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試合終了後、防護マスクを取り、殺人鬼の形相から営業用スマイルに戻ったシェルシェと、いつでもふわふわした笑顔のコルティナは、抱き合ってお互いの健闘を称え合った。
遠目には、美少女剣士二人が何やら言葉を交わしている、美しくも感動的な場面にしか見えなかったが、
「うふふ、シェルシェにあんなに激しく攻められたら、体が持たないわー」
「ふふふ、誤解を招く様な発言は、マスコミの前ではくれぐれも控えてくださいね、コルティナ」
「明日の朝刊に、今こうして抱き合っている写真が、『熱愛発覚!』のキャプション付きで掲載されたりしてー」
「ふふふ、何を言っているのかよく分かりませんが、多分剣術とは何の関係もない妄言ですね」
肝心の会話の内容がコレなので、感動もぶち壊しである。
「ちょっと位センセーショナルな方が、お互い宣伝になるじゃない」
「品格を大事にしない宣伝は、却ってお互いの流派のイメージを損ないます」
「エーレといい、シェルシェといい、真面目だねー。多少羽目を外さないと、笑いは取れないよ」
「ふふふ、ララメンテ家はいつからお笑い芸人の道場になったのですか」
「でも、お笑いと剣術は相通ずるものがあると思わない? 笑いを取りに行くのと、一本を取りに行くのとは、タイミングが肝心な点で」
「外したら大ダメージを負う点でも似てますね。興味深いテーマですが、今ここであえて話題にする事でもないでしょう」
「業界一位のマントノン家と違って、ウチみたいなマイナー流派は、楽しくやらないと人が来ないからねー」
そこでようやくコルティナは抱擁を解き、
「ともかく優勝おめでとう、シェルシェ。あなたのおかげでご覧の通り、大会は最後まで大盛り上がり。ララメンテ家にとっても、計り知れない宣伝になったわー」
いつものふわふわした口調で、感謝の言葉を述べた。
「こちらこそ、ありがとう、コルティナ。商業的な裏事情はさておき、あなたとこうして全力で戦えた事を誇りに思います」
シェルシェもそれに笑顔で応える。
「来年は、マントノン家の大会にこっちから乗り込むからねー。エーレも一緒に」
「ふふふ、三家の令嬢が一同に会するとなれば、さらに多くの観客を収容出来る会場を用意しなければなりませんね」
「その後は、レングストン家とウチの大会への参加もよろしく。お互い来年はビッグなビジネスチャンスの年になりそうだねー」
もちろん五万の観衆は、試合を終えた直後の小学生のお嬢様二人が、こんな欲にまみれたビジネストークをしていたとは露にも思わない。
その後のインタビューでも、シェルシェとコルティナは、それぞれそつなく応対した為、事実は完全に闇に葬られた。