最近の婚活事情
もんもんと思考を廻らせるナターシャに声をかけたのは、気の置けない友人である伯爵令嬢のリザだった。
「こんなところで放心して、どしたの?」
昔からリザの話し方は伯爵令嬢と思えないほどざっくばらんである。完璧に巻いたキャラメル色の髪に、キラキラと虹彩の入るくりっとしたブラウンの瞳を見て、何だか安心してしまう。
「えー!?婚約破棄!?
それは、、なんというか、まあ、大変だったね」
いつもおしゃべりなリザが、あまりのことに言葉を失っている。
それでも結局またお互いの沈黙に耐えられないようにまたリザがしゃべり出した。
「噂のローラ嬢だっけ?でもま、このタイミングで良かったんじゃないかな?もう少し早くでも良かったと思うけど、これ以上遅いともう絶望的だしね!」
「絶望的?なにが?」
リザの話しは、鞠のようにいつも色んな方向に飛んでいくので、時々ついて行けなくなる。
「なにがって、あなたねぇ。これだから昔から婚約者のいた人はまったく・・・」
それからナターシャはリザに延々と現在の婚活事情についてレクチャーされたのだった。
この貴族が集う学園に通う貴族令嬢たちは、学園卒業と同時に結婚するケースも少なくない。学園入学当初はナターシャのように婚約者がいるというケースは少ないが、卒業時にはほとんどの女性が婚約者がいる状態なのだ。それ故半年後に卒業を控えた今、婚約者のいない令嬢は血眼になって婚約者を探しているところだという。
「ほら、女性は学園卒業時が1番価値が高く、それからは下がっていく一方だからね。みんな残り少ないパイに群がって争奪戦を繰り広げてるわけだから。今から参戦するのは、なかなか大変だと思うけどがんばってね。うかうかしてると後に残るのは、問題のある男か金のない男かになっちゃうからね!」
年上の婚約者がいるリザは余裕の微笑みを浮かべながら、ナターシャに同情する表情をみせた。
マラン王子の後ろを追っかけ回しているうちに、世の中がそんな世知辛い状況になっていようとはナターシャは夢にも思わなかった。
「誰に婚約者がいて、誰がフリーなのかさっぱりだわ」
ナターシャは悲しみに暮れてばかりではいられない状況にため息をついた。
「ま、ナターシャは今までほんとマラン王子のことしか見てなかったもんね」
そうなのだ。ナターシャは女性の学友とは広く交流を保っていたが、男性とはマラン王子と交流がありそうな人物としか関わりを持ってこなかったため、それ以外はさっぱりだった。
今更ながらマラン王子中心で自身の全てが回っていたことに苦笑する。
「でもま、ローラ嬢もこれから色々苦労しそうだね」