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「じゃあ、シェルシェは、もう全国大会には出ないのー?」
マントノン家の屋敷の応接室で、シェルシェを訪ねて来たララメンテ家のふわふわ令嬢ことコルティナが、少し残念そうに聞く。
「ええ、主宰者が試合をする訳にはいきませんから。当主という立場上、他家の全国大会にも、去年の様に軽々しく出向く事は出来なくなりましたし」
シェルシェが少し申し訳なさそうに微笑んで返答する。
「残念ね。シェルシェに勝ち逃げされたまま終わりだなんて」
同じくマントノン家を訪れていたレングストン家のツンデレ令嬢ことエーレが、そう言ってため息をついた。
「だよねー。ここは一つ、掟破りの当主出場で、観客の意表を突くのはどうかな?」
コルティナが本気とも冗談ともつかぬ事を言う。
「ふふふ、それが出来れば苦労はしません。それに言い訳がましいかもしれませんが、まだ就任して間もない見習い当主として、色々やらなければならない事が山積みなのです。選手として準備を碌に整えられないまま大会に臨んでも、不完全燃焼に終わってしまい、逆に観客をしらけさせてしまう事でしょう」
「そうね。戦うなら、お互い万全を期した状態でないと意味がないものね」
エーレもシェルシェに同意する。
「あーあ。こうなるとウチの大会会場を、もう少し小さい所に変更しなくちゃ。『三家令嬢大激突!』って煽れば、大入り間違いなしだったんだけど」
「ふふふ、まるで怪獣映画の宣伝ですね、コルティナ。ですが、『二大令嬢大暴れ!』でも、かなりのお客さんを呼べると思いますよ?」
「どんな映画よ。それに大会は私とコルティナだけでやるものじゃないのよ」
コルティナ、シェルシェ、エーレの三家令嬢は笑い合った。
「でも実際の所、今回から中学生の大会に出る訳だから、一年生の私達は二、三年生相手にかなり不利な立場になるわね。下手をすれば、『二大令嬢』が序盤で敗退する事だって十分にあり得るかも」
ひとしきり笑った後で、エーレが言う。
「ええ、その通りです。マントノン家の道場生も中学生ともなれば、かなり手強いものと心してください」
「うふふ、シェルシェ、何だか特撮番組に出てくる悪の組織の幹部みたい。『今度の怪人は強いぞ』ってヒーローを脅して来る感じの」
「その後で大抵負けるわね、その怪人」
コルティナとエーレが、おどけた口調でシェルシェの言葉を混ぜっ返す。
「ふふふ、たとえ負けるとしても、正直その怪人が羨ましいです」
シェルシェもおどけてはいるが、どこか寂しげな様子であった。
「自ら現場に赴いて、思う存分戦う事が出来るのですから」




