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「お分かり頂けましたでしょうか、おじい様、おばあ様」
ほんの数か月前まで生きていた亡き愛娘の動画を、突然心の準備もないまま見せられ号泣する祖父リッシュと祖母ポリに、その愛娘の面影を色濃く残す孫娘シェルシェが、まるで心霊動画を紹介するナレーションの如き言葉を、優しく微笑みながら掛ける。
「ご覧の通り、お父様はお母様を最後まで深く愛していました。そしてその残された貴重な一分一秒を守る為に、ビーネは懸命にお母様をサポートしてくれていたのです」
その言葉は、動画に感情を揺さぶられまくった祖父母の心に、何の抵抗もなく浸透していった。
動画が終わり、しばらくしてからようやく落ち着きを取り戻したリッシュは、シェルシェに向かって、
「お前の父親も、ワシらと同じ悲しみを背負っていたのだな。あらぬ疑いを掛けてしまい、本当にすまなかった」
すっかり浄化された様子で詫びを入れる。
「いいえ、事情を知らなければ、疑心暗鬼に囚われるのも無理はありません。近しい親族でさえこうなのですから、まして何も知らない他人はあらぬ疑いを掛けたまま、お父様とビーネを誹謗中傷する事でしょう。そんな心なき声から二人を守る為、そして、お母様が大切に思われていたマントノン家の名誉を守る為に、今後は私が当主を継ぎ、お父様達には、静かな環境で隠居生活を送ってもらう事にしたのです」
「女のお前が、その年で、当主に?」
「はい。全てはマントノン家の為です」
リッシュは、孫娘をしげしげと眺め、
「そうか。生前のユティルは、後継ぎとなる男の子が出来ない事を大層気に病んでいたが、まさかお前がこういう形で当主を継ぐ事になるとはな。何が起こるか分からぬものだ」
ゆっくりと立ち上がり、シェルシェの元に歩み寄って、その両肩に手を置き、
「重責を背負う事になり、さぞや大変だろうが、何か困った事があればドゥマン家に遠慮なく助けを求めるがいい。お前はワシの大切な孫娘なのだからな」
と、しみじみとした口調で申し渡す。
「はい、ありがとうございます、おじい様」
ポリも立ち上がって、シェルシェの側に歩み寄り、リッシュを脇にどけて孫娘を優しく抱き締め、
「当主になっても、無理をしてはいけませんよ。体だけは大事になさい」
「はい、ありがとうございます、おばあ様」
シェルシェも、祖母を優しく抱き締め返す。
こうして、母方の祖父母の説得に成功したシェルシェは、マントノン家に戻り、事の次第を父方の祖父クぺに、
「向こうのおじい様とおばあ様については、これで大丈夫です。ドゥマン家は今後もマントノン家の力になってくださる事でしょう」
と、笑顔で報告した。
「そうか、よくやってくれた。しかし」
報告を聞き終えたクぺは複雑な表情で、
「娘に先立たれてまださほど月日が経っておらず、悲しみが十分癒えていない老夫婦に、その娘の生前の動画を見せて動揺させ、そこに付け込む様に洗脳、もとい言いくるめてしまった感があるな。これではまるで――」
「タチの悪い霊感商法、ですか?」
シェルシェが笑顔のまま、クぺの言葉の後を引き継ぐ。
「自覚はあるのか」
「はい。ですが、お父様とお母様の名誉を守る為です。少しばかり強引な手段に訴えるのもやむを得ません」
そう言い切る孫娘の笑顔に、クぺは悪魔の影を見た。
私の可愛い天使が、一体どうしてこうなった。