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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第二十章◆◆ 華やかな時代の終焉と新たな宣伝材料の模索について

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◆629◆

 膨大な数の招待客へのおもてなしだけでも手一杯だったのに、遊園地の宣伝用写真の撮影の為にアトラクションを制覇する作業まで追加され、もはや結婚式というより急ぎの仕事が入った下請け工場並に忙しくなる新郎新婦。


 もっとも新郎の方は夫婦で一緒に何かするのを楽しんでいるフシがあり、あくまでも仕事と割り切って耐えている新婦に余分なストレスを与えていた。要するに、いつものエーヴィヒとエーレである。


 何とか夫婦でアトラクションを乗り切って接客業務に戻ると、いつしか日も暮れて夜の帳が下りる頃合いとなり、遊園地全体がイルミネーションでライトアップされてロマンチックな雰囲気を醸し出す中、


「ああ、もう少し頑張れば、この忙しさから解放される」


 つい、終業時刻間際のライン工の様な事を考えてしまうも、


「すみません、ライトアップされたバージョンも撮りたいので、もう一度アトラクションに乗って頂けませんか?」


 カメラマンからの無慈悲な提案に、ちょっと崩れ落ちそうになるエーレ。


 そんな花嫁の腕を取り、


「では、参りましょうか。見知らぬ人と入れ替わり立ち替わり話すよりは、アトラクションの方が休めますよ」


 ノリノリな笑顔で引っ張って行く花婿エーヴィヒ。


 一応、お疲れ気味の花嫁に気を遣ってくれているらしいのだが、向かう先がえげつないループだらけの巨大ジェットコースターなのであまり説得力がない。 


「夜景がきれいですね」


 ゆっくり車両が上昇して行く中、そんな呑気な事を言うエーヴィヒ。すぐに急下降からの怒涛の疾走が始まり、夜景どころではなくなるのだが。


 次に向かったコーヒーカップでは、


「出来るだけ勢い良く回してください! ウェディングドレスのヒラヒラが遠心力で軽やかに翻る様に!」


 そんなカメラマンの要望に応えるべく、全力でハンドルを回すエーヴィヒ。目が回るエーレ。


 続いてフリーフォールで地上百メートルの高さから自由落下。一瞬血の気が失せるエーレ。


 その後も宇宙飛行士の訓練並に気力と体力を消費しそうな派手なアトラクションが続き、こんなに遊園地が楽しくないと感じた事はないエーレ。

 

 それでも剣術で鍛えた精神力で楽しそうに振る舞い、国民的マスコットとしての意地を見せたが、最後に本日三度目の観覧車に乗り込むと、その反動で、


「意識が落ちそうだわ。うっかり寝ちゃったら起こして、エーヴィヒ……」


 限界に達したのか、おねむな幼児になってしまうエーレ。


「分かりました」


 微笑んで了解し、幼児の肩を抱き寄せるエーヴィヒ。それで安心したのか、


「ああつかれた……もうけっこんしきなんか、二度とやりたく、ない……」


 おかしな事をつぶやきつつ、スヤァと眠りに落ちてしまうエーレ。


「私もです」


 嬉しそうにそう言って、観覧車が一周する間中ずっと、その安らかな寝顔を見つめながらエーレの頭を優しくなで続けるエーヴィヒ。


 この微笑ましい新郎新婦の姿は別のゴンドラからしっかり撮影され、遊園地ウェディングプラン案内用のパンフレットの表紙を飾る事になり、


「どうして起こしてくれなかったのよ!」

 

 エーレを羞恥の極みに追い込むのだがそれはまた後の話。

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