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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第二十章◆◆ 華やかな時代の終焉と新たな宣伝材料の模索について

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628/638

◆628◆

 巨大観覧車がゆっくり一周し、ちっちゃな花嫁とそれを祝福する親友二人を乗せたゴンドラが地上に近付くと、


「あっという間でしたが、エーレの記念すべき門出を祝して、こうして三人水入らずで楽しく話せた事は、一生忘れられない思い出になるでしょうね」


 我が子を見つめる母親の様な優しい笑顔でまとめに入るシェルシェ。

 

「私も一生忘れないわ。観覧車が一周する間中ずっと、祝福と称してあなた達二人が私をからかって楽しく遊んでいた事をね!」


 そんな母親の認知の歪みを正そうと抵抗するエーレ。


「うふふ、幸せな人はからかってあげるのが礼儀だよー。不幸な人は慰めてあげるのが礼儀な様にねー」


 いつものふわふわとした笑顔でしれっと自分の所業を正当化しようとするコルティナ。


「礼儀も度が過ぎればタダの無礼よ!」


 騙されるものかと詐欺師に吠えるエーレ。


「ふふふ、親友同士の気楽な無礼講もここまでです。ゴンドラを降りれば、エーレはアウフヴェルツ家の花嫁として恥ずかしくない立ち居振る舞いに戻らなければなりません」


「言うなれば、無邪気な少女時代との決別の時だねー。私達はもう少し気ままな独身生活をエンジョイする事にするよー」


 威厳と呑気という両極端な二人の親友に見送られ、


「そうね、頑張るわ。今日は本当にありがとう」


 軽く笑って礼を言い、遊園地のスタッフが開けたゴンドラのドアから一足先に、ちょこん、と地上に降り立つちっちゃな花嫁。


 乗り場から少し離れた所で待っている花婿エーヴィヒに気付いて、そちらへ歩み寄り、


「お待たせしました、エーヴィヒ」


 お澄ましモードで微笑む花嫁。


「おかえりなさい、エーレ。では行きましょうか」


 優しく手を取り、子犬を散歩に連れて行く様に花嫁をエスコートする花婿。その向かう先は――


「え、もう一回乗るの?」


 なぜか観覧車乗り場に引き返そうとする花婿に、「お散歩に行かないの?」、と戸惑う子犬状態の花嫁。


「はい、今度は私と二人だけで」


 笑顔で答える花婿。


 ちょっと照れて赤くなった花嫁が何か言う前に、


「お二人共、遊園地の宣伝に使う写真なので、出来るだけ楽しそうにお願いしますねー!」


 乗り場の方からコルティナが、甘いムードをぶちこわす素っ頓狂な台詞を投げて来た。


「は?」


 よくよく見ればその傍らには、エレガイル像の上の誓いのキスを撮影したカメラマンも控えている。


「ええと、これって、つまり……」


 恐る恐る花婿に問い掛けると、


「はい、追加の撮影です。『やっぱり、色々なアトラクションを楽しむ新郎新婦の写真も欲しい』と、コルティナさんから急遽お願いされたのですが、聞いていませんか?」

「聞いてないわ!」


 何の悩みも無さそうな笑顔の花婿の返答に、一瞬で甘いムードから醒める花嫁。


「せっかくの遊園地ウェディングなんだし、二人で楽しんで来てねー!」


 さも良い事をした風な表情でこちらの仕事を増やそうとするコルティナに、


「やかましいわ! 業界の回し者がああっ!」


 と、怒鳴り返したいのをかろうじて耐えるちっちゃな花嫁。

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