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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第二十章◆◆ 華やかな時代の終焉と新たな宣伝材料の模索について

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637/638

◆637◆

 寄り合い所帯サークル「全国格闘大会推進委員会(仮)」改め非営利法人「全エディリア格闘連盟」が発足してしばらくすると、国や地方自治体に申請していた助成金と補助金に加え、主にシェルシェと関わりがある個人や企業からの寄付金によって、それまでのちまちました活動費とは比べ物にならぬ多額の金が一挙に入り、一見、順風満帆なスタートを切ったかに思われたが、


「人間、手にした事のない大金を目の前にすると、理性が欲望に負けておかしくなってしまう事が多々あります。夢見がちな武芸者達が金と言う名の魔物の誘惑に惑わされぬ様、くれぐれも注意しなければなりません」


 シェルシェと言う名の魔物は決して気を緩めず、引き続きこの組織を裏から支配、もとい親身になって支援する決意を新たにした。


 一方、現ナマではなく帳簿上の数字ではあるが、今まで手にした事のない大金を目の前にして、


「すげえな、コレ……俺達が一生働いても届かない金額だぜ」

「つーか、これだけあれば一生遊んで暮らしてお釣りが出るわ」

「数字を見てるだけで、夢が広がって止まらねえよ」


 早速おかしくなりかけている全エディリア格闘連盟の役員の面々。


「横領で捕まる奴の気持ちが今なら分かる。『真面目に働いてりゃいいのに、バカじゃねえの』ってよく思ってたが」

「ああ、これだけの大金が目の前にあると、『真面目に働く方がバカだ』って気分になるよな」

「同じバカなら金持ちの方が断然いいに決まってらあ」


 そんな風に役員会議が不穏な話題で盛り上がって来た所へ冷や水をぶっかける様に、各々の携帯のメール着信音が一斉に鳴り響く。


「やべ、シェルシェさんからだ!」

「いつもいつもタイミングが良すぎるだろ!」

「心臓に悪いわ、マジで!」


 そのメールのタイトルは、


『過去二十年間の、逮捕者が出たエディリアの非営利法人の不祥事の事例についてまとめました。今後の運営の参考にして頂ければ幸いです』


 というものであり、


「ひいいっ! やっぱり、絶対俺達監視されてる!」

「遠回しに『裏切り者は許さん』って警告してる様なもんだろ、コレ!」

「すいません、すいません、シェルシェさん! 今のはほんの冗談ですから!」


 夢見がちな武芸者達を心の底から震えあがらせ、一気に現実に引き戻した。


 寄り合い所帯サークルだろうと非営利法人だろうと、シェルシェの支配下にある以上、バカの様に真面目に働くしかないという運命に変わりはない。

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