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本来優勝インタビューとは、苦しい試合を最後まで頑張って勝ち抜いた選手が頂点に立つ無上の喜びを吐露する感動の場なのだが、
「もう皆さん、『劇場版エーレマークⅡ』はご覧になりましたかー? いやー、公開初日からかなり経ちましたが、勢いはまだまだ止まりませんねー」
何物にも縛られない歩くフリーダムことコルティナは、その感動の場を利用して試合とは全然関係ないロボットアニメについて面白おかしく語り出し、会場をドッカンドッカン沸かせまくっていた。
「今年もコルティナの漫談が聴けて本当にラッキーだった」
「流石、ララメンテ家が誇るエディリア屈指の漫談家」
「漫談家なのに剣の腕も立つんだからすごい」
そんなコルティナの話芸に酔い痴れて、色々と間違った認識に陥る観客達。
一方、惜しくも敗れて優勝インタビューの場に立てなかったエーレは試合場の片隅で、
「コルティナにとってはこれが優勝の喜びの表現なのね。私にはただの奇行にしか見えないけれど」
全身全霊を懸けて戦った親友のふざけたロボ漫談を聴きながら苦笑い。
「ま、主義や思想は人それぞれだし、理解は出来なくても尊重はすべきだわ」
そんな風に大人ぶって悟り澄まし、自身にとってもコルティナにとっても最後となる大会の余韻に浸るエーレの耳に、
「えー、まだまだ話したい事はたくさんあるんですがー、時間も押して参りましたのでー、そろそろシメに入らせて頂きたいと思いまーす! 『劇場版エーレマークⅡ』抜きには語れない今年の大会に相応しいシメと言えば、もちろん『ツンデーレコール』ですよねー!」
突然不吉極まる単語が飛び込んで来た。何が「もちろん」だバカ野郎。
「さあ、皆さんご一緒に! ツンデーレ! ツンデーレ!」
「ツンデーレ! ツンデーレ!」
ふわふわ魔女ことコルティナに煽動された観客達は一斉にツンデーレコールを始め、会場は高揚した一体感に包まれた。
「優勝したのは私じゃなく、あんたでしょ!」
そんなツンデーレことエーレの至極真っ当な抗議も、大音量のツンデーレコールにかき消されて行く。
こうしてエーレにとってもコルティナにとっても最後となる大会は、色々と間違ったまま盛大に幕を閉じた。




