ちで答える。

「誰にも言わないでほしいんだけど…」

そう言いながら淳也は登校途中の生徒が近くにいないか確認する。

「大丈夫だよ。心配すんな。何年の付き合いだと思ってんだよ?」

かれこれ淳也との付き合いは長い。何がそうさせたのか、小学校1年から中2の今に至るまで同じクラスである。おまけに俺の苗字が木山(きやま)で淳也が木下(きのした)だから出席番号も近く、すぐに友達になった。お互いにいい友達だったから喧嘩は少なかった。嘘もあまりついた事がない。

「信用するからな。」

「何だよ。早く言えってば。」

考えれば淳也が相談なんて珍しい。いつも自分で解決していく彼に相談事は似合わなかった。

「実はさ…」

そういって淳也は下を向く。

「うちのクラスに宮下っているだろ?」

「あぁ…。」

いる。宮下(みやした)は確かにうちクラスにいる。あまり目立つ人ではなく女子の中では割と静かな方だ。

「宮下がどうかしたのか?」

だいたい想像はできたが先を促す。

「実は…好きなんだ。俺。」

「へぇ…。で?」

「いや、何て言うか…」

淳也は言葉につまる。というよりどうも言いだしにくいようだ。

「なんだよ。相談なんだから何か言えよ。」

「あいつってさ。誰かと付き合ったりしてんのかな?」

そういう事か。

「分かった。つまり俺にそれを宮下に聞いてほしいわけだな?」

「頼むよ拓! 今日の放課後にこっそりとさ。」

両手を顔の前で合わせて淳也がこっちを見る。

「まぁ、いいけど…」

「本当か? 助かるぜ!」

こうして俺は淳也の頼みを聞きいれた。


そしてその日の放課後。

あらかじめ宮下に教室に残ってもらうように言っておき、人が少なくなるのを見計らいながら他の人に怪しまれないように宮下と話をする。宮下は身長があまり大きくない。俺が162cmで宮下と目線がこぶし一つ分ぐらい違う。髪は肩にかかるぐらいで整った顔によく似合う。あまり意識してなかったけど割とかわいいのかもしれない。これなら淳也も惚れるわけだと思った。そうこうしているうちに教室にいた人はいなくなっていた。

「で、木山君。話って何?」「あぁ。いや、あのさぁ…」

自分の事を聞くのでもないのに何故か緊張してうまく宮下の目が見れない。

「宮下って今付き合ってる人とかいるの?」

「えっっ!?」

「あ…いや…」

予想外の反応にちょっとビックリする。

「ごめん、こんな事聞くのも失礼だとは思うんだけど…」

俺は苦笑いをしながら頭をかく。宮下はしばらく黙っていたけど、やがて

「い、いないけど…」

と言った。

「そうか! ありがとう。いや、実は用ってそんだけなんだ。」

「何で?」

「へ?」

急な問いかけに思わず変な返事になる。

「何でそんな事聞いたの?」

「いや…」

当然の質問である。が、返答を何も考えてなかった俺には致命的なダメージになる。ここで淳也の名前を出すのはマズい。

「いや、何となくだよ。」

結果、口から出たのは苦しすぎる言い訳だった。

「何となく?」

「あぁ。気にすんな。じゃ、俺部活行くな。」

と、何とか切り返し、ドアに振り返ろうとした時に

「待って!」

と宮下に引き止められる。

「ん? どうした?」

「あのね…」

「ん?」

さっきまでと様子が明らかに違う。どうも顔が赤い。さっきあんな事聞いたのだから仕方ないとは思うが、どうもそうではないらしい。

「あのね…ずっと言おうと思ってたんだけど…」

おいおい。まさか…。勘弁してくれよ。この雰囲気は…。

「あたし、木山君の事ずっと好きだったの…」

「う…」

やった。やってしまった。この女はどうもやってくれた。本当ならば今すぐ校内を駆け巡って喜びを校舎内のみんなに伝えたいのだが今回はそうもいかない。いかなる理由にしても淳也に気が引けてならない。

「あ…えっと…」

宮下は今にも泣きそうな目で俺を見る。と、言うか涙目。何とかこの場を取り繕わなければ。

「へ、返事は今度でもいいかな?」

宮下は無言で頷く。

「んじゃ、俺は部活だから…」

と言ってドアを出る。と、瞬間に走り出す俺。

「くそ! 畜生! 一体どうすればいいんだ!」

俺は部活の事も忘れて、走って家まで帰った。


その夜。頭の中は今日の事でいっぱいだった。というより何をどう伝えるべきか俺は困り果てていた。明日になれば淳也は今日の事を聞いてくるだろう。その証拠に淳也が教室から出る時俺に

「じゃあ頼んだぞ」

と言って出ていった。だから嫌でも答えは今日出さなくてはならない。真実を淳也に伝えたらどう思うだろうか。やはり俺を恨むだろうか。こんな事になるなら淳也の頼みを聞かなければよかった。

「はぁー」

大きなため息が出る。やはり宮下の告白は断るべきなんだろうか。いや、断った所で宮下が俺に告白したという事実は消えない。むしろそれは淳也からすれば自分の好きな人が自分の友達にふられるというけっこうショックな事かもしれない。布団に入って1時間以上が経過したがいっこうに眠気は襲ってこない。いっそ淳也が宮下の事を諦めればいいと思った。どうすれば諦めてもらえるだろう? 宮下に彼氏がいた事にでもしようか? それとも宮下には好きな人がいたって事にしようか? そう考え始めると眠気はすぐにやってきた。


次の日。朝はいつも淳也が家に来る事になっている。というのも家の方が若干学校に近く、淳也の学校の通り道だからだ。いつものように家の門で待っているとやがて淳也の姿が見えてくる。

「おはよう」

「お、おう…」何か気まずさの残る俺はあまり気持ちのいい朝の挨拶ができない。しばらく2人で並んで歩いていたけれど淳也は突然聞いてきた。

「そういやさぁ。昨日宮下に聞いてくれたか?」

「あぁ…まぁな…」

「何だって言ってた?」

「淳也さぁ。本当に宮下の事好きか?」

「あ? 何言ってんだ?」

淳也は怪訝そうな顔で聞いてくる。

「結果から言うと…宮下に彼氏はいないらしい。」

「おぉ! そうか!」

淳也は嬉しそうに言う。嬉しそうなだけに次の言葉を言うのがためらわれる。

「でさぁ。淳也は宮下を諦めた方がいいんじゃないかな?」

「え? どうして?」

これは淳也にとっては残酷な事なのかもしれない。でも、言うと決めたから言おう。

「どうも宮下には好きな奴がいるらしい。で、それがどうも淳也じゃないらしいんだ。」

淳也はしばらく黙っていた。何となく俺と淳也の間に嫌な空気が流れる。そしておもむろに口を開くととんでもない事を言い始めた。

「分かってたよ。」

「えっ?」

「宮下に好きな奴がいるって事。それ…拓だろ?」

一瞬耳を疑って大きく見開いた目で淳也を見た。

「どういう事だよ?」

俺は様々な思考をめぐらしたが思いあたる節がなく聞いてみる。

「実はさ…。俺、宮下に1回告ったんだよ。」

淳也は苦笑いしながら下を向いて話を続けた。

「そん時にさ、俺、ふられちゃって…。宮下に理由聞いたらあいつ拓の事が好きだからって言ってた。」

何となく淳也の考えが読めてきた。

「最初はさ、正直拓の事恨んだよ。何で俺じゃないんだ? どうして拓なんだ? って」

俺は何も言えずにいた。俺の知らない所で、俺のせいで淳也が傷ついていたのが悲しかった。

「けどさ、俺、すぐに反省したよ。拓を恨んでもしょうがないって気づいてさ。だから、どうせなら罪償いも兼ねて拓と宮下をくっつけようと思って…。そういや拓、昨日宮下に告られただろ?」

黙って聞いていた俺に急に質問してくる。

「あぁ。まぁな。」

「やっぱりな。」

淳也は笑いながら俺を見る。

「で? 何て返事した?」

淳也は楽しそうに聞いてくる。

「実は返事はしてない。」

「なんだよ。あいつさ、すごく静かだろ? だから2人きりにでもなんなきゃ告白なんてしなさそうじゃんか。」

「それでわざわざこんなシチュエーションを?」

「おう。いや、俺の好きなやつが俺の親友を好きだって言うんだからなんか手助けしてやりたくてよ。嫌だったか?」

なるほど。あの雰囲気で宮下に

「彼氏いるか?」なんて聞いたらいやでも告白を連想せざるおえない。

「淳也。」「ん?」

俺は精一杯息を吸って


「ありがとう。気づかなくてごめんな。」


と言った。

「や、やめろよ。なんかふられた俺がかわいそうだろ。」淳也は苦笑しながら言った。

「拓は女に興味なさそうだったからさ。宮下ぐらい可愛かったら付き合ってもいいと思うだろ?」

「おう! 本当に俺が宮下と付き合っちまっていいんだな?」

「ふふふ…。俺は宮下以上のビックリ美人を見つけていつかお前を驚かしてやるぜ!」

「ははは。淳也と付き合ってくれる美人がいればな。」

「う、うるせぇ! いるよ。見つけてやるさ。そしたらWデートしようぜ! だから…それまで別れんなよ。」

「あぁ。もちろんだぜ!」

俺と淳也は最高の笑顔で笑い合った。

もう気づけば学校は目の前だった。

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