令嬢たちの動向
「彼女が苦労?これから素敵な婚約者も出来て、将来バラ色じゃない」
ローラはナターシャにとって、マラン王子を奪った憎き恋敵だ。ローラの顔を思い浮かべようと思ったが、上手く出来なかった。確か小動物のような可愛らしい女性だったと思う。
ナターシャの取り巻き女性たちはマラン王子とローラがちょくちょく会っているであろうということを逐一告げ口してきたが、正式な婚約者たるものその度に動揺してはならないと鷹揚に構えてきたのだ。
その結果、婚約者を失ったのだけど。
「ローラ嬢が婚約者になるのは、結構な障害を乗り越えなきゃならないと思うけどね」
リザはほんとうにナターシャは何もわかってないのね、と言う表情を見せる。
ほんと腹が立つ。
「どうゆうこと?」
「ナターシャは曲がりなりにも4大公爵の娘で、マラン王子とは幼なじみでしょ。なかなか二人の関係を邪魔するのは難しいと手をこまねいてきた貴族令嬢がたくさんいるのよ。それに比べローラ嬢はぽっと出の子爵令嬢だから、ナターシャとの婚約破棄を聞きつけて、その隙に付け入ろうと考える輩はたくさんいると思うな」
「なるほど」
「婚約者がいても、王子と結婚出来るチャンスがあると思えば、婚約者をほっぽってマラン王子に我こそはという令嬢たちはちょっかい出してくると思うよ。そういう輩にローラ嬢がどう対応してくか見物だわ。マラン王子もね」
「マラン王子はそう簡単になびかないわ」
「婚約破棄されたっていうのに、ナターシャはマラン王子贔屓だね」
リザが呆れたようにナターシャを見つめる。
だって、18年間マラン王子贔屓で生きてきたのだ。そう簡単に変われるわけがない。
正直婚約破棄の話もあまりにも実感がなさすぎて、膜の1枚向こうで起きている出来事のようだった。
「ブリジッドもしゃしゃり出てくるはずよ。彼女は自分こそマラン王子の婚約者に相応しいとことあるごとに豪語してたしね」
ブリジッド・ロアは4大公爵の娘のひとりで、同じ立場であるナターシャが、マラン王子の婚約者に収まっていることに納得がいかないようだった。
勝手にライバル認定されて、ことあるごとに対抗され、たまったものではなかった。
ナターシャもマラン王子の婚約者たるものこれくらい上手くいなせなければ、と攻防戦を繰り返してきた。
確かに彼女が出てきたら、ローラは苦労するであろう。
ま、いい気味だわ。マラン王子を奪った報いを受けるがいいわ。
「あれ?でも、ブリジッド最近婚約したんじゃなかった?」
確か相手はこれまた4大公爵家・モンティエの子息だった気がする。あら?顔が全く思い出せないわ。地味なタイプだったような。二人も幼なじみ同士だったはずだ。
「王子と婚約できるとなれば、すぐに婚約破棄でもするんじゃない?ブリジッド以外の婚約者がいる令嬢たちも、王子と婚約出来るなら自身の婚約者を捨ててもと考える輩はたくさんいるはずだし。
いやー、これからの学園の動向が楽しみだなぁ」
全く傍観者の体で、リザはにこにことのたまった。