ようこそバンバルディアへ
「こんなに暑いのに、よく来たね~。今日は本当にご苦労さま。」
そういうと彼は立ち上がり、会計を済ませに行った。
しばらくして戻ってくると、店員からもらったであろうアメをくれた。
「ありがとうございます。」
「これでも舐めて、もう一息頑張ってね。」
彼は椅子に掛けてていた茶色いスーツの上着を手に取り、床に置いていた革のカバンを拾った。
私も隣の椅子に置いていたカバン持ち、彼の後について店を出た。
店を出ると、一時的に忘れていた太陽の暑さが一気に押し寄せてきた。
「暑いだろう、体調を崩さないようにね。」そう言って彼はかぶっていた帽子を私の頭にのせてくれた。
「この坂の上にある、西洋風の家が見えるかい?あれが今日から君の住む家だよ。」
彼の指さす先には、確かに立派な白くてきれいな邸宅があった。
「言い忘れていたんだけれど、うちの屋敷にはティナっていうメイドさんがいてね、君よりも少しお姉さんぐらいの年なんだ。だから、困ったことがあれば彼女に聞くといい。」
「はい、わかりました。」
説明を受けながら坂を上っていると、小さな路面電車の駅が見えてきた。
「今日は暑いし、やっぱり電車でいこうか。」そういうと彼は財布を取り出し、小銭を漁った。
駅に着きホームで座っていると、「念のため名刺を渡しておくよ。慣れない土地だろうから、連絡が取れるほうがいいだろう。ティナも休日ぐらいゆっくりしたいだろうからね。」
そういって胸ポケットから小さなケースを取り出し、名刺をくれた。
『ウミネコ不動産 代表 ライン・フォーバット』
「とりあえずこれを渡しておくよ。それと、電話は屋敷にあるけど、外出中に電話をかけるならさっきの喫茶店と坂を下りきったところにある市場の郵便局にあるから、困ったらかけておくれ。」
とりあえずって、この人はいくつかの顔を持っているのだろうか。なんて考えていると1両編成のかわいい路面電車が来た。
ここら辺の地区は斜面が多い地区にも関わらず、案外乗客は少なかった。
(路面電車に揺られること3駅)
「南地区7番地~ 南地区7番地~(チリン チリン)」
車掌アナウンスが流れ、電車のベルが鳴ると荷物を持って降りる準備をした。
電車はちょうど新居の真正面にある駅で止まった。
「ようこそ、わが屋敷へ。」
そういうと彼は歩いていき、扉の鍵を開けた。
今回初めての小説執筆です。
読んでいただけると嬉しいです。