◆626◆
相手が今日の主役である花嫁でも自重する気などさらさらなく、
「はい、そんな訳でやって来ました観覧車。今からこれに乗ってエーレの結婚式という最高のショーを見下ろしつつ、『人がゴミの様だ』と言って和みたいと思いまーす」
「和むか! 招待客に失礼でしょ!」
などといつもの様にしょうもない事を言って反応を楽しみながら、巨大観覧車の下までエーレを引っ張って来たコルティナが、
「そういうのがすごく似合いそうな人が、あそこにいるけどねー」
と指差す方を見やれば某王家の血を引くグラサンの大佐、もといドレープを強調したライトブラウンのラップワンピース姿のシェルシェが、乗り場のすぐ近くで報道陣に囲まれ、営業用スマイルで対応している所だった。
「花嫁さんをかっさらって来たよー。ゴンドラに監禁して遊ぼー」
あらぬ誤解を招きそうな言い回しでコルティナが呼び掛けると、シェルシェはそれを機に、
「ふふふ、花嫁が多忙な合間を縫って駆けつけてくれた様なので、これで失礼します」
悠々と囲みを抜け出して親友二人を出迎え、報道陣にエディリア剣術御三家をそれぞれ代表する美女達の貴重なスリーショットを提供してから、ゴンドラに乗り込み、
「御三家の友好関係を世間にアピールするまたとない機会ですからね。親友の結婚式を利用する形になってしまって、少々気が引けますが」
気が引けている様子など微塵もなく、むしろ「計画通り」といった感じで微笑んだ。
「遊園地の広告の写真を撮る為に、巨大ロボの掌の上で何度も誓いのキスをやらされたのに比べれば、大した利用じゃないわ」
力なく笑うエーレ。
「むしろエーレにとっては御褒美だったよねー」
「やかましい!」
隙あらばからかおうとするコルティナに吠えるちっちゃな花嫁。
「そんなエーレに、私から結婚祝いのプレゼントー。サイズが大きめだから、ここには持ってこれなかったけどー、家に送っておいたからねー」
「ありがとう。一体何?」
「特注のからくり仕掛けの置時計だよー。一時間ごとに人形が出て来るやつー」
「鳩時計みたいな?」
「いや鳩じゃなくて、エーレとエーヴィヒさんに似せた二体の人形が出て来るのー」
「まさかその人形に、『ポッポ、ポッポ』って言わせるんじゃないでしょうね」
「そんな事させないよー。時刻の数だけ鳴る鐘の音に合わせて、チュッチュッとキスを繰り返すだけー」
「そんな恥ずかしいモン作るな!」
「『末永く夫婦円満であります様に』、って願いを込めたんだよー。家の中の目立つ所に置いて使ってねー」
「使えるか! 物置の奥にでも封印しておくから!」
そこで二人のやりとりを見ていたシェルシェが割って入り、
「ふふふ、私も夫婦円満を祈願した結婚祝いを家の方に送っておきましたよ」
何か企んでいそうな雰囲気で微笑む。
「お礼を言う前に一応聞いておくけど、何をくれたの?」
イヤな予感しかしないエーレ。
「ティーセットですよ。マットな質感のストーンウェア製で、淡い青を基調にエーレとエーヴィヒさんの肖像を白い浮き彫り風にあしらった特注品です」
「ああ、結構有名なブランドのあれね。でもオチは読めたわ。どうせその浮き彫り、私とエーヴィヒがキスしてる所なんでしょ!」
「ふふふ、違いますよ。エーレがエーヴィヒさんに飛びついて頬にキスしている所です」
「余計タチが悪いわ! ってか、それって元ネタは婚約内定祝いのケーキに使った捏造写真?」
「ええ、だから、『ご主人様、スキスキ大スキー!!』、という台詞も浮き彫りで入ってます」
「わざわざ浮き彫りで入れるな! 由緒あるブランドに何てモン作らせてるのよ!」
「確かに客をもてなすには、ちょっと恥ずかしいかもしれませんが」
「『ちょっと』じゃなくて、滅茶苦茶恥ずかしいわ!」
「エーヴィヒさんと二人で寛ぐティータイムに愛用してくれれば幸いです」
「何の罰ゲームよ! 少なくとも、私は一秒たりとも寛げる気がしない!」
真っ赤になってキャンキャン吠える花嫁と、それをからかって遊ぶ親友二人を乗せ、巨大観覧車はゆっくりと回る。