受験戦争
がらりと教室の扉が開いた。
いくらか騒いでいた生徒等が押し黙り、教室内はシンと静寂に包まれた。
かつかつかつ、と、講師の歩く音が響き渡る。
講師は中年とまではいえないが、それなりに年を食った男で、予想通りがっしりした体格に、鋭い目付きをしていた。
「さて、言うまでもないが」
唐突に講師は言葉を発した。
「君等は受験生だ。というからには受験戦争に参加する気でいる。生半可なことじゃない。覚悟はいいな?」
異存などあるわけもなかった。厳しい受験戦争を乗り越えて大学で勉強する機会を得る。そしてそれを為しえた者だけがこの国の将来を担っていくに相応しい人間なのだ。自分の能力がないことを理由に受験戦争から逃げ出した弱虫たちには国を運営することなどできるわけがない。
受験戦争を勝ち抜いた者はそれだけで特別で、優秀なのだ。
「どちらかというと君等は運が良い。なぜならこの予備校で先に学ぶことができるからだ。実際のところ、受験戦争を生き残るのに必要なのは知識だけというわけではない。運も大きく関わってくる。しかしだ、それも圧倒的な実力の前には意味を為さない。君等は勝つ。勝つためにここに来た。だから君等は勝つ!」
わっ、と、場が盛り上がった。
そうだ、俺は勝つ。勝たなきゃいけないんだ。
受験戦争から逃げたものと、勝ったものではその後の人生に大きな差ができる。仕事での待遇、結婚、税金など、全てが変わってしまう。
講師は生徒たちの熱狂を見て満足したのか、にっと歯を見せて笑った。
「ようし、それでは最初の授業だ、楽しく実践的なことを学ぼうか」
そして教卓に置いた机から、ぎらりと光る刃を取り出した。
「受験戦争で勝ち残るために、まずはナイフの持ち方からだ」
ファイルのタイムスタンプを見る限り2001年2月以前に書いたもののようです。
ハードディスクの中身を見ていたら出てきたので、ちょちょいと投稿しました。




