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「せっかくのお誘いだけど、遠慮させて頂くわ。私達もこの後、道場に戻ってミーティングをする予定なの」
エーレはそう言って、ニヤリと笑い、
「今日の大会について、皆でじっくり分析する為にね」
少し離れた所で待っている、レングストン家の道場生達の方をちらと見た。
「そーなんだ、残念。エーレの所は、みんな真面目だねー」
コルティナが、ふわふわとした口調で言う。
「ふふふ、祝賀会より、そちらのミーティングの方が俄然面白そうですね。出来れば私も参加したい位です」
シェルシェが微笑みつつ、冗談めかしてはいるが、おそらく本音を漏らす。
「企業秘密につき、部外者はお断りよ。じゃ、今日はこれで。来年の大会を楽しみにしてるわ」
不敵な笑みを浮かべたままエーレは踵を返し、金色に輝くツインテールを揺らしながら、仲間達の元へ戻って来た。
「待たせたわね。さ、行きましょう」
エーレが出発を促したものの、何やら仲間達の様子がおかしい。
「道場へ行く前に、皆で寄りたい所があるんだけれど」
そんな様子のおかしい一人が、エーレに怪しく微笑みながら提案した。まるで、飼い主がペットの愛犬を騙して予防接種に連れて行く前の様な感じで。
「どこへ行くの?」
「レンタルビデオ店」
その一言で、エーレは何か不吉なモノを察し、
「きょ、今日はやめない? これから大切なミーティングがあるし」
「そのミーティングに必要な資料を借りて行くの。大丈夫、悪い様にはしないから」
「な、何の資料よ」
「主にメンタルトレーニング用」
「ホラー映画じゃないでしょうね」
「怖いの?」
「こ、怖くなんかないわよ!」
「よかった。『エーレが怖がってたらやめよう』って皆で言ってたの」
嘘だ。罠だ。嵌められた。
内心怯えつつ、周囲を裏切り者達にがっちり囲まれながら、粛々と連行されていくエーレ。
「うふふ、仲がいいよねー。レングストン家の道場の人達も」
その様子を遠くから眺めていたコルティナが、呑気に呟いた。
沖に流されている人を見て、
「あんなに遠くまで泳いで、楽しそうだねー」
と、その深刻な状況を把握出来ていない海水浴客の様に。




