四章 one weak friend(8)
大量のごみ袋を処した後、一息つくことなく夕食の準備に急ぐ。
シフトには、執事さんが夕食を担当とあったが、状況によっては他の者が手助けに入ることも間々ある。時間的にもかつかつで、例によって俺も補助役に回ることになった。
「月宮さん、酒蔵に行ってこのワインを持ってきていただけますか?」
食材の下処理でてんやわんやの執事さんに、ワインの銘柄が書かれたメモを手渡される。そこには達筆な文字でシャトー・オー・ブリオンと書かれてあった。一昔前のヴィンテージもの、また俺と同い年の物であった。俺は一昔前の人間なのか、と複雑な気分になる。
「ええっと、私、ワインには暗くて……」
俺は正直にそう告げるが、執事さんは問題にしない。
「大丈夫です、酒蔵には彼がいるはずですから。わからなかったら遠慮なく訊いてやってください」
「あ、そうなんですか。わかりました」
ガースさん、いつの間に戻ってたのか。酒蔵にいるとなると、シフト通り酒蔵の掃除に勤しんでいるのだろう。
まぁ彼のことだ、またぞろ酒を引っ掛けている可能性も否定できないが。
そういえば旦那さまが今夜、俺の壮行会だかを開いてくれるようなことを朝に言っていたような気がする。
俺と同い年のワインは、そのためなのだろうか。だとしたら旦那さまったら鯔背なんだから。あるいは執事さんの意匠かもしれない。
俺は酒飲めないけど、素直に嬉しい。
そんなことを考えながら、俺は地下へと足を向ける。
玄関から一旦外へ出て、向かって左にある駐車場入り口から地下へゆるやかに下っていく。もう何度も訪れているので慣れたものである。
まだ掃除は終わっていないのか、駐車場のシャッターは開け放たれていた。こつこつ、と俺の足音が割合大きく響く。
駐車場に到着するとまず、二台の車が目に入ってきた。執事さんのブルーバードと、旦那さまのベンツが綺麗に並んで駐車されている。見ていて胸のすくような様相だ。
そんな中、美観を損なうものが広い駐車場のど真ん中にあった。ほっぽらかしにされた箒と塵取り。辺りをよく見渡してみると細かい塵がぽつぽつと散見される。かかるお粗末を残してガースさんはどこへ行ったんだろう?
そして、鼻を刺すようなこの臭気……。
「……んぐっ」
アルコールの匂いがきついなと思ったら、酒蔵の扉が中途半端に開いていた。
道理で気分が悪くなるわけだ。恐らく酒蔵にガースさんはいるのだろう。
息を凝らして酒蔵を覗いてみる。しかし、人影らしきものはなかった。
「ガースさん?」
と呼びかけてみるが返事はない。深閑として酒蔵は静まり返っていた。酒樽もすべて蓋が閉じられている。
「ガースさん、執事さんが探してますよ、大至急だそうです。出てこないとオコですよ!」
再三にわたって、脅迫めいた呼びかけを繰り返してみるもやはり返事は返ってこない。
どこか別の場所にいるのだろうと納得をつけて、俺は酒蔵を奥に進んで行き、ワインセラーにて用件をなす。
ワインセラーのドアを開けるとメモに記された銘柄のワインを虱潰しに探していった。たっぷりと時間をかけて、目当てのシャトー・ブリオンを見つけた。
そして、散らかったワインを電光石火のごとき早業で戻してゆき、酒蔵を後にする。
ガースさんは不在だったが、酒蔵の照明も駐車場もそのままにしておいた。掃除用具が出してあったということはまた戻ってくるかもしれないからだ。
地下駐車場から続くなだらかな上り坂を越えて、地上に出ると、今さらながら空が真っ暗であることに気づく。
辺りを森に囲まれているので街の光もない。一帯が漆黒に塗りつぶされている。
月は、空にあるのだろうが、それも叢雲に隠れていて見ることはできない。なんとなく寂しい気持ちになる。ふと天気予報通り、すこし冷えてきたので、急いで屋内に入っていった。
速やかに厨房に戻り、執事さんにワインをお届けする。
「これでよかったですか?」
ワインを手渡すと執事さんは目を眇めてワインのラベルを注視した。近眼なのだろう。
「そうです。お疲れ様でした」
執事さんに太鼓判を押してもらい、ほっと胸をなでおろす。
「彼はしっかり仕事していましたか?」
続けざまに執事さんに問われて、俺は少しばかり思考をめぐらす。
さっきのことを、包みかくさずに報告したほうが良いだろうか? あるいは、ガースさんはちゃんと仕事してたと嘘言ったほうが良いか? ひょっとすると、何か事件に巻き込まれてしまったのではないか? などと、取り留めのないことを。
「それが駐車場にも酒蔵にも、ガースさんが見当たらなくて……」
結局、正直に報告する俺。
執事さんが目を閉じて思案する姿勢をとった。
流星でなく執事さんがやると様になるのだなぁ、と俺がくだらないことを考える間を経て、執事さんは考えがまとまったのか、眼を開いた。
「こちらは私一人で大丈夫ですので、月宮さんは彼を探してきてください」
「あ、はい。わかりました」
俺は従順に頷き、ガースさんの捜索に向かうべく、厨房を出る。
まぁ気張らずとも、シャトー・ブリオンのように虱潰しに探せば見つかるだろう。それに大体の見当はある。
真っ先に向かうのは、使用人室。推測するに、仕事中に酒を飲んでいたら急に眠気が差してきて、仕事をほっぽって使用人室のベッドにて熟睡というところだろう。さっき俺が片づけたばかりなのに汚れてたら嫌だな。
メイド服のまだるっこさを押して階段を駆け上がり、使用人室に着くとすかさず扉を叩いた。
「ガースさーん、いるのはわかっていますよー。開けてくださいー、さもなくば突入しますよー」
刑事ドラマよろしく扉の向こうに勧告すると、勢いよく扉を開く——が。
「……あれ?」
もぬけの殻だった。俺が最後に見た、掃除を終えたばかりの状態となんら変わっていないようだ。
謎は解けないが、俺には謎を解く才能がないことが解った。
と、そこで、至極もっともなことに気づく。
玄関の靴を確認すれば、ガースさんが中にいるのか外にいるのかが容易に判断できるではないか。それに気づけなかったとは、刑事ドラマの真似事など、百年早かった。
失意のうちに階下に降り、玄関に到着、靴を検める。
この大きくて黒々と輝く革靴は、旦那さまの物だろう。駐車場には車があったから旦那さまが帰宅していることはわかっていた。その隣にあるのが執事さんの革靴。
この見慣れた、乱雑に脱ぎ散らかされた革靴は拓篤の革靴だ。踵は潰れ、そこかしこに糸がほつれ出ている。
そして、最後にこの女性物の黒ハイヒールが俺のものだ。
「……」
ということで、ガースさんは外にいることが明らかになった。
俺は女性物の黒ハイヒールを履いて、もう一度外に出る。
吹く夜風がさきよりも冷たい。メイド服はふわふわでふりふりのくせに、生地が薄いのでこのままでは身体が冷えてしまうかもしれない。だが、上着を取りに行くのはちと面倒だった。
外気から逃げるように急いで駐車場へ移動する。水を打ったようにしんとした通路を、ハイヒールが踏み鳴らして進んで行く。こつこつ、という音が不気味に響いた。
さきほどと相変わらず、駐車場には誰もいなかった。箒やちりとりもそのままだ。
続いて酒蔵に来てみたが、これまたガースさんの姿は見られない。
「ガースさん! 皆さん、探してますよ!」
一階フロア全域に聞こえるように大声で呼んでみる。もちろん、月宮マナとしての声色を損なわない範囲での声量でだ。
こうなってくると返事なんて返ってくるわけがないだろう、という気すらしてくるから不思議だ。言うもおろかだが、返事はなかった。
嘆息をひとつ残してから、地上へとえっちらおっちら戻っていく。坂道を何度も往復したからか息が上がりつつあった。
地上に出るとしばし、ため息よりも重い息を吐き続ける。ハイヒールでこんなに動くことになるとは想定していなかったので。
「はぁ……はぁ……」
しかし、こんな極限状況においても月宮マナの声を忘れないのだからつくづく俺って演技派である。アイドルとかじゃなくって、役者でも目指そうかと思った。
息が回復するまでその場に立ち尽くして、それから屋敷の周辺を当たってみることにした。
まずは、庭の一角に据えられた倉庫から懐中電灯を持ち出す。周辺を調べるとなると屋敷の明かりだけでは心許ないものがあり、森林に深入りすれば尚更のことだろう。
倉庫の扉を閉めると、俺はいよいよ本格的にガースさんの捜索を開始する。ちっぽけな明かりと、ちっぽけな道義心を持って。
◇◆◇
屋敷周辺の捜索はすぐに打ち切りとなった。人はおろか、猫一匹すらいないという結果をもって。
そもそも、近くに人の気配があれば俺だってすぐ気づくはずだ。鈍感ではないほうだし、むしろそういった気配には人一倍敏感だという自覚もある。
となると残るは、さらに外れにあるあの、森の中しかないわけだが。
森は暗闇に溶け込んでいて、懐中電灯がなければ、それが森であると認識することさえできない。風のまにまに、微かな葉ずれが俺の耳に届くことでようやくその存在を認識できる。
そして場合によっては、それが誰ぞの嗤い声にも聞こえたりするのだ。
左様なおどろおどろしい所に、果たしてガースさんが行くだろうか? ……行きそうではあるな、酒に酔っていれば。
うだうだ考えたところで他に探す所もないのだ。ならばもう、行くしかないだろう。
それに、夕食が出来上がるまでの時間を、所在ないこの鈍りきった身体を遊ばせる暇潰しとでも思えばいい。そう考えれば、いくらか楽しめるものだろう。ガースさんを探すついで、好奇心に任せてそぞろ歩き。
上着を取りに戻ろうか、とも再び考えたが、戻って靴を履き替えたりするのがしち面倒くさいのでやめておく。同上の理由で、執事さんへの報告も行かない。報連相のことは今は忘れよう。
懐中電灯のか細い光を頼りに森の中に入っていく。その、一歩目からけちが付いた。
「……ん」
スカートの裾のレースが枝葉に絡まり、無理に引っ張るとびりびり、と裂帛の音がした。懐中電灯で照らしてみると、まぁ想像通りの結果だった。スリットよろしく縦に裂けていたわけだ。
これは後で執事さんに怒られるかもしれない。
怒られるといえば陽菜からも、拓篤と和解できなかったことを責められるだろうか。諦めるにはまだ早いが、はっきり言って望みは薄い。
本当なら今すぐにでも、拓篤の許へ行って仲直りをしなければならないのに。否定的で悲観的な、理性がこうして足を遠ざけるのだ。好奇心に乗じて、もとい好奇心にかまけて、さらには自らを誤魔化して、こんな森の中に来ているのだ。
ここには、ガースさんがいるかもしれない。そしてガースさんは、俺の存在を優しく、力強く肯定してくれるから。ついつい甘えてしまう。
でもそれは、そもそも人間に共通する弱さだと思う。
「……ガースさん、いますか?」
雑念を払うように、ガースの所在を確かめるように、奥深い森の中に小さく語りかけた。が、風に騒ぐ森の声で、容易くそれはかき消されてしまう。
群がる枝葉を掻き分けて、さらに深く入っていく。
ここまでくると屋敷の光も届かない。いよいよこの懐中電灯だけが頼りの綱となった。
ガースさんに語りかけるように、押し寄せる雑念を消し去るように、線のような脆い声を絶やさないように、首筋を撫でるような恐怖を紛らわすように、俺は頻りに声を上げ続けた。メトロノームのように等間隔に。でも、脈打つ心臓はその、倍のテンポを行っていた。
とにかく無音が怖くて、ふと心を乱す森のさざめきが怖くて、ことさら呼吸を大げさにして静寂を紛らわす。
「ガースさん! 今出てくればご褒美に何でも言うこと聞いてあげますよ!」
それは今の俺が持てる最高の褒美であり、即ち、この恐怖心が最高に近いということでもある。
いつもは煙たいガースさんを、この時ばかりは彼の無神経な存在を心から欲していた。
そう、俺の好奇心はいつの間にか、恐怖心に様変わりしていた。
◇◆◇
三十分ほど歩き詰めに森の中を進んだところで、はたと気がつく。
「あ、方角……」
思わず口に出してしまうほどの、失誤。
俺は森に入るとき、どの方角から入った?
屋敷は四方八方を森に囲まれている。街に出る際は、車一台がやっと通れる程度の悪路を使うが、裏を返せば道らしい道はそこしかない。あとは、ひたすら木々が乱立するのみ。
ちなみに俺はさっき、しっちゃかめっちゃかな所から森に入ったような気がする。
辺りを見渡してみるが屋敷の灯りはどこにも見えない。六合が闇に閉ざされていて、のみならず心にまで陰りが押しよせてきたようだ。
空を見上げて月を探してみても、森の気配と叢雲がそれを邪魔して見ることは叶わない。
月は、屋敷は、どこにある?
懐中電灯の光だけでは方角は計れるに及ばないし、あまりに心細い。
好奇心に煽られたあの時の俺を殴り倒したくなったが、そんな元気すらもどこかへいってしまった。
心はまだ、鈍って動けないのに、足だけは懸命に前を走る。向かう方向が前かどうかもわからないのに。
足が意に反して地べたを蹴って走り、そして木の根に躓いてしまった。つんのめって、そのまま前から転倒してしまう。
初日、拓篤の部屋で転んだ時とは比較にならないほどの激痛が伴った。どうしようもなく、呻く。目から涙が溢れ、舞う土ほこりと混ざって頰をさらに汚す。
「……う……うぐ……っ」
痛みや不安に、地面に伏して改めて直面した。
暗く、痛く、冷たく、そして寂しい。
傷口が早く起き上がれ、とばかりに痛みを発し続ける。それに従うように起き上がると、視界からは一切の光が消えていた。
え、と間抜けにも呟く自分がいた。コミカルにも思えた一瞬の間の後、言い知れぬ黒の絶望感が俺を覆い尽くす。
あろうことか懐中電灯が、見当たらない。光が見当たらない。
失くした? 壊れた?
泡を食って俺は、文字通りの暗中模索をはじめる。擦り剥けた膝の痛みも忘れて、四つん這いになって懐中電灯を探し続ける。
しかし視界を絶たれてしまっている現状において、それは困難を極めた。
痛みの赤すらも確認できない。視界の一切が闇。
ハイヒールはヒールの部分が折れたので、いつの間にか脱ぎ捨てていた。なので足の裏が頗る痛い。ストッキングは、すでに破れていることだろう。
怪我したあらゆるところから血が流れているだろうが、暗闇のせいでその具合もわからない。自分が今どんな状態にあるのかがわからないのがまた恐ろしかった。
夜風が木々の間を抜けて、俺のうなじや首もとを不気味に撫でてゆく。さきほどよりも、風の感じ方が変わっていた。感覚的でなく物理的に。まるで久々に髪を切って、短髪にしたような……。
「……え」
嫌な予感がした。そしてその根拠を、手探りで突き止めた。それは頭にあった。
しっかと固定させたつもりだったウィッグはそこにはなく、地毛を押さえつけるウィッグネットごと、どこかに失くなってしまっていた。焦燥感か、出血過多か、貧血みたいに血の気が引いていく。
もしや転んだ時に落としたのか?
頭を触れてみると指は、間違いなく俺の地毛の感覚を掴んでいた。普段ならこちらのほうが落ち着くはずなのに、今となっては不安の要素でしかない。
再び、地べたを這って、さらに詳らかに失せ物を探る。はたと思い出したように膝の痛みが酷くなるが、それに構っている暇はない。
早いところ屋敷に戻って給仕に務めなくてはならないし、壮行会の主賓が不在では話にならない。壮行会を提案してくれた旦那さまの顔を潰すわけにもいかないのだ。
懐中電灯さえ見つかれば、その光を頼りにウィッグも探すことができるが。
いや、さっきの転倒の衝撃で懐中電灯が壊れてしまった可能性も否定できない。壊れていなければ、その光をもって懐中電灯の所在を示してくれるはずだからだ。
何は無くともウィッグだけは見つけて帰りたい。ウィッグが見つかったとしても屋敷に戻れる保証はないけれど、ウィッグがなければ屋敷に戻れないのだから。
携帯電話を自宅に置いてきたのは痛手だった。持って来ていれば、陽菜とも密に連絡が取れただろうに。こればかりは日頃の不携帯を悔やむほかない。
つらくて泣きそう、ではなく既に泣いている。
転んで、至るところを擦りむいた辺りで涙は止めどなく頬を流れていた。
そんな弱気にも負けず、這って、泣いて、這って、泣いて、這って、探る手に神経を研ぎ澄ませる。
遠くに飛んでいった可能性も考慮して、広範囲を視野に入れた。夜目にもだいぶ慣れてきたが、凡そのシルエットを捉える程度にしか視力は働いていない。
◇◆◇
さらに、長い時間地を這っていたが探し物は一向に見つからず、とうとう、木に背を預けて体育座りをしてしまう。
体力はとうに限界を超えていた。
傷は痛みを感じなくなったが、もはや感覚すらない。身体の節を動かすたび、ひりひりと張るような違和感があるだけ。それが気持ち悪くて、俺は一切の動きを控える。
それなのに、涙は依然として止まない。時折嗚咽のようなものが不随意に口から漏れては、はっとして口をつぐむ。
こうなってしまったら仕方がない。ここで、じっとして明日の朝を待つしかなさそうだ。
俺はゆっくりと瞳を閉じて、木の生え成りに背を預けて、体育座りのまま仮眠の姿勢をとる。地面に寝そべるよりはこの姿勢のほうが、幾分か休まりそうだ。疲弊もあってか、すぐさま意識が遠のいていく。ひょっとしたら俺の体力は、明朝を待ってはくれないかもしれない。
そのとき木々が、小さく、細かく、水の音を立てた。雨だった。
そういえば所によっては雨か降る、とお天気お姉さんが言っていたっけ。
暗闇に漂う雨音をぼんやりと聞いていると、次第に雨足が強くなっていった。窮状にあえぐ俺に追い打ちを掛けるような折からの雨が、髪を伝い、頰の涙を洗い流していく。
当然メイクも、たちどころに洗い流されてしまっていることだろう。今日も今日とてウォータープルーフを怠っていたはずだから。
予感が、確信に変わっていく。このままでは明日を待たずに俺は……。
ウィッグを失った地毛は、篠突く雨に濡れ、ずぶ濡れの衣服が体温を急激に冷やしていった。
しかし俺は態勢を変えようとしなければ、雨宿りできる場所を探そうともしない。
この、背を預ける木はなかなか立派な巨木でありながら、まるで雨宿りの用を成していないのだ。いまさら宿り木を変えたところで、さほど変化は見込めない。
なにより、そんな力はもう、俺には残されていないのだから。
ひたすら眠かった。




