イリスとシャルの邂逅遊戯‐図書館都市の道中
「やあやあ」
ゲームをしていると、ふと見つけた。
焼け付く、アラスカ風味の熱帯っぽい、しかし湿ったカラッとした、よく分からない情緒。
風のようなモンを感じるといえば正確か、とにかく胸がどこまでも高揚して。
そんな場所に、見つけた素晴らしいヴィジュアルの少女。
「あら、イリスじゃないの、こんなところで会うなんて、酷く運命的に奇跡ね」
流れる金髪が美しく、碧眼の色彩も透き通り深みがある。
果てない芸術の、真骨頂のような、この世ありえざるを体現する美的存在。
この感じる全て、集積した情報が、処理限界を超えて、ただただ神の様な、
”大いなる”を、兎角感じさせる巨大さ。
「シャルシャルぅ~♪、わはわはぁ、会いたかったよ~、僕の大事な人ぉ~♪」
抱きつき、その頬に頬ずりする。
「ちょ、あんた、、、
って奴は、、はふぅ、どうして、こんな、ハートフル、というよりブレイク的なコミュニケーションを唐突にぃっ」
シャルは、目を見開き、その後、口元を綻ばせて、僕の頭を撫でてくれる。
慈悲に溢れた、優しい瞳。
普段は気になる男の子にツンケンする、いわゆる心頑ななツンデレキャラを醸す彼女も、
どうやら、気心知れた友達、僕だ、には、このように接してくれるのに優越感を抱かなくもない。
「シャルぅ、僕のこと好き?」
上目遣いで、シャルの方が背が少し高い、甘えた様な、作らなくても素でロリータボイスで聞く。
「好きよ、イリスの事は、不思議ね、考えるまでも無く、わたしは好きと思うみたい」
「やったねぇ♪ 僕もシャルのこと、好きぃ!大好きだよぉ~♪」
胸元に頬を擦り寄らせて、あまえに甘えまくる。
それをシャルは、許して、二人ともが幸せな気分に浸る、これは夢のようなひと時。
それから、一通りの事をした後、僕達は、そのまま徒歩で砂地を進む。
道中はずっと雑談をしていた。
最近の流行の話、音楽、配信、アニメ、漫画、VRゲーム、アイドル、ソーシャルネット、
映画にドラマ、バラエティー、好きな男の子の話etcetc。
約何キロメートルか、歩いた先に、
二人の一時の目的地、エクストラシャペルンは存在した。
矛盾領域、第一の首都、エクストラシャペルン。
巨大な湖、日本の琵琶湖のような、そこに、その中に、巨大な島がある。
島というより、既に小大陸のような風情がある、そこが目的地。
「此処に来るのは、いつぶりくらいかな?」
「さあ、もう忘れてしまったわ」
シャルはさすらいの旅人のような横顔で、遠くの島、その威容を見るともなく眺める。
エクスト(個人的略称)は、その中心に巨大な尖塔がある、それは特徴的で一目瞭然だ、それを見ているのだろうか?
しかしシャルは、そこではなく、別のところに意識を割いている気がした、直感で察した事実。
「さて、行こうか?」
「ええ」
島に渡るには、一応のゲートがある。
長大な橋、エクスト大橋(個人的略称、正式名所は長いって第一印象で忘れた)を渡る。
「暇だし、歩きながら行こうかぁ♪?」
「そうね、その方が景色を眺められていいわ」
シャルは合わせる形で、バスやらフェリー乗り場を通り過ぎて、徒歩用の通路に二人で入る。
「うわふぁ~~!! いいねいいねぇ! なんか何でかテンション上がってきたよぉ!!♪」
眼前眼下には海のように広がる景色。
そして何より、この大橋自体が、酷く近代的で立派な佇まいなのだ。
かのレインボーブリッジのように、大橋自体が一種のシンボル的な、アレである。
全長が長く、幾つモノ枝分かれした歩道路、車用道路、その他様々な乗り物の専用外路。
大橋の下、約数十メートルには、豪華な客船から、個人用のクルーザ、釣り人の木舟まで見えるのだ。
「わはわはぁっは♪、ここはいいねぇ~、なんか、なんていうのぉ? アットホームな感じでぇねえ?」
「そうね、ここの、なんかこういうの、キライじゃないわ」
二人、僕の方から手を繋ぎ、一緒に歩く。
るんるん気分で、この時を楽しむ気だった。
突然だった、
シャルは、はしっと、僕の肩を優しく抱いて抱いて、そのまま歩くようにした。
「ふえぇえんっ、シャルぅ、どうしたの?」
「いえ、どうせだから、今しかできないから、
ほんと、どうせだから、後でイリスとやっておけば良かったと、後悔したくないから、
駄目?」
「駄目じゃないよ、むしろシャルの方から、くっついてくれて、嬉しいくらいなんだよ?」
「それは良かったわ。
私も、いつもイリスが率先して抱きついてきたり、いろいろしてくれて、快く思ってる」
見つめ合いながら、お互いの内心を吐露して、笑みが抑えきれない。
「そういえば、シャルは、どうしてアソコに行きたいの?」
今気が付いた風で問うてみる、まあ、自分と同じ理由だろうと辺りをつけながら。
エクストは、世界最大にして最高の、娯楽発信地だ。
他にも幻想領域のルナルティアなどがあるが、純粋な評価でいえば、ここが一番。
個人的批評だが、アカデミックに極める、という、
およそ常人には理解されない、ゆえに、高いステージで生きる賢者、あるいは狂人には多大に理解される、
そのような、敷居の高い感じの場所なのだ。
大して先ほど名前の挙がったルナルティアなどは、一種のテーマパークのような有様。
裾野が広く敷居が低く、悪く言えば粗製乱造、商業主義に大衆迎合の気風が強い。
もちろん全然それは悪くなくて、個人的には、ココとソコは正直、甲乙つけ難いのだが。
「図書館よ」
思索に沈んでいた頭が、シャルの一声で浮上する。
「その中でも、メサイア図書と星図詠図書に、ちょっと用事があってね」
なんでもない風に言っているが、そこへの用が、凄そうなのが伝わる、上位者の語り口調だ。
エクストは、別名、図書館都市と呼ばれるほど、図書館が多い。
中央の尖塔を囲む形で、周囲に大中小の図書館が密集、群れているのだ。
その中でも、世界図書館、世界に支部を幾つも持っている、世界的影響力の強い図書館。
それがメサイアと星図詠だ。
「禁断と神格の図書館に、どういった用なのかな?」
人が発狂する、人が神に至る、禁断図書と神格図書を、主要に扱う図書館だ。
「魔道書魔法」
魔道書を魔術回路として扱う魔法だ。
「どうやら、黄金の私を使って、より効率的な、人の神格への到達。
そして更に、禁断の、強引な発狂、そして持続的で継続的な、新たな禁忌の開拓」
わたしは(僕は己を観測者の視点で語るとき、わたしを使う)、
三千観測端末、三千の下部観測端末の上位存在として、彼女の、シャルの話を聞く。
わたしが得る、全てのリソースは、必要がなければ、ほぼ均等に全下部に配分される。
「その手助けを、するんだ?」
「ええ、人の、人以上のなにかへの進化、
成長による、世界リソースの増大、観測域の拡大、
貴方達としても、まったく悪くない、もちろん、黄金の種族としても、ね」
それは、わかる話ではあった。
しかし、リスクも承知できる話だった。
「人は進化の果てに、有り余る知識欲が満たされなければ、
つまり世界リソースが不足、枯渇すれば、駄目になっちゃうんだよ?」
「分かってる、
それでも、これ以上の停滞は、さらなるリスクを招く、そうでしょう?
ならば、、、それに、その為の、星図詠み、
人に星の図を与え、読ませ、無限のネットワーク網を、たとえば星の海を幻視させ、
神に限り無く近い、巨大な世界観を付与、あらゆる禁忌の閲覧を可能にする」
基本的に、観測者はリスクを嫌う。
最小単位でもリスクがあれば、干渉を控える、酷く消極的な態度がデフォルトだ。
なぜなら、己に莫大なメリットがあり、己の他に、世界にデメリットがある。
この場合、人間ならいい、
己にデメリットが無ければ、多少リスクがあっても、それを上回るメリットが得られる公算があるのだ。
ウマミだけを得られるのだ。
観測者は違う、
世界を愛する己自身のように、慈悲の対象として扱う、
だからリスク無しに、メリットだけを得られる事を望むのだ。
傷つく位なら、動きたくない、傷つける位なら、動きたくない。
触れることに臆病で、ずっと見てきたからこそ、直接、触れるタイミングに躊躇する。
人間は観測者に、ただの人として生きればいいと、簡単に言うだろう。
だが、それは無理、難しい。
すべからく、ほとんどの場合、観測者は上位存在だ。
干渉すれば、容易く、人間の人生を己の掌の上、観測に値しない愚物、無価値に貶めてしまう。
観測者は、己の干渉しない、己の意思の範囲外の、まじりっけ無い純粋の、観測対象を求める。
全知全能ではない、だが限り無くソレな、観測者達は。
己が神となり、世界を支配するような事は決して望まない。
そんな世界は詰まらない、自分が干渉して、一つに収束する世界など、つまらないのだ。
自分が干渉しない、無限に拡散し続ける、そのような無限の可能性を持つ世界の状態を保ちたい。
干渉するとは、己の神にも等しい意思が作用し、世界がその意思の元に可能性が限定され、収束する行為だ。
この素晴らしい、愛しき世界に、己のような矮小に世界を狭める存在が、介入してはいけないと思っている。
「さて、着いたわね」
いつの間にか、道が終わっていて、もう向こうは草地で、みどりみどり、している。
自分の中で、活性化している。
この感情は感情、世界に己を、干渉したいと、思ってしまっている。
しかし、これは正しい判断だろうか?
と、わたしのなかの三千の観測者達が、いっせいに問いかけるような感覚。
わたしは、一概に答えられない、あらゆる可能性を考慮して、
最良に次ぐ最良のタイミングで、最善手を打つことを考えなければいけない。
打ち方を間違えれば、それだけ世界を貶めることになる。
上位存在の行動、干渉は、世界の臨界、限界点を決めるに等しい行為だ。
ハッキリ言って、そんなのは一個、生命体に、背負いきれる、致命的なラインを軽々無上に超えている。
この愛する世界に対して、ここまでが限界ですと、人生の終止符を切るようなモノなのだ。
どれだけ血涙が出ても止まらない、それは悲痛で悲劇で、堪らない悔しさを何時も何時でも伴う。
「うん、そうだね」
「それじゃ、私はさっきの用事があるから、一旦わかれましょうか」
「そうだね、シャル、またね、近い内に会おうね」
「もちろんよ、それじゃあ、ごきげんよう」
行ってしまう、彼女は彼女の、上位存在としての決断を下し、世界への干渉を決定したのだ。
わたしは、どうすればいいのだろうか?
「僕の、決断は、、、」
脳裏に浮かぶのは、己の唯一上司。
「佳代先輩に、相談するしかないよね」
胸からUM端末を取り出す。
あらゆる次元のあらゆる時間、あらゆるポイントに直通直電できる代物。
わたしは設定されたリダイアルで、どこかに居る本隊であり本体に、回線を繋げた。




