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「それじゃあ、私達もそろそろ行くね。来年の大会はよろしくー」
悪者達に誘拐される子供の様にレングストン家の道場生達に拉致されるエーレの姿を見送ってから、コルティナはシェルシェの方に向き直り、暇を告げる事にした。
「ふふふ、楽しみに待っていますよ。マントノン家の総力を挙げておもてなしさせて頂きます」
優しい微笑みが逆に怖いシェルシェ。
「シェルシェの場合、『おもてなし』と書いて『みなごろし』と読ませるのね。でも、次回はそう簡単に殺られないよー。ホラー映画の続編は、色々な意味で迷走すると相場が決まってるし」
「どこまでも、人をホラー映画の殺人鬼呼ばわりしたいんですね。いいでしょう、マントノン家には私の他にも手強い怪物がたくさんいますから、続編ではさらにスリルを味わえると保証します」
「でも、調べた限りで一番怖いのは、やっぱりシェルシェだよ。だから続編の主役もシェルシェで決まり。でも、続編が出れば出るほど、不死身で無敵な殺人鬼の倒される確率も上がるのよねー」
「ふふふ、自分を超える強敵に倒されるのならば、不死身で無敵な殺人鬼もさぞ本望でしょう。どうか一人でも多く、そんな強敵と巡り会いたいものです」
「この映画の殺人鬼は、単にたくさん人を殺す事より、強敵と戦いたいって気持ちの方が強いのかな?」
「武芸者として、それ以上の喜びがありますか?」
「んー。その辺はホラー映画も色々、殺人鬼も色々な様に、武芸者も色々だと思うけど」
「ふふふ、色々な浮世のしがらみを忘れて、ひたすら試合に没頭出来る強敵の存在はありがたいものです」
「小学生が言うセリフじゃないね、それ」
そこで二人は笑い合った後、来年の大会での再会を約束しつつ、シェルシェはマントノン家の祝賀会へ、コルティナ達は残念会という名目のお茶会へと、それぞれ会場を後にした。
しかしその後、とある事情により、シェルシェ・マントノンは、三家いずれの公式大会にも出場する事はなかったのである。