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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コンプレックス少女シリーズ

私は男の子より女の子が好き

作者: しいたけ

 クラスの友達が持ってきた写真集には、上半身裸の男性アイドルが沢山映っていた。


「うわぁ……♡」

「へぇ~♡」


 不思議な顔をして写真集を見つめる友達とは違い、私はソレに何ら魅力も感じていなかった。


「ねえ? どの人が好み?」


 何故限られた物から選ばなくてはいけないのか。実に下らない……『〇〇の中なら誰が好き?』とか『〇〇と××どっちが好き』とか……何故他を卑下する様な選び方しか出来ないのか。私には理解出来ない。


「…………」


 私は無言で適当な写真を指差した。どうせ一日もすれば別な話題になるだろう。何だって良い……。


「渋いの選んだわね……」


 私は上の空でそれを聞いていた。


 何故なら今私の心の中は同じクラスに居る【安原(やすはら)晴香(はるか)】の事でいっぱいなのだから…………。



 晴香は女子グループの中で脇役的存在であるが、細かい気遣いと心配りが出来る優しい子だ。例えるなら大和撫子の様な存在……かな?


 きっと大人になったらああいう人が男子にモテモテなんだろうなぁ……と、つくづく思う。


 でも晴香が男子にチヤホヤされている姿を想像すると、何だか心の中がモヤモヤっとしてしまう。この気持ちは一体……何―――?





 それは梅雨空の夕暮れ時の事だった。僅かだが晴れ間が差して傘を閉じると、同じく目の前で晴香が傘を閉じていた。


「あ……」


 私は晴香と目が合い、咄嗟に会釈した。晴香は微笑み私の後にゆっくりと会釈を返した。晴香の持っていた買い物袋にはドラッグストアのロゴが見えた。買い物帰りだろうか?


 爽やかなフリルの長袖のワンピース。春用に下ろした物だろうか、とても映えて見える。見ているだけで心臓が高鳴り謎の息切れに襲われそうだ。それに比べ私はジャージ……最悪にも程がある。


「雨……止んだね」


 私は兎に角何か話さないとと思いありきたりな会話を始めた。


「また夜には降るみたい……でも、こうして会えたのも何かの縁かしら?」


 晴香はこんな小汚い私でも『縁』を大切にしてくれる優しい子だ。男子が好きにならない筈がない。きっと私が知らないだけで何人にも告白されているのではないのか……。


「買い物帰り?」


 私は晴香の買い物袋に目を落とした……そして自らの浅はかさに絶望した。


 白いビニール袋から僅かに透ける商品はシャンプーの詰め替え、そして茶色い小さな紙袋だった。最悪……穴があったら今すぐ入って水を入れて欲しい……。


「え……あ、うん……」

「あっ、ご、ごめん……! 何でも無い」


 赤らみ俯く晴香に、私は限りない罪悪感を感じた。デリカシーが無いにも程がある。私は咄嗟に持ち歩いているエコバッグを取り出し晴香に渡した。


「使って……!」

「え……? い、いいの?」


「うん、もう一つあるから……」

「……あ、ありがとう」


 晴香はハンカチを取り出し、買い物袋の周りを拭くとそのままエコバッグを広げ中に袋ごと入れた。


(……好きな人とか居るのかな)


 またもやデリカシーの無い疑問が頭を過る。ダメだ、これ以上はいけない。頭の中の警鐘がガンガンと鳴り響いている。


「じゃ、じゃあね……」

「……ばいばい」


 ひらひらと手を振る仕草の晴香は、きっと周りから相当可愛く映っているに違いない。私は……アホだ。少しでも晴香と仲良くなろうと思ったのが浅はかだ。あんなに素敵な子、私なんかが傍に居て良いはずが無い。きっと晴香も迷惑だろう……。


  ―――バッ


 僅かな晴れ間に目を逸らし心の雨を避けるかの如く、私は傘を差して家へ帰った。


「おかえり……って頼んでた買い物は?」

「―――あ、ゴメン忘れた」


「忘れたって……アンタ何しに出掛けたのよ」

「ご、ごめん…………」


 そのまま脱衣所へ向かい風呂に入る。買うつもりだったシャンプーのボトルはもう空だ……ま、一日くらい頭洗わなくても良いかな。明日休みだし。


 湯船に浸かりながら、晴香の事を思い出す


(そう言えば、シャンプー同じだったな……)


「ふふ、ふふふ……」


 何だか晴香に近付けた気がして、私はそれだけで嬉しかった。外は大雨だけど、今度は私の心が少しだけ晴れ間が覗き始めた。



「あ……」


 昨日行かなかった買い物へ朝から出掛けた。相変わらずの雨だがまあ良いだろう。しかしそれが悪かった。偶然にもまた晴香に出会ってしまったのだ。私はまたしてもジャージ。しかも寝癖のおまけ付きだ、新には昨日頭を洗っていない。大丈夫か? 私臭くないか? 今更ながらそんな疑問と後悔が頭を支配した。


「おはよう。昨日はありがとう。コレ……返すね」


 手渡されるエコバッグ。私は無言でそれを受け取った。気の利いた事も何一つ言えない私……ダメダメ過ぎる。


「お母さんにエコバッグ貰ったからもう大丈夫」

「そ、そう……」


「お買い物?」

「う、うん……」


 晴香が私と会話をしようとしてくれている。それなのに私は何一つ会話になっていない。情けない事この上ない…………


「一緒に廻る?」

「―――えっ!?」


 私は耳を疑った。晴香が私と居てくれると言うのだ。


「い、良いの……?」

「折角だから一緒に……ね♪」


 天使とはこの子の為にある言葉ではなかろうか。近所の寂れたスーパーが一瞬にして極楽浄土へと大変身。隣で野菜を選んでいる晴香を見れるだけで幸せ過ぎて穴があったら死んでしまいたい……!!


「大根はね、穴が真っ直ぐな方が甘いんだよ?」

「へぇ……そうなんだ」


 今まで母親に買い物を頼まれても何一つ真面に選んだ事は無い私にとって、晴香との買い物は驚きの連続だった。きっと晴香は良いお嫁さんになるんだろうな。


(…………私は……)


 比べれば比べるほどにダメな自分が浮き彫りになる。


「今日は煮物にしようかな……?」


 きっと私は似ても焼いても美味くないに違いない。


「魚はね……ココを見てね……それでね―――」


 私なんかの為に命を落とした魚を思うと、今すぐに消えてしまいたい。


「それでね、それでね―――」


 ……


 …………


「ごめん……私帰るね」

「え…………?」


 笑顔のまま固まる晴香を置き去りに、私はスーパーから逃げる様に姿を消した。濡れるのを厭わずなりふり構わず濡れたアスファルトを駆け抜けた。


  ―――ガチャ!


「おかえり―――ってまた!?」


 私は顔を伏せたまま急いで部屋へ向かった。雑に脱いだ靴が転がる音が聞こえたが直す気にはなれない。


「ちょっと!? ねぇ! 何なのよ!?」


 私の背中に母の声がかかるが私はそれを振り払い部屋に籠もった。マジ最悪…………何やってるんだろう。自分でも分からない。



  ―――ゴンゴン!


「ちょっと! 晴香ちゃんが来てるわよ!! 何があったの!?」


 うわぁ……晴香にまで心配掛けて…………ダメだ、もうダメだ。ダメ過ぎて終わりだ……。


「……ごめんなんでもないから帰って貰って!」

「そう言う事は自分で言いなさい!!」


「……………………」


 無言を貫く私。やがて玄関から話し声が微かに聞こえ、扉の閉まる音がした。今すぐにでも消えて無くなってしまいたい私は全てに耳を塞ぎ、冷たい体でそのまま無理矢理眠りについた。



  ―――ピトンッ……ピトン……


 雨空が目に入り、時計を見た。昼は当に過ぎている……。部屋を出る勇気も無く、窓辺から外を眺めた。


「……えっ?」


 家の前の道路には、未だ晴香が立っていた。寂しそうに傘を回す姿に私の心は罪悪感で押し潰されそうになった!!


  ―――ガチャッ!!


「晴香!!」


 私は気が付けばまたもや傘も差さず、しかも素足で外へと駆け出していた。


「…………おかえり」


 晴香は優しく手を振った。その肩は濡れ手は血の気が引いている。


「何で!? 何で!?」

「……あの時の目が少し前の私に似てたから……かな」


 晴香は傘を私の上へと寄こす。こんな時でも人の事……この子には逆立ちしても勝てそうにないや……


  ―――バッ!


 傘の開く音が聞こえ、振り向くとそこには母親が居た。正直どんな顔をすればいいのか……見当も付かない。


「二人ともずぶ濡れじゃない。お風呂……沸いてるから晴香ちゃんも入っていくかい?」


「……すみません。お邪魔致します」

「…………」


 恥ずかしさとか見苦しさを通り越して放心していた私は、晴香とお風呂に入っても何も感じなかった。


 だが、一つだけ……。


「ん、これ?」


 腕に見えた切り傷の痕。


 それは何本も重なり合いとても痛々しく見える。


「私が、私だった事の証……かな」


 晴香は苦笑いを一つするとそれ以上何も言わなかった。



「ごめんね、オシャレな服じゃなくて……」

「ううん、大丈夫。ありがとう」


 私のダサいTシャツを着てベッドに腰掛ける晴香。


 目の前に映るあどけない少女の姿は確かに私だった…………

読んで頂きましてありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] うう……胸に迫ります。 晴香ちゃんはいい子だけど、その分気持ちを出せないところがあるのかな。でも、そういうのよりもっと深い理由がありそうな『私が私だったことの証』 生き方が定まっていない…
[一言] 切ねえ~。 でもこれぞ思春期って感じで、私はこのお話好きです! 恋って決して綺麗なものではないですけど、だからこそ美しいですよね。
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