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「マントノン家の不死身で無敵な殺人鬼強過ぎ。頑張ったけど殺られちゃったー」
インタビューを終え、抵抗虚しく全滅エンドを迎えたララメンテ家の道場生達の元に戻って来たコルティナは、ふわふわとした口調でそう告げた。
「だからそういう言い方は、シェルシェさんに失礼だからやめなさい」
道場生の一人がツッコミを入れ、皆が笑う。
「けれど、そのシェルシェさんを、あと一歩の所まで追い詰めたんだから、コルティナも大健闘だったよ」
「うふふ、ありがとー。でも、みんなが頑張って、少しずつ殺人鬼さんの気力と体力を削いでいってくれたからこそ、あそこまで追い詰められたんだよ。チームプレイの勝利だね」
「勝ってない、勝ってない。完膚無きまでにやられてるし」
「一時の勝ち負けにこだわるのは、狭い了見じゃないかなー」
「何かいいこと言ってるけど、敗北した事実から目を背けないで」
「確かに今回は負けちゃったけどね。この敗北から得た教訓を活かして、また次回に頑張ればいいんじゃないかな。そうすれば、あの不死身で無敵な殺人鬼だって、いつかは倒せるはず」
いい事を言ったつもりで、ふわふわなドヤ顔をしてみせるコルティナだったが、予期に反して道場生達からの反応は薄かった。発言に対する賛同もツッコミも来ない。
何故か皆押し黙って、心配そうな表情でコルティナを見ている。
まるで、ホラー映画で、怪物がヒロインの背後に迫っているのに気付かないシーンを見ている観客の様に――
「ふふふ、誰が不死身で無敵な殺人鬼ですって?」
その声に振り向くと、コルティナの背後で当の殺人鬼がにっこり笑っていた。
ものすごく気まずい空気が道場生達の間に流れたものの、コルティナはそんな空気を全く読まずに、
「きゃー! マントノン家の不死身で無敵な殺人鬼ー!」
と、大げさに驚いて見せる。
「ふふふ、いい加減にしないと、流石に怒りますよ?」
シェルシェさんが本当に怒っているのかどうかは分からないけれど、それ以上にウチのお嬢様が何を考えているのかさっぱり分らない。
いや、実は何も考えていないのかもしれない。
二人のやり取りを見ながらそう思う道場生達だった。




