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今回のマントノン家の大会には、レングストン家の道場生も何人か参加していたが、あえて主力選手は出さずに観客席から試合を見学させていたララメンテ家と異なり、
「勝敗を気にする必要はないわ。来たるべき日に備えて、マントノン家のレベルをその身で直に感じて来て」
とエーレが強く勧めた事もあって、逆に主力選手がごっそり出場していた。
やり方は違えど、ララメンテ家もレングストン家も、「マントノン家の巨大怪獣ミノン・マントノンの襲撃から、いかに自家の道場を防衛するか」、を考えていた事では変わらない。
結果から言えば、レングストン家の道場生はほとんど中盤で敗退してしまい、運よくミノンと戦えたのは二人だけだったのだが、
「全く以て怪獣です。こちらの攻撃がまるで通用しません」
その二人からは共に悲観的な感想しか出て来ない。
他の参加選手及び観客席から試合を見学していた道場生達も、実際に剣を交えなくとも、ミノンの圧倒的な強さを見た後では、「このまま人類は、あの怪獣に滅ぼされてしまうのか」、と嘆く怪獣映画の登場人物の様に、半ば戦意を失なってしまう始末。
「大丈夫よ。剣術においては、体格差が全てじゃないから。小さいなら小さいなりに、有利な点はあるじゃない」
そんな彼女達に、エーレが励ます様に声を掛ける。あたかも怪獣映画の中で、「大丈夫、まだ手はある」、と密かに開発していた秘密兵器を手にして現れる科学者のごとく。
「今日皆に、アウェイの不利を承知でマントノン家の大会に参加してもらったのは、こんな風に落ち込ませる為じゃないわ」
そこでエーレは控えめな胸をえっへんと張り、力強い笑みを浮かべ、
「レングストン家の次の大会にノコノコやって来る、あの怪獣を倒す為よ!」
来たるべき本土防衛戦に備え、戦意高揚を促した。
「はい!」
エーレに勇気づけられ、元気よく返事をする小学生達。
ちっちゃいので、必然的に対戦するのが自分より大きい相手ばかりとなってしまうのにも拘わらず、たゆまぬ努力の結果、同世代の中でも一、二を争う剣士となったエーレの姿に、彼女達は巨大なミノンに敢然と立ち向かう自分達の姿を重ね合わせたのだ。
その裏でつい、「この人、年上なのにちっちゃくて可愛いなあ」、などと思ってしまったりしていたが。