◆7◆
「お前は生まれる家を間違えたのかもしれぬ」
かつてマントノン家の前々当主クペ・マントノンは、自分の跡継ぎである長男スピエレ・マントノンに面と向かって、しみじみとこう言った事がある。
子供の頃からどこかぼうっとした所があり、武芸者に必要な闘争心と、名門の当主に必要なリーダーシップに乏しく、勉学も頑張ってようやく中の上程度。
肝心の剣術の腕前は、どんなに厳しく稽古を付けても、普通の門下生の中で少し抜きん出る程度で、公式試合で上位に行った試しがない。
何事にもそれなりに頑張ってはいる。だが、それが結果に繋がらない。
スジが悪いと言うか要領が悪いと言うか、スピエレの教育に当たった者達は皆、
「いくら仕込んでも駄目な子が、世の中にはいるんです」
と、匙を投げるのだった。
もちろん人類の歴史を紐解けば、何をやっても駄目だが、それでも名君と呼ばれた者もいるにはいる。
「あの人は、自分が支えてやらなくては」
と、周囲の保護欲をかき立てるだけの人間的魅力の持ち主がそれであるが、スピエレにはそれもない。
内外から、
「次期当主は現当主に、顔以外はちっとも似てないボンクラだ」
などと悪口を言われても、当のスピエレは怒る気力もなく、
「そんな事言われても、しょうがないものはしょうがない」
と、困り顔でため息をつくばかり。そんな態度が保護欲をかき立てるどころか、却って周囲をイラッとさせてしまう。どうしようもないと分かっているだけに。
「いっそ、お前が次期当主になってくれたら、万事丸く収まるんだけどなあ。剣の才能はあるし、頭もいいし」
スピエレが、弟のエフォールに弱音を吐くと、
「丸く収まるどころか、お家騒動の火種になるのは目に見えてます。次期当主は長男が継ぐ事は絶対覆りません。現実から逃げずに、当主に相応しい才覚を身に付ける様、一層努力してください」
この出来のいい弟は、怒鳴りたいのをこらえて、努めて冷静にボンクラ兄を諭すのだった。