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派手な父子ゲンカをやらかした翌日の晩、当主という立場を忘れて向こう見ずな再婚に突っ走ろうとするスピエレに対し、総力を挙げて断固阻止する構えを取るクぺは、書斎で具体的な対策を練りながら、それでも息子の方から折れてくるのを待っていた。
場合によってはスピエレを監禁し、その間に相手の女を説得して中絶手術を受けさせねば。
そんな人として最低な犯罪ギリギリの強硬手段について、良心をひどく痛めつつも、「マントノン家の為には、非情にならねばならぬ」、などとあれこれ考えている所へ、シェルシェが会いにやって来る。
そう、この可愛い孫娘の為にも、身分違いの出来ちゃった結婚など認める訳にはいかないのだ。
スピエレとユティルの間に女の子しか産まれなかった以上、いずれシェルシェが婿養子を迎えて産む男の子が次期当主となる可能性が高い。
その障害となり得るものは、今の内に全て排除しておく必要がある。
「何か用かね、シェルシェ」
嶮しい表情を和らげて微笑みかけながら、クぺが聞いた。
「突然お邪魔して申し訳ありません、おじい様。お父様の再婚について、ちょっとお話ししたいのですが」
シェルシェの言葉に、また少しクぺの表情が嶮しくなる。
「お前もスピエレから聞いたのか。しかしながら、再婚を認める訳にはいかん。この話はなかった事にしてもらう」
「でも、私はお父様がビーネと再婚する事に賛成です、おじい様」
シェルシェはそう言って、にっこりと微笑んだ。
クぺは深いため息を一つついてから、
「シェルシェ、お前はまだ子供だ。理想と現実の違いを理解するには若過ぎる。今、お前の父親がやろうとしているのは、名門の当主と一介の使用人という、身分違いも甚だしい結婚だ。そんなわがままを許してしまったら、マントノン家はいずれ破滅してしまう。マントノン家のみならず関係者全てを巻き添えにしてだ。当主の身勝手で愚かな一時の愛故に、そんな深刻な事態を招く訳にはいかないのだ」
優しい口調でシェルシェに言い聞かせる。
しかしシェルシェは仮面の様な微笑みを崩さず、
「別に私は、お父様とビーネとの純愛に理想を夢見る程子供ではありません、おじい様。むしろ冷静かつ現実的に考えた上で、マントノン家の破滅を防ぐ為には、この再婚を認める方がよいと考えているのです」
あまりにも淡々と言うので、おじい様はちょっとドキッとしちゃった。




