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婚約を公表してしまえばこっちのもの、愛し合う若い二人は誰に気がねする事なくイチャつき放題かと思いきや、結婚式の準備でひたすら忙しくなりそれどころでなくなるのが現実である。
ましてや名家同士の結婚、さらに加えて花嫁が国民的マスコットという超有名人もなると、各方面から錚々たる肩書を持つ招待客が多数集まる為、普通の結婚式より遥かに気を遣う要素が多い。
そんな一大イベントを若い二人だけで一から十までお膳立てする事はほぼ無理ゲーであり、特別にプランナーチームが編成されて代わりにその任に当たる事となる。
そのプランナーチームの代表として、さも当然の様にレングストン家に計画案を持って来たコルティナに対し、
「何であんたが結婚式まで仕切るのよ!」
言っても無駄だと思いつつ、一応抗議するエーレ。
「もちろん、大切な親友の晴れ姿をプロデュースする為だよー。こう見えても業界では、ちょっとは名の知れたイベントプランナーだからねー。大丈夫、悪い様にはしないよー」
ふわふわとした笑顔で異議を受け流すコルティナ。
「業界の闇を垣間見た気分だわ。どうせまた私に変な事をやらせて楽しもうって魂胆でしょう!」
「うん、そーだよ」
「否定せんのかい!」
「うふふ、冗談、冗談。ともかく、今日は大まかな計画案を持って来たから、説明するねー」
「エーヴィヒにはもう説明したの?」
「と言うより、エーヴィヒさんも作成に関わってるよー。メールで意見をやり取りしながら出来上がったのが、この計画案ってわけー」
「私そんな話聞いてないんだけど!」
「『愛する妻にこれ以上余計な負担はかけたくありません』、って言ってたよー。優しい旦那様だねー」
「ま、まあ、いいわ。とりあえず、その計画案とやらを説明してくれる?」
エーヴィヒの心遣いにちょっとにやけそうになりつつも、平静を装うエーレ。
「では、お手元の資料をご覧くださーい。まず式場ですが、首都エディロの遊園地エディロランドを一日貸し切ろうと思いまーす」
「エディロランド? あんな都心部の大きな遊園地を一日貸し切りって、かなり使用料がかからない?」
「ものすごくかかるよー。そこで、エーレに一肌脱いでもらいまーす」
「イヤな予感しかしないんだけど。まさか、エディロランドのテレビCMに出ろとでも言うの?」
「近いかなー。去年は実物大エーレマークⅡをエディロランドの広場に展示して、すごい客寄せになったでしょー?」
「かなり盛況だったわね」
「アレに味をしめた遊園地側から、『今年はぜひ「小型軽量戦機エレガイル」で』、って要望があってねー、今、実物大エレガイルを極秘で製作中なのー」
「極秘にする必要あるの、それ?」
「極秘開発は巨大ロボのロマンだよー。で、エーレの結婚式はその展示期間と被っててー」
「あー、分かったわ。そのロボットの像がある広場で私達の結婚式を大々的にやって、遊園地の宣伝に利用しようって魂胆ね」
「そー、その代わりショバ代はタダにしますよ、ってことー。どうかなー?」
「いい案だと思うわ。そもそもアウフヴェルツ社はエレガイルのメインスポンサーだし、こちら側にも宣伝効果があるじゃない」
「そう言ってくれると嬉しいよー。それと今回のエレガイル像は、横に設置された階段を上がって、掌の上に乗れる様になっててねー。撮影スポットにする予定なんだけどー」
「楽しそうね。子供が喜びそう」
「そこでエーレとエーヴィヒさんに誓いのキスをして欲しいのー」
「は?」
「エレガイルで結婚式が襲撃される話があったでしょー。あのラストシーンを二人に再現して欲しいんだよねー」
「ちょ、ちょっと待って。アレ、まだ引っ張るの?」
「結婚式なんだから、皆の前でキスするのは恥ずかしくないでしょー? それが祭壇の上か巨大ロボの掌の上かってだけの違いだよー」
「いや、どっちもかなりこっ恥ずかしいんだけど! って言うか、巨大ロボの方が絶対恥ずかしい!」
「キスシーンの写真は、エディロランドの宣伝ポスターにして、全国に貼りまくるからー」
「やめんかあああああ!」
「エーヴィヒさんは乗り気だよー」
「あんのバカ婿がああああ!」
その後散々ダダをこねて抵抗するも、結局「アウフヴェルツ家と『劇場版エーレマークⅡ』でお世話になった製作スタッフさん達の為」と言いくるめられ、泣く泣く承諾してしまうちょろいエーレだった。