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マントノン家の当主に十三歳で就任したシェルシェは、その後、マントノン家、レングストン家、ララメンテ家の開催する全国大会への出場を全て自粛してしまい、結果として、「エディリア剣術界に突如彗星の如く現れ、小学生の部で三冠を達成した直後に、公式試合から姿を消した天才美少女剣士」として、一つの伝説を残す事となる。
無論、シェルシェ本人はそんな伝説化は望んでおらず、そのままずっと剣術一筋に打ち込んでいたかったであろう事は、大会で実際に剣を交えたエーレとコルティナには、痛いほどよく分かっていた。
ホラー映画に出てくる不死身で無敵な殺人鬼に、「誰も殺すな」と言っている様なものである。不謹慎な例えだが、本質はかなり近い。
二人が慰めの言葉を掛けようとすると、不死身で無敵な殺人鬼は不敵に微笑んで、
「お気遣いは無用です。私の代わりと言っては何ですが、妹のミノンが今年から出場する予定ですから。マントノン家だけでなく、レングストン家、ララメンテ家の全国大会にも」
と、新たなる殺人鬼の登場を予告する。
「もちろん、レングストン家はミノンの参加を歓迎するわよ」
「ミノンが出るなら話題性十分だから、小学生の部の大会会場は大きくしないとねー」
エーレとコルティナも、マントノン家の新人殺人鬼に興味が出て来た模様。ただしこの二人は中学一年生、片やミノンは小学五年生なので、今年と来年はまだ同じ大会で戦う事は出来ない。
「一緒に戦える再来年の大会が楽しみだわ。学年が二つ違うのがハンデになるでしょうけれど」
エーレがそう言うと、
「ふふふ、ミノンは歳こそ二つ下ですが、身長はもう私達を超えてますよ。二年後にはもっと大きくなっているでしょうね」
シェルシェが笑って答える。
「あの子、また大きくなったの?」
「ええ。最近成長が著しくて」
それを聞いてエーレは、ものすごく羨ましそうな顔をする。
「エーレは可愛いから、いつまでもそのままでいてねー」
「絶対嫌!」
コルティナのからかう様な言葉に、思わず声を荒げて抗うちっちゃいエーレだった。




