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ある男の苦悩

作者: 志賀飛介

男は悩んでいた。

男は迷っていた。

何に悩んでいるのか悩んでいた。

何に迷っているのか迷っていた。


日が落ちて、暗くなった部屋で、テレビだけがまるでミラーボールのように色とりどりの光を放っていた。その鮮やかな光と、薄暗い部屋と、どちらが現実なのか考えるが答えは見つからなかった。そして男はふと気がついた。テレビが放つ光は鮮やかだが、その光によって映し出される事象は決して鮮やかなものではない。むしろ男のいる部屋と同じくらい薄暗いものであると。


男はため息を吐いた。この世の全てに、あるいは自分自身にため息を吐いた。いや、ため息と言うほどのものではない。それはため息よりももっと小さな男の生命そのものであった。男はテレビを消した。


静寂、


男は世界から自分自身が切り離されるのを感じた。現実と一切の関係を絶ったその空間は、まさに静寂と言うべき静けさ、寂しさであった。男は時計を見た。18時54分、世間では夕飯を食べ始める頃である。しかし男は夕飯など食べるつもりはなかった。成人男性の一日に必要なカロリーは2400キロカロリーと言われるが、男には握り飯が3つもあれば十分だった。


無論、嘘だ。


いかに堕落的な生活を送ろうとも、その程度で十分なわけがなかった。それでも、男は食べることを拒んだ。できうる限りの我慢を持って、食べることを拒んだ。そうして徐々に痩せ細っていく自分自身の体をなぞり、男は笑うのだった。嬉しそうに笑うのだった。


が、さすがの男にも我慢の限界というものがあった。男は痛いほどにへこむ腹をさすりながら台所に向かうと、食パンを一枚かじった。空腹は最大の調味料とはよく言ったものである。男の全身に糖分が染み渡る。男は一心不乱に、かつ一口一口を惜しむように食パンをかみしめた。


やがて男は食パンを食べ終えるとベッドに横たわった。頭がかゆい、もう3日も風呂に入っていない。


男は笑った。


ふと、昨日から歯を磨いていないことに気がついた。


男は笑った。


しばらくしてまた空腹が襲ってきた。仰向けになると腹部が極端にへこんで苦しいので男は横向きになった。腹が減って眠れない。


それでも男は笑った。


情けない自分自身を笑った。


混沌とした社会を笑った。


湿気の香りを笑った。


秋の訪れを笑った。


笑った。




本当は泣きたかったのだが、涙は出なかったのだ。




男は仕方なく笑った。

ありがとうございます。


ではまたの機会に。。。

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