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あわや決勝戦の第三ラウンドに突入するかという危惧をよそに、シェルシェとコルティナは親しげに会話を交わし始めたので、ほっとするララメンテ家の道場生達。
そんな周囲の心配などおかまいなく、ふわふわとした口調でシェルシェとの話を続けるコルティナ。
「これから私達、近所の人気スイーツ店で残念会やる予定なんだけど、シェルシェも来ない?」
「ふふふ、残念会に優勝者を招いて何をする気です?」
「そう言えばそうだねー。被害者家族の会に、殺人鬼を招待する様なものかしら」
「ちょっと不謹慎な例えですね。それといい加減、殺人鬼から離れてください」
「残念会と言っても、スイーツ食べて今日の大会の感想をあれこれ言い合う、気楽なお茶会みたいなものだよ。あ、でも、シェルシェが奢ってくれるって言うなら、喜んで優勝祝賀会に名義を変更するけど」
「ふふふ、あなたには敵いませんね、コルティナ。それも面白そうですけれど、私はこの後、ささやかな祝賀会に参加する予定なので、そちらの名義はそのままにしておいてください」
「残念。負けた悔しさを、高いモノを奢らせて晴らそうかな、と思ったのに」
「それは晴らさないで、次回の試合の機会までとっておいてください。さらに一層強くなった皆さんと戦える日を、今から心待ちにしています」
そう言って微笑むシェルシェの目は、少し怪しく輝いていた。
やっぱり根はホラー映画に出てくる不死身で無敵の殺人鬼だわ、このお嬢様。
そう思っても、もちろん道場生達はコルティナと違い、面と向かって口に出さないだけの常識を持ち合わせている。
しばらくして一同が会場を出ると、正面玄関の前でさらにもう一人別のお嬢様が待ち構えていた。
金髪ツインテールのちっちゃい女の子こと、エーレ・レングストンである。
「三冠制覇おめでとう、シェルシェ。いい試合だったわ」
「ありがとう、エーレ。あなたとも戦いたかったのだけれど」
声を掛けられたシェルシェが、微笑んで応じる。
「今回は第三者としてじっくり見学させてもらう事にしたの。そこから得た研究成果は、次回のマントノン家の大会で活かすつもり」
「期待して待っていますよ。来年の大会にはコルティナも参加する予定ですから、いよいよ三家の令嬢揃い踏みが実現しますね。一大会で実質三冠制覇となる訳です」
「実質だけじゃ物足りないわ。来年はマントノン家だけでなく、ウチとララメンテ家の大会も制覇して、名実共に三冠を頂くわよ」
「ふふふ、それはこちらのセリフです」
一見穏やかなやり取りの裏に、激しい火花を散らすエーレとシェルシェ。
「ねーねー、エーレもこれからウチの残念会に来ない? 美味しいスイーツ屋さんで、楽しいお茶会をする予定なんだけど」
そこへ、空気を読まないコルティナが、ふわふわと割って入る。
ウチのお嬢様ったら、本当にもう。
ララメンテ家の道場生達は呆れるのを通り越して、つい笑ってしまった。