『千日鍋』と『鍋奉行』
妹が唐突に会議を始める。それは世界の真実を知る会議。
これは妹と僕の他愛もない日常の一コマである。
夕飯の食卓の上には、カセットコンロがあり、その上には土鍋が鎮座マシマシしている。
本日ですでに三日目に突入した鍋、冬場の食卓は、このように鍋が続くことが多い。
その鍋を見つめ僕は、独り言つ。
鍋は偉大である……。
水炊きから始まりその後、いくつもの分岐点を通り、最後には色付く鍋になり終わる。
あぁ鍋よ鍋……。
「妹よ、鍋は偉大である……」
「ん、兄、鍋は偉大、同意。そして兄、鍋はダンジョンでもある。……会議を始めます」
「「世界の真実を知る会議を」……だな」
僕の妹は小学一年生、現役の厨二病だ。そんな妹はいつもこんな風に、突然会議を始めるんだ。妹はこれを『せかいのしんじつを知るかいぎ』といっている。
あぁ、そうだな妹よ、兄は鍋にはちょっとうるさいぞw
して……妹よ、何故、鍋は『ダンジョン』になるのだ? 妹の唐突な、鍋=ダンジョンについて、
その意を確認することにした。
「兄、ダンジョンとは?」
「地下迷宮で、深ければ深いほど美味しいものがある、なお、かなり男のロマンだな」
「それ……」
なるほどな妹よ、そこか! ロマンか?
鍋は水炊きから始まり…え?その下りは最初にやった?
馬鹿者、水炊きに始まり、各々の千日を超え、最後には雑炊or麺ものに終結するのだ。
「鍋は何度も何度も味わうことにより、日々に重ねる深い味がある。妹よ、この状況を専門家たる鍋奉行の間では『千日鍋』というのだ」
「ん……民明書房館……」
妹は僕の力説に対して、嬉しそうにこちらを向いて微笑む。今のどこにそんな顔をする点があったのかは不明だが、何か琴線に触れるものでもあったのだろう。うん、いい顔だ、妹よ、可愛いな、マジ可愛いぞ、妹よ。
「兄? 、ダンジョンの説明がまだ……」
おお、そうだな妹よ、ダンジョンである理由とは? さぁ兄に、納得できる説明を。
「鍋深く眠るお宝を、浅い層から少しずつ攻めていき、襲い来るキノコと太刀を倒しながら、手に入れる。出汁の染みた具はもはや宝……。その他からのある所はまさにダンジョン……。そして、兄、すごい疲れた」
よく、頑張った妹、多分ここしばらくで一番喋ったな。肩で息をするほどの長台詞とドヤ顔。ドヤ顔も可愛いぞ妹。
なるほど、モンスター(妹はキノコが苦手)達をよけて、最後のお宝たる、肉魚にたどりつき、手に入れる。確かにダンジョン。まさにダンジョンだな。我々は今その深き迷宮の前に居るのだな。うむ。
ところで、妹よ、今日はツインでではなくストレートなのだな。それもまた良し。
鍋の時はとりあえず結んでおくのだぞ、妹の神の出汁はちょっと、流石に兄も悩むからな。
いや流石に悩むよ……そりゃな……。
妹よ、確かに鍋は深き迷宮だった……。この鍋奉行たる兄も、納得だ。……っというわけで妹よ、我々はその深淵に近づくべく、本日も鍋を喰らう。
『鍋を喰らえ!!』だ。
「兄が奉行であることは知っている、ここは兄に任せるのが吉」
「うむ、妹よまかせろ」
ちなみに、座敷に七輪や鍋を持ち出して食べるようになったのは、文化が爛熟した江戸時代後期らしいぞ。まぁどうでもいいことだが、今日は何の鍋にしようか……。
「兄、キノコはできればやめて欲しい」
「ん~……」
「……」
「仕方ないなぁ……」
「兄、ありがと……っ」
このお話は、どこにでもいる家族、どこにでもいる兄妹のお話し。
ただ、少しだけ違うのは、この妹は、小学一年生にして既に厨二病だということ……だったのです。
そうこれは、どこにでもありそうでない、妹と僕の世界の真実の会議のお話し……なのです。
「奉行推参!!」
はいどうも!十四年生です。
第三話いかがでしたか?
妹大好き兄と、兄大好き妹のほのぼの厨二ストーリー。これからもふと更新するので、
ぜひお気に入りなどお願いいたします。
感想、ご意見お待ちしております。是非こちらもよろしくお願いいたします。
鍋奉行:兄の別ジョブ。鍋のある所に現れ、投入の順番からはじまり最後の最後まで仕切る者たちの称号。亜種に『焼き肉奉行』『鉄板奉行』などもある。