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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第二十章◆◆ 華やかな時代の終焉と新たな宣伝材料の模索について
633/636

◆633◆

 エディリア剣術界の未来に危機感を覚えたのか、大会終了から数日後、


「もし必要とあれば、私の引退時期はもっと先に延ばします」


 マントノン家の屋敷の執務室へ珍しく説教の呼び出し以外で赴いたパティが、姉にして現当主のシェルシェにそう提言した。


「いえ、あなたもエーレ、コルティナ、ミノンに倣って、一般の部に二年出たら潔く引退しなさい。『興行収入を維持する為だけに大会に出場し続ける剣士』などと呼ばれたくはないでしょう?」


 机の向こうから苦笑いと共に却下するシェルシェ。


「別に構いません。むしろ『大道芸人』らしくて、私のキャラに合っていますし」


 そう言って不敵に微笑むパティ。


「第二のコルティナを目指すつもりですか?」


「あの人が道化を演じるのは趣味ですが、私はプロです。仕事として道化を演じるのです」


「自身の望む望まざるに拘わらず、目的の為に笑い者になる覚悟があると?」


「はい、お姉様と同じです。全てはマントノン家の為に」


「ふふふ、血は争えませんね」


 そう言って目を閉じ、椅子の背に寄り掛かってしばし沈黙した後、突然ホラー映画の死体よろしく、カッ、と目を見開いて、


「それでも、引退を先延ばしにする必要はありません。あなたのマントノン家を思う意志は尊重しますが、目先の利益に釣られて安っぽい道化に成り下がってしまっては、却ってマントノン家のブランドイメージを損ないかねません」


 さりげにコルティナをディスりつつ妹にダメ出しをする当主。普通ならここで話が終わる所だが、


「せめてヴォルフが全国大会でデビューする四年後までは、安っぽい道化を演じてでも大会の勢いを保持してあげたいのですが」


 幼い弟への愛が姉への恐怖を上回ったのか、執拗に食い下がるパティ。


「ヴォルフがあなたの七光りが無ければ輝けない凡人だと言いたいのですか?」


 ベクトルは違えど幼い弟への愛ならば妹に引けは取らないシェルシェ。


「可愛い弟に最高の舞台を用意してあげたいだけです! お姉様だってヴォルフの愛らしさを全エディリア国民に向けて完璧な演出でお披露目したいでしょう!」


 姉バカを発動するパティ。


「そんなチャラそうなお披露目は断固阻止します。次期当主に必要なのは愛らしさより強さです。まずは小学生の部で三冠制覇を狙うのです!」


 対抗して姉バカを発動するシェルシェ。


 それから二人は本来の趣旨を忘れて、いかに弟にして次期当主のヴォルフをプロデュースして行くかで激しく議論を戦わせ続けたが、


「ともかく、あなたの引退を引き延ばすのは無用です。商業的な戦略はこちらで検討しますから、あなたは残りの三年間を武芸者として心置きなく戦い抜きなさい」


 先に我に返ったシェルシェが強引に話を元に戻し、


「分かりました。何か私に出来る事があれば遠慮なく言ってください。どんな汚れ仕事でも引き受けます」


 ヴォルフ以外の事がどうでも良くなって来たパティも、あっさり提言を引っ込める。


「そんな仕事をやらせたくはありませんが、どうしてもそれが必要な時は改めてお願いしましょう」


 一応パティの面子を立てて話をまとめようとするシェルシェだったが、


「それはそれとして、大会デビュー直前にヴォルフの写真集を出版するというのはどうでしょう? あどけない美少年が大好きな女性客のハートを鷲掴みにする事請け合いだと思うのですが」


 そんな気遣いを無視して全力で自ら面子を潰しに来るパティ。


 にっこりと微笑んで立ち上がり、


「そこに正座しなさい、パティ」


 抜き身の真剣を片手に地獄の説教を始めるシェルシェ。


 これまでにこの部屋で幾度となく見られたお馴染みの光景であった。

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